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ちぐはぐバンドのラブポップ  作者: 釈 余白
第二章:ちぐはぐバンドは動き出す

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11.心構えは万全に

 結論から言ってライブは大盛況だった。初のライブハウス出演だった俺たち『紅龍』を見に来ていた客なんて一人もいなかったのに、終わってから物販は無いのかと聞かれるくらいで驚いてしまった。


 紅はちゃっかりと『剛田龍魚店』のTシャツを持ってきており、これがバンドT替わりだと言って売りつけていたし、CDは次のライブまでに用意するとふれ回っていた。


「なんか思ってたよりもみんなノッテくれて良かったね。龍君も大分押さえてくれたみたいで良かったよ。紅ちゃんが暴れたら台無しだもんね」


「ほんとナオには気苦労ばかりかけて申し訳ない。俺としてはもうちょいハジケたかったけど十分満足できたな。でも三、四曲目はソロあったからバーンとやりたかったよ」


「私はいいと思うけど紅ちゃんがねえ…… 頭振ったりジャンプしたりしなければ平気だと思うんだけど……」


「そうなのか? 先に演奏だけなら問題ないって言ってくれたらいいのに。でもヘドバンとかが嫌だなんて今まで一度も聞いたことねえぞ?」


「えっ!? そうなの? それはアレだね…… 仕方なかったね」


 ナオは奥歯に物が挟まったような言い方をしたので少し気になったが、直後に主催のリーダーから声をかけられて中断することになってあやふやのままになった。


 今日の出演バンドは五つ、その中で高校生は俺たちだけだったし、初ステージなのに一番手だったから心配していたらしい。


「いやあ、高校生で初ライブと聞いてたからさ。最初って客がまだ揃ってないから気にしてたんだよ。全然盛り上がらなかったらどうしようかってね。でも半分近く入ってたし演奏も良かったし、ほんとホッとしたよ」


「自分たちで集客する力が無いのに気を使ってもらってすいませんでした。また機会があれば声かけてください。曲はまだこの四曲しかありませんが、間に合えばまた作ります。本日は大変お世話になりありがとうございました」


「いやあ高校生とは思えないほどしっかりしているね。こちらこそまたお願いしたいよ。直近だと十二月三週目の木曜にクリスマスライブを予定しているけどどうかな?」


「ええっと、十八日ですね。メンバーと相談してからご連絡します。今のところは大丈夫だと思いますが、学校の予定を確認してからお返事させて下さい」


 こう言うやり取りがあるとナオはとても頼りになる。物腰は柔らかくて常識人だし頭もまわり頼もしい限りだ。


 俺は別の学校で予定を把握できてないし物事は感覚的に捉える方だからこう言うのは不向きだ。


 紅はまともに会話が通じないことが多く不安しかない。トモは口が悪くて直情型、春香は無口でぶっきらぼうときてる。


 そんな風にナオに任せっぱなしで済ますわけにもいかず、ライブが終わって数日後には今後の予定について擦り合わせをすることにした。はずなのだが、あまり捗ったとは言えない。


「ナオ、俺は十八日どころか十二月は全部空いてるぞ。うちの高校は十一月末が期末試験だしな」


「高校生が十二月に予定ないなんて威張れたものじゃないわね。まあ私も平日は空いているから問題ないわ」


「紅も龍君が誘ってくれないから予定ないよ。でもクリスマスイブはデートしたいなぁ。もちろん今年も誘ってくれるでしょ?」


「何言ってんだよ、去年は四人で紅ママのディナーショーに駆り出されたじゃん。今年は春香も犠牲になってしまえ!」


 トモの言う通り、去年のクリスマスは紅の母親に命令されて高級ホテルへ連れていかれ、全員タキシードで給仕係をさせられたのだ。


 あの時は俺以外全員男装させられていて、それはそれで目の保養にはなった。紅は相変わらずふわふわしていて役立たずだったが、ナオとトモはテキパキ働いていてカッコよかったことを思い出す。


 ここで俺は妙案を閃いた。全員の衣装を揃えるなら全員男装にすればいい! 最高のアイデアを閃いた俺はすぐに母さんへメッセージを送る。


 これで恥をかかずに済むだろうと思っていたが、あっさりと却下のメッセージが返ってきた。


『全員男装とあんたが女装、どっちがステージ映えすると思う? そんなの考えるまでもないでしょ?』


『自分の息子が女装するのはいいのかよ。下手すりゃ学校でも笑いもんだぜ』


『全然かまわないわよ? 私は娘が欲しかったし。いっそのこと学校も女子制服にすれば?』


 俺はこれ以上の交渉を諦めた。なんで俺の周囲にいる女性陣はめちゃくちゃなやつが多いのか。


 小さいころから紅には振り回されっぱなしだし、母さんはそれを一緒に楽しんでいた。紅の母親の花子さんは家にあまりいないが、何かにつけて手伝いに呼び出してくるのだ。


 それに引き替え男連中はだらしない。父さんは母さんの尻に敷かれているし、紅の親父さんも似たようなもんなだけでなくうちの母さんにも言いなりだ。こう考えると母さんが一番の元凶な気がしてくる。


 母さんと花子さんは幼馴染だと聞いている。その母さんの同級生だった父さんと花子さんは中高でバンドを組んでいたが、花子さんが音大に進んだことで解散、その後は別の道へと進んだのだ。


 プロのベーシストとなった父さんが、所属事務所に出入りしていた紅の親父さんと仲良くなり、その後花子さんへ紹介し、母さんの暗躍によって結婚に至ったという経緯らしい。


 簡単にまとめると、この四人の人生において母さんがやたらに登場し、節目節目で決定的なナニカをしている節がある。


 そんな猛者に俺が太刀打ちできるわけもなく、いつもいいようにあしらわれ言われるがまま従い続けるだけだった。結局今回も押し切られることになり、ゴシックパンクなスカート衣装を着てステージに上がることはくつがえせなかった。


 しかも本番までに慣れろと紅たちに言われて、練習中もずっとスカートを履くことを強要されている。


 こうなるとホントに気にならなくなってくるもので、ライブ前日を迎えた頃にはスカートをはいていることすら忘れていた。



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