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『ブレイヴイマジン』第3章 クライメット⑦


          *   *   *


 ハルバードルズは、街並みはフレイリオスに似ているものの、あのように背の高い層楼や沢山の店はなく、民家やアパートなどが多い街だった。やはり、東京二十三区とその周辺の郊外を連想させる。

 シェリカ、マティルダ、アスタークの住んでいたアパートは、街の中央の方にあった。3LKの間取りで、居間は七人が入るには少し手狭かと思われたが、皆は何も言わなかった。俺たちは、マティルダに語った話をアスタークとシェリカにも聞かせたが、話が終わるとシェリカは膝を抱えて震え始めた。

「じ……じゃあ、もしあそこであたし、捕まっていたら……ギデルが、ブレイヴフォースを使っていたら、あたし、操られてあいつに憑依していたって事?」

「ぞっとするよね、イマジンの意思を強制的に操るなんて……」

 シルフィは、彼女の頭をそっと撫でる。シェリカは幾分か緊張を和らげたように、心地良さそうに目を閉じた。彼女は現世代で最年少というだけあり、姉貴的性格の強いシルフィは可愛くてならないようだ。シェリカ自身も、シルフィには懐いているらしい。

 シェリカは体の強張りを解き、今度は一転して毅然とした口調で言った。

「あんな吸血鬼みたいな男と契約するのは嫌。やっぱり、アスタークのした事は間違ってはいなかったよ。シルフィさんたちだって、来てくれるのがもう少し遅かったらって思うと……」

「でも確かに、僕もやりすぎた。しかも、ティーザーの歩き回るアクスフェルトの森で……僕に何かあったら、困るのはマティルダなのに。ごめんなさい」

 アスタークは、皆に向かって頭を下げる。殊勝な態度に、マティルダは「私こそ」と返した。「お兄ちゃんの前で、魔法を練習とかして……」

「いや、マティルダには助けられたよ。あれも、練習の成果?」

「分かんない。今まで全然上手く行かなかったのに、今回は何かが違ったのかもしれない。咄嗟の事で、見極めたり考えたりする余裕はなかった。もしかしたら、ツインクリングタクトの力が……休眠期間? みたいなものを終えて、復活したのかもしれない。そういえば私たちだって、お母さんがこれで魔法を使ったの、見た事ないもんね?」

「また検証は必要かな。でも、その前に」

 アスタークは、また俺たちの方に向き直る。

「ブレイヴフォースのお話、もう少し聞かせてくれませんか?」

「そうそう、話の途中。……それでね、ブレイヴフォースには秘奥義があるの。それが多分、イマジンにとっては最も危険な事なんだと思う。ケント君、あの技の名前、何ていったっけ?」

 ユリアが俺に尋ねてくる。脳裏に、彼女を襲った赤黒い渦と紫色の稲妻が()ぎり、俺はやや顔を顰めながらそれを口にした。

「オフランド・オウ・ネアン?」

「それ! 憑依させたイマジンから力を吸収して、収束により虚無、無属性の力を生み出す。平たく言えば、搾取よね。イマジンの生命にすら、危険を及ぼす程の」

「で、でも……」シェリカは、絶望的な情報からなけなしの可能性を拾い集めるように、控えめに発言した。「イマジンを殺すのは駄目だって、あいつらも知っているはずじゃあ……」

「もしかすると」

 アロードは目を閉じて考え込んでいるようだったが、そこで微かに片目を開けて言った。

「あいつら、(ことわり)を騙すって言った。ブレイヴにイマジンが憑依しながら、イマジンだけが死ぬなんてケースは聞いた事もねえ。でも、もしかするとその場合、憑依は解除されねえのかもしれねえな。それで、既にブレイヴが、イマジンと契約した者の居る世界に、新しい奴は派遣出来ねえって、理が判断するんだとしたら……」

「何にせよ、奴らがイマジンの力を得てする事は、世界の破壊、本来イマジンが持つ(さが)とは全く正反対のものって事でしょ」

 ユリアが締め括ると、マティルダは唇を噛んだ。

「許せないです、シェリカだってヒトで、私たちとは家族の関係なんですよ。これ以上、あいつらの好きにはさせたくない……もう、大事な人が奪われるのは終わりにしたいです」

「私たちもよ。……マティルダ、アスターク、あなたたちは、持っていれば誰かを守れたかもしれない力を得ようとして、魔法や剣を練習したのよね。それで今度は、シェリカを守ってあげて。そして、私たちに協力して欲しい。ブレイヴフォースを阻止して、彼女にフォームメダルを取り戻す作戦に」

