表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/118

『ブレイヴイマジン』第2章 ウィンド⑨


          *   *   *


「トランスフォーム!!」

 俺とユリアが叫びながら窪地に飛び込むと、すぐ横にリビィが着地した。見回りをしていた兵士たちが一斉に、ぎょっとしたように俺たちの方を向く。昨日と全く同じ銅鑼(どら)の音が響き、各天幕から兵士たちがわらわらと出てきた。

 彼らに道を塞がれる前に、俺たちは素早く目を合わせ、無言で肯き合った。まだ人壁は薄い。今のうちに活路を開かねば。

「スピニングマリン!」

覇山焔龍昇ハザンエンリュウショウ!」

 俺たちは剣を突き出し、行く手を塞ぐ兵士を跳ね飛ばす。後方で、倒し損ねた兵士にリビィが斬撃を喰らわせた。

退魔剣(タイマケン)!」

 更に後方から現れた敵には、グリム団長ら自警団が向かう。数の差が顕著な為、彼らは散開し、敵の密集を避けて出来るだけ分散させようと努めていた。ヴァレイも、リビィの後ろにしっかりと着いて敵に割り込む隙を与えていない。

「リビィ、大丈夫?」

 ブレイヴとしての身体強化がないので、俺たちよりも一つのアクションで生じる疲労が大きいらしく、リビィは第一陣を抜けた時点で荒い息を()いていた。ユリアが呼び掛けたが、彼女は「平気」と答えた。

「でも……人と戦うの、あの襲撃の時が初めてだったから……」

「そう、だよね……」

 ユリアは悲しそうに目を伏せる。俺も同感だと思いつつ、だからこそ俺はここで止まる訳には行かないのだ、と再認識した。

 俺にとって、この世界の人間はNPCだ。レーラズによって作られた存在だという事が分かっている。だが、ユリアやリビィ、元々ゲーム世界に生きる彼女らにとっては、本来リセットボタンを押せば蘇る仮初(かりそめ)の命は紛れもない本物だ。蘇ったところでそれは客観的な事象に過ぎず、凄まじい恐怖の体験そのものを、また他人の命を刈り取ったあの不快感を消す事は出来ない。

 ──己は、人を殺している訳ではない。

 そう自分に言い聞かせる事が出来るのは、俺だけだ。ならば、命の重みをいちばん背負っていない俺がやるしかない。

「……ユリア、リビィ、ヴァレイ」

 俺は、迫り来るヴェンジャーズ兵の第二陣を見据え、仲間たちの名を呼んだ。

「俺の後に着いて来て。出来るだけ、早く突破出来るように頑張ってみる」

 デュアルブレードの切っ先を兵士たちに向け、俺の体を通して流れ出るアロードの力を剣に載せる。視界が、剣先に向かって収斂していくように見える。

「アグレッシヴブレイズ!」

 俺の、コントロール能力が向上したのだろうか。

 刀身から迸った炎の柱は、今まで使用した同じ技のそれよりも太く、リーチが長かった。しかも、炎が周囲に飛び散って威力が放散する様子もない。理由を考える間もなく、俺はそれを思い切り振るった。

 兵士たちと、その湧出の源泉となっている周囲の天幕が、大光量の中で一瞬にして消滅していった。ヒットした際に響いたのは、剣戟や人体を切り裂く湿った音ではなく、爆発音に近いものだった。

「今!」

 俺は叫び、空いた道を正面のパビリオンに向かって疾駆した。ユリアたちは俺の行った大規模攻撃に、一瞬呆気に取られて足を止めてしまったようだったが、すぐに俺に続いてくる。

 天幕から、レーナが現れた。相変わらずニューニに乗っており、現れると同時にそれを横に向かせ、跨るのではなく腰掛けるような姿勢になる。すぐ後ろからスパロウ兵長が続いてくるが、今度の彼は剣を握っておらず、代わりに紫色のスライムの如き球体を先端に取り付けた錫杖(スタッフ)を持っていた。

「おっはよー、皆。いやあ、昨日は派手にやってくれたわねえ。レーナ、本当に大変だったんだから」

「ガーディさんは……?」

 俺の口から最初に出た言葉は、その一言だった。

「ガーディ? ああ、彼は居ないよ。次の作戦もあるし、ユリアちゃんたちのメダルはレーナが回収するって言って、先に行って貰ったの。でも、レーナはちょっと焦っているのです。色々とイレギュラーが起こってさあ」

 レーナは言うと、リビィを挑発的な目で見た。

「元を糺せば、あんたのせいよね。ちょっと可愛い顔して、健気なところ見せようとしたって、レーナはもっと可愛いから響かない。むしろ、あんたのせいでプランが目茶苦茶になったんだから、イライラしちゃう。レーナ、勘違いで可愛い子ぶってる女の子には死んで欲しいって思うから」

 ユリアちゃんもね、と彼女は付け加える。ユリアはレジーナソードの先を彼女に向けたが、その手は小刻みに震えていた。

「レーナ。私、やむを得ない時はあなたを斬るしかない、って覚悟で居るのよ。分かっているの?」

 気丈に言い放ち、レーナを睨む彼女の目は深い悲しみを湛えていた。かつての親友と今では敵同士というのは、どれ程(つら)い事なのだろう。親友というものを持った事のない──そして、誰かと命のやり取りをする必要のない平和な日常に生きていた──俺には、その気持ちを測り知る事は不可能だった。

 底知れない不安だけを感じながら見守っていた俺だが、レーナは切実なユリアに対し、全く意に介さないように甲高く嗤った。

「その心配はないよ、ユリアちゃん。だって、戦うのは雀ちゃんだもの。ほら、やっちゃって雀ちゃん!」

 彼女が指示を出すと、控えていたスパロウが近づいてきた。戦闘態勢を整える俺たちだったが、彼は武器を取り出す様子もなく、リビィの背後に隠れるヴァレイをただ睥睨したのみだった。

