第八十六話「こうして、僕らは曲を試しながら実力を確認する」
思いのほか、みんなの反応がよかった僕のギターソロと芹沢さんのイメージ通りの歌声であるとわかると、そこからは順調に曲の練習が進む。
普段であれば、楽譜を一から作ってそれに合わせた練習であるが、今回は楽譜がなくの耳コピのみで曲をできるようにする。
芹沢さん以外のメンバーは曲をある程度を知っているのもあり、それなりに自分のフレーズを頭でねりあげていった。
「ということは、ここのベースはギターの音と被るようにするべきかな? ドラムとのタイミングもあるし」
「いいんじゃないか? 原曲ではギターのほとんどがカッティングを使っているし、僕もそれでやるよ」
「ベースギターに合うようなドラムだけど、ここってわたしも原曲通りのリズムパターンで刻むべきかな?」
僕ら楽器組はそれぞれの意見を言い合いながら、曲をどう弾いていくか決めている。イントロの冒頭や、Aメロとサビなど話し合いは長く続く。
「芹ちゃんはー、曲の歌唱パートを覚えつつ、歌詞を暗記していこー!」
「うっ、うん。けど、さっきから曲を聴いてばかりだけで、いいのかな?」
「かまわなーい! 曲を聴いて覚えていくモノだよ? そこそこ、良い感じになったらカラオケで歌ってみようー!」
ボーカルとコーラスを担当する芹沢さんと響子も、さっそく練習にとりかかっていた。響子の指導が心配の種であるものの、芹沢さんは集中をして必死に歌を覚えているようだった。
まだ鼻歌だけしか聴いていない僕らであるが、歌を完璧にできた時こそ、すごいことが起きるはずだ。
響子もそれを思っているのか、いつにもなく熱心に教えている。
何日か、その曲を重点的に練習をやっていたら、比較的短時間でみんなで合わせて弾くところまでいった。
「なんか、合宿のほとんどが新しく覚える曲ばかりに時間をかけましたね」
「ああ。他の曲も練習はやるけど、ここはこの曲に集中すべきだな」
「岩崎先輩! それじゃあ、さっそくみんなで合わせてみましょうよ」
この日は、初めて全員で音合わせをやる。一通り、バンドの演奏はできそうであるし、どのくらいできたかを確認をするためだ。
なにより、芹沢さんのボーカルも入るため。それが、メインとも言える。
「そういえば、この曲ってシンセサイザーの音とかありましたよね? あれ、どうするんですか?」
「それは問題ないよ。知らぬ間に、響子がパソコンで作ってたらしいからな」
「そーよー! それっぽい感じの音を、耳コピで作ったのでーす。いえい!」
得意げに話す響子はパソコンをステージの床に置き、スピーカーへとつなぐ。パソコンから直接に音源を流すような感じであった。
僕らのバンドでパソコンを使った音源を流しながら演奏をするのは、初の試み。それがうまくいくかは、これからやる演奏でわかる。
「よーし。それじゃあ、やってみようか! 失敗をしても問題はないから、気を楽にしてくれ」
「「はーい」」
「芹沢さんは大丈夫そう? 歌えないところがあるなら、そこは無理して歌わなくていいからね?」
僕はそう芹沢さんに声をかけた。あくまで、最初の合わせであるから変に意識をする必要はないとアドバイスをする。
「うっ、うん。ありがとう……岩崎君。自信はないけれど、やってみるね」
こちらのアドバイスを聞いても、やはり初めてやるのだから不安に思うかもしれない。けれど、そういうのもバンドをやるうえで大切なことである。
失敗をしてもいいから、やってみるのがバンドの楽しさだ。
ステージに上がり、決めていた立ち位置に並ぶ。僕は端っこでギターを構える。
みんなもいつも通りに自分の位置で演奏の準備をやっている。その中で、やはり芹沢さんだけが、異様に緊張をしている。
――だっ、大丈夫だろうか?
