第八十七話「満足のいく練習とハプニングソロで完成!」
模擬試験を終えた金本たちを加え、僕らは合宿の毎日を送る。気が付けば、合宿も残りわずかである。
「そういえば、仙道たちはどうしたんだ? あれっきり、顔を出していないようだが?」
今日の練習を始める前に、金本がそう僕に尋ねる。
「ああ。なんでも、停学処分中にここでバンドの練習をしたのがバレて、学校で反省文とか奉仕活動なんかをしているみたいですよ」
「ふむ……いないと、それとなくさみしいものよう。ははは! ざまあみろ!」
「おいおい……どっちなんだよ、おまえの本音は」
荒木が金本にため息をつきながら口にすると、僕らも苦笑いをする。
仙道たちはいないけれど、僕らの練習に集中をすべきだろう。僕はみんなに号令をかけた。
「あれから練習を繰り返して曲もできているし、今日は一回戦目でやる曲を完璧にさせよう」
「まあ、あたしたちはいいけれど……キョウちゃんのギターソロは大丈夫なのー?」
響子は僕にそんなことを話す理由は、これまでギターソロのところまでみんなで合わせていないからである。
芹沢さんのボーカルを慣らせ、安定させるのを優先させた練習ばかりであった。
けれど、ソロを弾いて見せた時は完璧にできていたし、そこまで不安に思うことはないだろうと僕は思っている。弾けたという、自信があるのだから。
「問題はない! とにかく、ライブを意識して弾いてみるぞ。おまえもコーラスなんだから、自分の立ち位置に行け」
僕が話すと、はいはいと言わんばかりに響子は自分の位置へ行く。
みんなが演奏をするのを待つ中、僕は真ん中にいる芹沢さんに話しかけた。
「どう、芹沢さん? ボーカルはやっていけそう?」
「うっ、うん。前よりは歌えていると思うけど……岩崎君のように、うまく歌えるかなあ」
「大丈夫だよ! 僕より、芹沢さんは歌がうまいと思うよ。この曲は、芹沢さんの声に合う曲だし、それは芹沢さんにしかできないはずさ」
ボーカルはギターよりも、聴く人にダイレクトに伝えていかなければいけない。ボーカルもコーラスも、今でも自信があるとは僕もいえない。
けれど、ギャルゲーソングをいい音楽だとみんなに知ってもらいたいから、その思いをぶつけている。
僕はそう芹沢さんに話すと、彼女はうなずく。それは、芹沢さんも同じ気持ちを持っているとわかるうなずきでもあった。
金本たちが見守る中、僕らの練習が始まる。
この曲のために追加したシンセの音が流れると、始まりの合図である。
電子音がスピーカーから鳴り、瑠奈のドラムが先に入った。
――ダッタッ! カッ! ダダン!
リズムのいいドラムの音が響き、シンセの音と合わさった後。瑠偉のベースラインも入る。
二人とも原曲の通りに音を再現しつつ、ちょっとしたアレンジを加えていた。悪くないアレンジである。
イントロを弾き、曲の雰囲気がよくなったところで芹沢さんのボーカルがスタート。それと同時に、僕のギターによるカッティングが混じり、Aメロへとつながる。
「うん。悪くないね! そのまま、弾いていこう」
本番を意識して弾こうと言ったけれど、僕は思わず口にしてしまう。イントロからの入り、そしてAメロの演奏が良い感じであったから。
僕の言葉にみんなの返事はないが、理解をしたようにそのまま弾き続ける。次はサビ。曲の印象を与えるには、ここも重要であった。
楽器の音と、芹沢さんのボーカル。今のところ、問題はない。
芹沢さんはマイクに向かって歌っているけれど、まだまだだ。音程を外さず、声の大きさも大丈夫。でも、なにか物足りない。
ギターを弾きながら芹座さんの様子を見る僕は、それがなんなのかがわかる。
――芹沢さん。始める前に言ったけど、ギャルゲーソングを届ける思いを歌に込めるんだよ。
アニソンでも、普通の邦楽でもない。ギャルゲーソングでしか聴けない曲を、知らしめるには大きな意思と感情が必要。
けれど、今の芹沢さんには懸命に歌うしかできないのだろう。だからこそ、ここで変わってほしいとさえ思ってしまう。
芹沢さんにしか、伝えられないギャルゲーソングのすごさを。この曲に乗せて。
「ふむ。まあ、悪くはないぞ? 新しいボーカルが、きちんとギャルゲーソングを歌うのは斬新である!」
「いつもは岩崎君の声しか聴いてないからね。これはこれで、いいんじゃないかな」
演奏を聴く金本たちが、そんなことを口にする。ほめてはいるが、どこか気を遣っているようにも聞こえた。
妥協点――そう評価をされた気分だ。
このままではいけない。金本たちをうならせるようなものでなくては、一回戦でも観客を湧かすことは難しいだろう。
