第八十八話「バンドマンたちは、なにかの因果でひかれあう」
長いようで短い合宿は、今日で終わる。
僕らは、場所を貸してもらった小野寺君や家族の方々に、お礼を言うべくみんなで向かう。
「ありがとう、小野寺君。君の神社がなかったら、ここまで練習がうまくいかなかったよ」
「ああ、気にするな。こちらも、あまり顔を出せずに悪かったな。仙道も、くやしがっていたよ」
「はははは……停学中の問題はなんとかなりそう?」
「まあ……なんとかな。仙道が暴れて先生に怒号を飛ばした時は、もうクビになると思ったが」
そう話す小野寺君の顔は引きつっている。彼らは,学校でなにかあったのだろうか。そこはあえて聞かず、あいづちを打つに留めておいた。
小野寺君のお父さんたちにも深々と感謝を述べると、またいつでも来なさいと返された。
「けれど、なんか合宿を通していろいろとスキルアップができた気がするな」
「そうですね。自分の演奏に自信がついた感じがしますよ」
「だね! ドラムの腕も上がった上がった!」
僕の言葉に、瑠偉たちもそう話しながら自分のスキルが上がったと喜んでいる。それもたしかだが、やはり一番は芹沢さんだろう。
小野寺君のお父さんたちと話している彼女を見ながら、僕はそんなことを考える。
ギターの演奏が格段に上がり、そしてボーカルまでこなせるようになった。その成長にはおどろかされてばかりである。
「それにしてもー。山本先生って、ほぼいなかったよね。アノ人、顧問である意味がないよねー」
「それは今に始まったことではないな。まあ役に立つ時もあるよ……多分」
この場にいない山本先生のことを僕らは冷やかすように話すと、遠くのほうから車のクラクションが鳴り響いてきた。
「うわさをすれば、山本先生の迎えがきたな。そろそろ、行こうか」
小野寺君たちに別れのあいさつを済ませ、僕らは車が止まっている駐車場へと行く。すると、みんなが歩いて行った後、最後に小野寺君が僕を呼び止めて口を開く。
「岩崎。おまえたちなら、参加をするイベントも成功できるだろう。自信を持って挑むといい」
「ありがとう。小野寺君たちも、きっと東京でのライブはうまくいくよ」
「ふっ。おまえが言うのだから、そうだと思っている」
お互いのバンドが成功できるように、僕らは言葉をかけあった。
「それじゃあ、行くね! また会えたら、もう一度対バンをやろう!」
「ああ。仙道にも伝えておこう」
小野寺君に僕は再会を誓い、神社を後にする。仙道たちとは、またどこかでライブができると信じて。
とてもいい気分で帰れそうでいる僕に、先にみんなを車に乗せた山本先生が話す。
「ああ、岩崎。わかっていると思うが、おまえの乗る席は車にない。ここからは徒歩で帰りなさい」
「……わかっていましたとも。そうだろうって」
「さすが、岩崎だ。今日はそのまま解散で、学校には行かなくていいぞ。わたしが学校に報告をしておく」
――ブーン。
そう言い残し、山本先生は車を走らせていった。
今日は、金本たちはいない。僕は、一人で帰ることになった。
「ったく。せっかくの気分が台無しだ! 車のトランクでもいいから、乗せてくれればいいのに」
僕はぶつぶつと言いながら、重たいギターケースとエフェクターが入ったアルミケースを持ちながら、駅へと向かう。
しかしあまり行ったことのない街であるためか、どこか旅に来た気持ちになる。自分の住むところにないものがあるようで、冒険をしているようだ。
仙道たちはよく来ているのだろうか。ということは、いろいろなバンドマンや楽器屋があるかもしれない。
時間はまだ午前。このまま自宅に帰るのも惜しいと思った僕は、駅へと行かず街を見て歩くことにした。
「けど、平日の午前にいかにもバンドをやってますみたいな姿で、気まずいな……」
すれ違う人の目を気にしながら歩いていると、商店街のようなところにやってきた。
いかにも落ちぶれた商店街の雰囲気に、地方の問題に直面をした気がする。すると、どこからか、アコースティックギターの音色が聴こえてきた。
こんな時間に誰かが路上ライブでもやっているのだろうか。そう思った僕は、ギターの音色がするほうへ歩く。
すると、シャッターが閉まった店の前で、誰かが弾いているのを遠目で見つけた。
「へえ……女の子が一人でギターを弾いているな。というか、誰も足を止めていない」
道を歩く人々はギターを弾く女の子を気にしていないようだ。いきなり近くで見るのはどうかと思った僕は、少し遠くのほうで路上ライブを見ることにした。
――ジャンジャラー! ジャンジャン、ジャラランー!