その様子に、僕は心配になりながら見守る。
「はっ、始めるぞー? 瑠奈のドラムでカウントを取って、演奏をスタートだ」
「それにはご心配なくー! 流す音源の最初にメトロームの音を入れたからー、そのほうがわかりやすいでしょー!」
響子は自分の前にパソコンを置いて、そう話した後にいきなり流し始めた。
「おっ、おい! いきなり音を出すな! って、始まったああああ!」
――タッ、タッ、タッ、タッ。
こちらのタイミングなどお構いなしに、メトロームの音が大きくスピーカーから鳴る。
「まーまー! イントロの頭はシンセから入るし、そこにドラムが入るんだからキョウちゃんは焦る必要ないでしょうー? むしろ、瑠奈ちんがどうかって感じねー」
「馬場先輩……いじわるでしょうーっよ!」
名指しをされた瑠奈であるがメトロームの後に鳴るシンセサイザーの音に、なんのズレもなく完璧にドラムを合わせた。
シンセサイザーとドラムの音が曲のイントロらしくなると、すかさず瑠偉もベースの低音を加える。
「すでに曲は始まってますよ? 岩崎先輩たちも、そろそろ弾かなきゃです」
「ああ……そうだな。このままギターのカッティングで、曲のオケを弾いていくぞ」
イントロを弾き始め、僕もギターであたふたをしながら入っていく。
なんともぬるい雰囲気の中、僕らは演奏をしていくけれど瑠偉も瑠奈も弾けている。まだ、短い期間だがきちんと曲を弾けていることにおどろく。
楽譜もないため、ほとんどが耳で覚えたであろうフレーズだが、それらしい。
「へー! みんな、弾けるもんだねえー。そこまで、簡単な曲ではないのにー」
「いや、馬場先輩。この曲って、そこまで難易度は高くないんですよ。ドラムもベースも、シンプルで覚えやすいですからな」
「初めてギャルゲーソングをカバーするなら、この曲って感じですね。ドラムもたたいて、楽しいですし」
弾きながら、瑠奈たちは響子にそう話している。しかし、この曲を推薦をした僕はカッティングを弾くのに精一杯だ。
「よーし! それじゃあ、芹ちゃん。オケの音に合わせて、いざ歌ってみよー!」
そう響子は芹沢さんに向かって声をかけ、歌うように指示をする。ギターは構えるだけで、マイクに顔を近づける芹沢さんは口を開く。
演奏をする僕らの音に、芹沢さんがついに歌い出す。
彼女の歌声をマイクが拾うと、スピーカーから歌が流れる。けれども、なんとも小さい音。
ボーカルがガツンと入るはずなのだけれど、芹沢さんの声は楽器に負けていた。
「おお……なんと、スモールボイスー! って、そんな自信がなさそうにモソモソと歌わないー!」
「おっ、おい……響子、初めて歌うんだからそんな厳しくなるなよ。始まったばかりだろうに」
僕は弾く合間に、そう響子に話すが聞いちゃいない。
でも、音程は外れていなくきちんと歌詞も覚えているのか、歌になっている。ないのは、ボーカルの声量だけ。
それだけでも、全体で合わせて弾いて悪くない内容である。
――まあ、こんなものだろうな。みんなもきちんと弾けているし、このまま一気に曲を仕上げていこうか。
ギターを弾きながらみんなの様子をうかがい、そう考える。イベントの一回戦で、戦うには大丈夫そうな気がする。
サビのところまでみんなで曲を演奏していると、次第に芹沢さんの声が大きくなっていることに気づく。それは他のみんなが気づかないくらい、じわじわと変わる。
彼女の横で弾く僕だからなのか、その変化にいち早く気がつたのだ。
シンセの音とドラム。ベースとギターの音が一つになり、サビへとつながった後。芹沢さんのボーカルが、それをはっきりとさせる。
声はまっすぐ通り、音程が外れない。メロディの乗せて歌詞がよりよく聴こえた。
「……っ!」
ボーカルの声を聴いた僕らは、その歌声に衝撃が走った感覚になる。原曲の歌手よりも、良い歌を歌っているようにも感じた。
そんなことを本人は知らずに、懸命にマイクに向かって歌う。
――ガラガラ。
そのまま演奏を続けていると、部屋の扉が開く。現れたのは、模擬試験を終えた金本たちであった。
そして、金本は僕らの演奏を聴くと大きな声でさけぶ。
「ふおおおおおおお! すばらしい! この曲を弾いているなんて、感動的ではないか!」
一人、感動をしながら口にする金本は曲にノリノリである。
「あの金本先輩が、あそこまでノリノリになるとは……」
サビを弾き終わり、ひとまず練習を終える。
途中までであるが、曲をやってみて思った感想はみな同じであろう。
「あれ? みんな、なんでわたしに近づくの?」
僕らは芹沢さんのいるほうへ、無意識のうちに近づいていた。その状況に、芹沢さんはおどろいていた。
「芹沢さん……君は、すごい子だね。ギャルゲーソングをここまで歌える人は、そうそういない」
「声質的に合うって感じですね。芹沢先輩のボーカルは、ギャルゲーソングに向いていますよ」
「……ええ? そう、なのかな?」
僕や瑠偉の言葉に、芹沢さんはそう答える。恐縮をする必要はなく、それはまぎれもない事実であった。
「芹ちゃんのボーカルがあれば、大型のイベントは勝てる! 間違いなーい」
響子の話しに、僕らは無言でうなずく。
今回、全体で練習をしてみてそれは間違いない。芹沢さんのボーカルには、秘めたものがあると確信できたのであった。
僕らは自信をもって、イベントに参戦できるであろう。




