田村職員は朋子さんのお気に入り
去年の11月です。田村君は、パート職員になり半年がたとうとしていました。
彼は疲れていました。
朋子の顔を見ることが辛かったわけです。
半年前は蝋人形のようだった朋子も、今では笑みを浮かべるおりがありました。朋子が笑みを浮かべる、それは、田村君に食事介助してもらう時でした。
ほかの人にしてもらうと、なかなか食が進みません。介助するのにも時間がかかります。田村君だと、機嫌よく食べるではありませんか。
自然、田村君が介助してくれるよう、同僚にも頼まれます。
「田村職員は朋子さんのお気に入りだから」みたいにいう者の現れる始末です。
でも、田村君は、嬉しいとばかりは言えませんでした。なにせ彼女は、未婚の母。
朋子は未婚の母である ...... 酔っ払い同級生の申すごとくでした。結婚しないまま子を産めば、未婚の母です。
ただ、それだけでもありませんでした。
朋子がなついてくれればくれるほど、田村君は後ろぐらく感じました。
彼女に近づくつもりで、ホームを探させた。介護員を装い、潜りこんだ。そのあと、居すわった。何も知らない彼女を、思い通りの距離から眺めている。
これをこそ暗黒な類の行動と呼ぶべきで、犯罪めいてさえいはしまいか。
良心を騙し黙らしつづけられなくなった11月末の日曜日、勤務を終えた田村君は、一足先に駅へ向かって改札口に立ちました。
そこへ、朋子の介助を終えた伯母様がやってきたのです。