なんとかしなければと思いつつ演奏をしていると、次第に曲の雰囲気が変わる。演奏の質が上がったではなく、それは芹沢さんのボーカルだ。
まるで、温まったエンジンで走り出す車のように、勢いがつき始めている。
「おお……」
金本はそれを感じ取ったのか、そう言葉をもらす。初めに聴いた時よりも、芹沢さんのボーカルに感情が入り込んでいる。
当の本人はそれに気づいていないのか、構わず歌い続けていた。
――いいじゃないか。そのまま、サビで盛り上げていくぞ。
この良い雰囲気のままで、ギターで援護をする。芹沢さんのボーカルを最大限に引き上げたい。
僕はギターを弾く手を強め、サビの歌を引き立たせる。それは僕だけでなく、他の連中も、同じだった。瑠偉たちも自分のパートをあえて主張させず、ボーカルに寄り添う形で弾いていく。
この曲は、ボーカルがなによりも大事であり、聴く人の記憶に残らせるもの。初めて曲を聴いた時も、歌にしびれた。
芹沢さんのボーカルは、原曲のような輝く歌声。それが、徐々に垣間見える。
後半からはさらに盛り上がっていき、その真意を発揮していった。
――気が付けば、もうすぐギターソロだな。
演奏もそろそろ終盤。曲の最後の見せ場であるギターソロからのアウトロ。
最後はギターソロを弾く僕が、ビシッと決めなければ。
せっかく通しでここまで弾けているし、練習をした中で一番の出来だろう。
――このまま、僕が締めてみせる!
「さあ、岩崎君のギターソロが来るぞ! あの、すげえソロを聴かせたまえ!」
金本はそう僕に向かって、期待を込めたような口ぶりでさけぶ。
金本たちはもちろんこのギャルゲーソングを知っているだろう。だから、ギターソロに目を輝かせている。
ならば、お見せしようではないか。知らぬうちに弾けてしまったソロを。
芹沢さんは歌い終わり、シンセの音が鳴る。その後から、瑠奈のドラムがソロへと入る音を鳴らした。
――ドッ! ドドッ! ドドドン! ……ギュウワワァァン!
ドラムの音が大きくなった瞬間に、僕はギターで甲高い音を鳴らす。
完璧な入りで、原曲の迫力がたっぷりなソロを披露する。けれど、そこで思いもしないハプニングが起きた。
――パキィィン! ブチッ。
最初は原曲と同じソロのフレーズ。けれど、途中で一弦をチョーキングしたら思いっ切りに弦が切れた。
ギターを弾くうえでよくあるトラブルであるが、この曲のソロは一弦をほとんど使う。その一弦が切れて弾けなくなったら、どうにもできない。
このままでは、ソロがめちゃくちゃになってしまう。曲は演奏中で、じっくりと対処を考える時間はない。
――くそっ! こうなったら……。
僕はギターのソロをアドリブで弾く。それは、ほとんどが直感。
二弦、三弦を駆使してどうにかオケに合うようなソロ。素早く流れるように指が、動いていった。
それはもうオリジナルに等しいソロ。けれど、心なしか原曲のものよりかっこよく感じた。
最後の一音を弾き終わり、なんとか曲を終える。
練習で一曲すべてを弾くことは出来たが、最後の最後でしくじってしまった。
一人反省をする僕。みんなはさっきから黙っている空気感で、申し訳ない。
「……岩崎君」
金本の静かな声聞こえ、僕に近づく。
「そのギターソロは、君が考えたものなのかね? 弦は切れたけども」
「いや……切れちゃったので、もうほとんどなにを弾いたか思い出せないって感じですかね……ははは」
「ということは、オケを聴いて自分で生み出したということか」
僕の言葉を聞いた金本は、目を見開きさけぶ。
「素晴らしいソロではないか! とっさにとは言え、きちんと曲にあっている!」
怒られるかと思ったが、その逆で大いにほめちぎっている。
「芹沢さんのボーカルも後半から、良し! そして、君のギターソロ」
なにか考え込むように口にした後、金本は宣言をする。
「ずばり! 曲は完成と言えよう! このままで、イベントに立ち向かうがいい」
金本は、満足のいく演奏だったと思ったのか、そんなことを僕らに言う。
「完成……でいいんですかね?」
「うむ! 本番はこの演奏で勝てるはずだ! そこで岩崎君に提案がある」
「……提案?」
僕が金本に聞き返すと、彼は答える。
「ギターソロは、型にはまらなくていい。当日は当日で、君の直感で弾くのだ! そう、あのゲームで弾いた主人公のようにな!」
金本の提案に、僕はおどろく。
曲は完成できたことには素直に喜ぶべきだろう。けれど、そのギターソロを直感で弾けという言葉に、ただ開いた口がふさがらない。