「……ヴァレイ・ウィンド」

 低い声で、彼の名が呼ばれる。

「お前のフォームメダルは、私が持っている。私はお前と、このメダルを(よすが)にブレイヴの契約を行うつもりだが、どうだ?」

 それは、思いもしなかった言葉だった。ヴァレイは一瞬驚愕に目を見開いたが、すぐに「ふざけるな!」と反駁した。

「僕のブレイヴはリビィちゃんだ! お前に……世界を滅ぼすヴェンジャーズのお前なんかに、そんな資格があるもんか!」

 その時、スパロウは口元を歪めた。獰猛な笑みを浮かべ、今まで見せなかった悪辣な、狂気じみた表情で大声を出す。

「あるんだな、それが!」

 固まるヴァレイに、彼は杖の先、紫色の球体を向ける。

「風のイマジン、ヴァレイよ! 我に従え……ブレイヴフォース!」

 球体が膨れ上がり、弾ける。その中から、薄紫の電撃めいたエフェクトを散らす一回り小さなエネルギーの球体と、その中央に浮かぶフォームメダルが現れた。弾けたスライム状の物質は粘液の如く膨れ上がり、ヴァレイに絡み付くと、その全身へ瞬く間に増殖を始めた。

「ヴァレイ!?」

 リビィが叫んだ時、ヴァレイは声を上げる間もなく口までをそれに塞がれ、体中を覆い尽くされた。それに溶解させられたかの如く、粘液は彼の体諸共崩れ落ち、杖の先に浮かぶフォームメダルへと吸収されていく。メダルは禍々しい黒紫色に発光し、そのオーラはスパロウへと流れ始めた。

「トランスフォーム……」

「まさか!」

 ユリアが叫んだ時、そのコマンドはスパロウの口を突いた。

「……『ヴァレイ・ウィンド』!」

 嘘だろう、と思うか思わないかのうちに、魔方陣が彼を包み、変身させた。

 髪は緑色となり、服装も緑色の軽装鎧となる。腰にはいつの間にか長剣の鞘が出現しており、変身を終えた自分の姿に満足したらしいスパロウ兵長は、杖を傍らに放ってその剣を抜いた。

「憑依……? でも、ヴァレイは……」

 ユリアが呟くと、レーナがまたもや笑い声を上げた。

「これが、ヴェンジャーズの新兵器。完成したのは二週間前、実際に使ってみる事が出来たのは、まさに今。ブレイヴフォース、イマジンを強制的に憑依させて、力を捻出する技術よ。基になったのは、レーナのビーストサモナーの力」

 彼女は、愉快で堪らないというように説明を続ける。

「レーナは魔物を操れる。じゃあ、人間と魔物の中間的なイマジンだって、操れるんじゃないかって思ったの! さっきの粘液……霊血(イコル)っていうんだけどね、魔物を磨り潰して、エーテルと練って作ったの。対象のイマジンと同じ属性の魔物から作ったイコルなら、イマジンに流し込んで魔物としての成分を強められる。元の魔物にレーナと主従関係があれば、それから滲み出したマナがイマジンを引っ張ってくれる。凄いでしょ、レーナちゃんって天才でしょ!」

「それが、ヴァレイを狙っていた理由……」

 ユリアは顔を歪め、「何の為に?」と問いを投げる。それに対しては、スパロウが答えた。

「お前たちのような人間が、現れないようにする為だよ」

「私たちみたいな?」

「フォームメダルを我々から奪還し、イマジンへと還元しようとする者だ。我々は、世界の(ことわり)上イマジンを殺す事が出来ない。そして、ヤークトの存在がある。我々が手を下さずとも、ヤークトにイマジンを狙われたのでは元も子もない。ならば、イマジン諸共取り込めばいい。ブレイヴを与え、魔物の監視という役割のみを剝奪する。理を、世界を騙す計画だ」

「世界を……」

「ルーラーが、ミッドガルドに使徒(アポストル)を招喚したという話もある」

 それは俺の事だろうか。だが、何処からそのような情報が生じたのだろう。俺自身も、自分がそのアポストルなのかどうか分からないのだ。まさか、アポストルとは作中の登場人物だったのか?

 俺が考えていると、スパロウは「話は終わりだ」と言わんばかりに剣をさっと振った。

「ブレイヴフォースの有用性が証明された以上、我々の、否、魔王ディアボロス様の計画に於けるリスクは排除された。私もブレイヴとなり、最早お前たちに後れを取る事はない。殺す! そして、シルフィ、アロードのメダルを回収させて貰う」

「……ユリア」

 俺は、小声でユリアに尋ねた。

「もしもイマジンが憑依した状態のブレイヴを倒したら、そのイマジンはどうなるんだ?」

「……分からない」ユリアは唇を噛む。「でも、イマジンとブレイヴは一体化している。もしここでスパロウを倒したら、ヴァレイまで死んじゃうかも……」

「どうしよう、それじゃ攻撃出来ないよ……!」

 リビィが泣きそうな表情になる。俺も焦燥が湧き上がったが、ユリアは俺たちを落ち着けるように冷静に言った。

「大丈夫、幾ら未知の力でも、イマジンの意思を無視して強制的に操る技術なんて、何処かに綻びがあるに決まっている。解除する方法は、絶対にあるはずよ。だってブレイヴの契約は、本来心同士の約束なんだから」

 相手の尊厳を踏み躙った一方的な束縛なんて、と彼女は吐き捨てる。俺は剣を構えながら、まずはひたすら防御に集中しよう、と心を決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