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ちぐはぐバンドのラブポップ  作者: 釈 余白
第一章:バンド結成は紆余曲折

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2.孤高の優柔不断

 やっぱり俺にはベースしかない。一人でベースを弾いているのが性に合ってるんだ。別にバンドなんてやりたくないさ。孤高のベーシストとして生きて行ってやる。


 そう、今日俺は三日ぶりにバンド追放となった。いや、今回は違う、俺のほうから辞めてやったのだ!



『ドンドン、ドンドンドン』


 閉じたカーテンの向こうで何が起きているかは明らかだ。なにか事を起こされる前に対処しなければと、俺は観念して窓を開けた。


「だから壁を叩くなって言ってんだろ! またガラス割ったらどうすんだよ!」


「だって龍君いつも無視するから…… 機嫌直してさ、こっちでお茶しようよ」


「そんな…… 言い方しても…… 絶対お断りだからな。何言われてもバンドには戻らないぞ」


「でも龍君のベースがないとリズム隊がいないのよ? 楽譜描きなおしてソロパート入れて見せ場作ったし、ね? お願い」


「…… いやいやいや、ダメだダメだ! だいたい自分の学校でもないのに学園祭に出ようと考えたのが間違いだったんだ」


「そんなことないよ、他の子もやってることだし。 その辺は緩いから安心していいんだよ?」


「何言ってんだ、だからってなんで俺が女装しなきゃいけないんだよ! そんな条件飲めるわけないだろ!」


「だってうちの学校ったら外部参加には寛容だけど男女交際禁止だもん。龍君と一緒にステージ立つにはこれしかないのよ。紅、どうしても龍君としたいの……」


 俺がいつもお前の思い通りになると思うなよ。女装なんて絶対にお断りだ。いつもいつもわがまま身勝手言いたい放題に振り回され続けて来てもうこりごりなんだ。


 それでも今、紅がどんな顔しているのかが気になって仕方がない。そっと横目で様子を伺うと、やつの瞳に涙が浮かんでいるのが見えてしまった。


 ちくしょう、コイツはいつもこうだ。泣けば俺が言うこと聞くと思ってやがる。確かに今まではある程度わがままを聞いてきたのは確かだ。でも今回ばかりは無理すぎる。


『ぱらっぱっぱっぱー ぱらっぱっぱ~♪ ピッ』

「もしもし、ナオちゃん? うん、そうそう、やっぱり無理だって言われちゃったの。

 ―― ううん、そこはそのままにしておいて。せっかく出来た後に無理行ってベースソロ追加してもらったんだもん。うん、うん、そう、うん、ごめんね、ありがと」


 なんだか妙な沈黙で時間が過ぎていく。紅のやつなんでなにも言わないんだ。


「あのさ…… ソロパートって後から入れたのか?」


「うん…… 曲ができた後だったけどナオちゃんに無理してもらっちゃった。だから無駄にはしたくないの。でも気にしないで、当日は打ちこみで流すから……」


 ちくしょう、コイツなんて顔してやがる。これじゃ完全に俺が悪者にしか見えないじゃないか。


「あのさ、やっぱり打ち込みは興ざめすると思うんだよな。せっかくのソロパートなわけだし……」


「でも紅は龍君が嫌がってるのに無理強いしたくないの。だから盛り上がりに欠けたりブーイングされたりしても我慢できるから気にしないで」


「気にしないで、か…… もっとはっきり言ったらどうだ、俺のベースなんて必要ないって」


「何言ってるの? 龍君のベースを超える音なんてないよ? だから一緒に…… 本当はずっと一緒に、同じ曲を奏でていきたいの!」


「ぐ、ぐ、具体的にはどういうところがいいんだよ…… いっつもけなしまくってるくせに調子いいこと言いやがって」


「具体的に? そんな難しいこと言われても紅わかんないよ。でもね、龍君のベース聴いてるとお腹の奥がドキドキしちゃうの」


 そこは胸がドキドキとかじゃないのか? まあベースは低音だから腹の中でもおかしくないかもしれないが…… 紅のやつは時々こうやってわけわかんねえこと言いやがる。まったく、天才肌ってのは面倒で仕方ない。


「それじゃ打ち込みの参考になるかもしれねえし少しあわせてみるか? その…… 俺のベースとお前のピアノだけだけど……」


「いいの!? それじゃスタジオの鍵とってくる! だから龍君もベースの用意してすぐ来てね」


「おう、わかったよ。もう遅いから手早くやっちまおう」


 俺は窓から頭を引っ込めて準備に取り掛かった。とは言ってもスタンドに置いてあるベースを持って隣の家まで行くだけだ。


 大切なベースを無造作につかんだ俺は、跳ねる様に階段を駆け下りていった。



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