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満足していました
前々から、田村君の耳には、折に触れ、ほうぼう、あちらこちらより、聞こえてくることがありました。
「朋子は海外にいる。」
「生涯独身らしい。」
「修道院に入ってひっそり暮らしている。」
「一度入ったら二度と出られない修道院だという。」
「どうも亡くなったようだ」等、
断片的な情報ないし噂を耳にするのでした。
2025年4月の、狂人のメンタルライフに入る以前の田村君は、上記情報ないし噂を材料にして、一人の物語を創作しました。そうして満足していました──
ほかに決めた相手があると俺を袖にした女は、結局その相手とも結ばれることなく、哀れな、一人の尼の生涯を、異国の丘でとじた。
事実は違いました──
亡くなっていませんでした。生きていました。
海外にいませんでした。神奈川県内にいました。
修道院に入ったのではありませんでした。住宅型有料老人ホームに入ったのでした。
そこでひっそり暮らしていました。一度その病にかかれば、二度と治らない病に侵されて。介護サービスを受けて、ひっそり暮らしていました。
生涯独身なのかは、まだ明らかでありませんでした。
けれど、その人の入浴介助を終えた今、その人が子供を産んだ事は明らかでした。