「分かりました」「勿論ですよ」

 兄妹は、間髪を入れずに肯いた。シェリカはまた瞳を潤ませ、感激したかの如く二人を背後から抱き締める。俺は、彼らは本当に家族なのだな、と思った。

「よし、それじゃあ二人の協力も得られたところで、作戦立案に行こうか」

「作戦っていっても、まずあのゼドクって奴じゃね?」

 ユリアの宣言に、早速アロードが挙手をした。

「あいつ、実質一人でヴェンジャーズ三侯を二人も相手にする気だぜ。今まではずっと一人でヴェンジャーズと戦ってきたみてえだけど、今度の危険度はそんじょそこらの幹部とは比べ物にならねえ。厄介な事になる前に、さっさとあいつを見つけて共闘するしかねえだろ」

「それもそうなんだけどね」ユリアは、人差し指をぴんと立てる。「ゼドク、あれじゃ自殺行為よ。幾ら孤高とか、流浪とか格好良い事言ったって、死を恐れないなんて綺麗な言葉で、私は容認出来ない」

「まあ、目的は同じなんだし? ゼドクだって、殊更(ことさら)にあたしたちを攻撃しようとは思わないでしょ。共闘に持ち込んでしまえば」

 シルフィが言うと、ユリアは

「じゃあ、どうやって彼を見つける? 彼らもずっと、あのままアクスフェルトの森をうろつき回るとは思えないでしょ」

 と言った。俺も、考えながら意見を出してみる。

「ヴェンジャーズが逃げたのは、シェリカの捕獲をゼドクに邪魔されたくなかったからだろう。もうじき、この街にギデルたちも来ると思う。俺たちが備えてそれを迎え撃てば、ゼドクと合わせて挟み撃ちに出来る」

「まあ……確かにそれが妥当かなあ」

「何かユリア、煮え切らないね?」

「ちょっとね……私、ゼドクには彼らの事、あんまり任せたくなくて」

 私情だけどね、と彼女は付け足す。俺はすぐに気付いた。

 ユリアは、俺がゼドクの事を報告した時もレーナの事を心配していた。敵だとは分かっていても、やはりこの間直接顔を合わせた事で、彼女との和解について可能性が捨てきれなくなったのだろう。

 俺も、レーナには酷い目に遭わされた。しかし、ゼドクの態度を思い出すと、どうも危険なものを感じてしまう。

 ──俺は、己が指針を以て貴様を、悪と断罪する!

 ゼドクは確かに、世界の為に戦っているのだろう。だが、それは俺たちも同じであり、ユリアとレーナのように因縁や思惑を持つ者たちもその戦いに参加している。その事情を鑑みずに介入する事には、何処か独り善がりなものを感じてしまうな、とは俺も思う。

 それに、庁舎を襲ったという話がずっと引っ掛かっていた。まだ、彼に対して完全に気を許す訳にも行かないのかもしれない。

「……それなら」

 俺は、アロードたちが更に何かを言う前に、ユリアの気持ちを汲んでそう言った。

「ヴェンジャーズ二人がハルバードルズに来るのは確かだ。それを、俺たちだけで迎撃しよう。それなら、問題ないだろう?」

「えっ、じゃあ作戦は……」

 アスタークが、拍子抜けしたように言う。

「いいよ、それは。あいつらはシェリカのメダル強奪以降、街には来ていないんだろう? 何か特別な仕掛けをするような時間があるとは思えないし、それがあったとしても俺たちには分からない。なら、ユリア。この前の、ヴァレイの時と同じだよ。あの時だって、レーナと戦ってメダルを取り戻すってだけで、それ以上の事は考えていなかった。それでも、俺たちは目的を達成出来たじゃないか。……仲間さえ、居てくれれば」

「ケント君……」

 ユリアは、眩しそうに俺の顔を見つめた。

「何かケント君、前向きになった? 自分の意見、ちゃんと言葉に出来るようになったし、リーダーシップも結構あったんだなって……頼りになるなあ」

 言われ、俺はまた気付く。

 他人の気持ちを慮ったり、皆をまとめようとしたり、そのような事は確かに今まで俺が出来なかった事だ。

「そ、それじゃあ……」

 俺は、もう少しそのまま自分を試してみようと思った。

「マティルダ、アスターク、シェリカ。こんな俺たちで、不安もあるかもしれないけど、もう俺たちはヴァレイのメダルを奪還している。だから、信じて欲しいんだ。きっと、いや、絶対に大丈夫だって」

「勿論、信じていますよ」

 マティルダは、同意を求めるように兄を見る。アスタークも、大きく肯いた。

「だって皆さん……ブレイヴですもんね」

「……ああ!」

 俺とユリアは顔を見合わせ、どちらからともなく微笑んだ。

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