アコースティックギターならではの迫力のある生音が、大きく反響するように商店街に鳴り響く。それは、自分のギターに自信があるから出せる音でもあった。
流れるようなコード進行は、とても耳に残るもので良いフレーズ。そのあと、女の子はギターの音に合わせるように歌い出す。
「おお……すごいなあ。とても、うまい」
ギターに負けない声量で、きれいな歌声を出している。これまで聴いた路上ライブの中で、一番かもしれない。
僕はそのまま聴き入ってしまい、しばらくその場に留まる。
――パチパチ。
無意識のうちに拍手をした僕。けれど一曲だけなのか、弾き終わるとギターをケースへと入れ始めた。
「もう終わりか……もっと聴いてみたかったなあ」
そう残念に思いながら口にしていると、なぜかこちらに女の子は向かってくる。
「ねえ、あなた。もしかして、バンドマン?」
「え? あっ、はい……一応、そうですけど」
いきなり話しかけられておどろいた僕は、そう答える。
「やっぱり! なんか、ギターケースを背負った人が遠くで見ているなあって思ってさ。君、その姿は目立つよ」
「そうですよね……はは。でも、すごい上手いなあと思って、つい聴き入ってましたよ」
「ありがとう! わたし、ここが地元じゃないんだけどこういう寂れた商店街とかを見ると、演奏をしてみたくなるんだよね」
「路上ライブをやる人のあるあるですね! なんか、商店街でやっているイメージがありますし」
つい、話が盛り上がってしまい、僕は女の子と長々と会話を続ける。すると、女の子は、僕に尋ねる。
「あなたはバンド練習とかでの帰り? 見た感じ、学生のような見た目だけど」
「はい、そうです。高校二年生で、今日は同好会の合宿が終わった帰りなんですよ」
「へー! なら、わたしと同い年だね! わたしも、高二で学校をサボって楽器屋に行ってきたんだ」
まさか、同じ学生で同い年と思わなかった。僕なんかより、大人のような雰囲気があるから。しかし、学校をサボって楽器屋へとはなかなかの音楽好きと見た。
「近いうちにでかいイベントがあってさー! それに合わせて、いろいろな所で弾いてみたほうがいいかと思ってて。けど、なかなか人が集まらないものだねえ」
「なるほど……。けど、たまたま人がいなかっただけですよ! 曲はすごい良かったですし、絶対にイベントで大成功は間違いないですよ。僕も、大型のイベントに出るんですけど、それで合宿ってわけです」
「へえ! そのギターはエレキ? せっかくの縁だし、お互いのイベントに観客で行こうか!」
「おお! いいですね。なら、バンドのメンバーを誘って応援に行きますよ!」
僕らはその場のノリみたいな感じで、そんなことを話す。
「「それで、そのイベントの名前は?」」
ほぼ、同時にお互いが同じ質問をする。そして、また同じようにイベントの名前を口にし合う。
「「……同じじゃない? その、イベント」」
そうハモる僕らは、おどろいた顔をしてしまう。
まさか、こんな形で同じイベントに参加をする人に出会うとは思わなかった。




