第八十五話「思い出の曲ほど、知らぬ間に弾けちゃう!そして、限定的新ボーカルが出たぁ!」
話はまとまり、芹沢さんをセンターに置いてステージに上がってみた。
ベースとドラムはいつもと変わらない位置。僕のギターが左横で、芹沢さんの近くに、響子がマイクスタンドを立てて並ぶ。
「なんと言うか……ライブっていうより、歌謡ショーの雰囲気な感じだねー」
「けど、ある意味でコンサートのような配置でこれはこれで良いと思いますよ」
慣れない位置に響子がそう口にすると、瑠偉がベースを背負いながら答えた。たしかにその通りで、この構成は斬新だと僕も思う。
芹沢さんだけを除いて。
「あの……やっぱり、わたしには無理だよー。ギターを弾いて、人前で歌うだなんて」
「大丈夫ー! あたしもキョウちゃんだって、最初はそんな弱音をはいていたけどさー。意外に歌ったら、快感! って思うはずだよー」
「そうそう! まあ、とりあえず鼻歌でいいから演奏に合わせて歌ってみようか!」
真ん中で不安そうに口にしている芹沢さんに、僕と響子は歌うように説得を試みた。なにはともあれ、ギターボーカルに慣れてもらう必要があるからだ。
「いきなり、あの曲をやるのはハードルが高すぎません? まだメロディや歌詞だって、覚えていないと思いますけど」
「けど、今からやればそれなりに出来そうな気がするんだよね。芹沢先輩は覚えがいいし」
あたふたとしている芹沢さんを見ながら、瑠偉が話す。すると、瑠奈がスティックをカチカチとさせながら瑠偉にしゃべっていた。
どうやら、瑠奈は芹沢さんの特性を理解しているようだ。たしかに、彼女は物覚えがいい。
ここは試すにはチャンスである。
「とりあえず、ここはさっきみたいにセッションのような感じで弾いてみよう。そこに、芹沢さんが鼻歌で合わせる感じに。僕らも、それに合わせてアレンジを考えながらね」
「じゃあー、あたしは芹ちゃんの指導係的なやつで! よく見ているねー」
コーラスなどは後回しだと思ったのか、響子がそう話すと芹沢さんのサポートに回ろうとしている。ひとまず、それでいいだろう。
「よし、鼻歌はたしかサビのところだったな。じゃあ、その前の入りから楽器で弾いてみよう」
「「はーい」」
僕がそう瑠偉たちには指示を出して、さっそく演奏に取りかかる。芹沢さんは、どうしていいかわからない状態でまだいた。
「芹沢さん。ギターは無理に弾かなくて大丈夫だからね? わかるところの鼻歌に集中をしてくれればいいから」
「うっ、うん……」
ギターのことを意識すれば、歌だけに集中は難しいだろう。ここはギターを弾かずにいるほうがベストな選択である。
芹沢さんがギターを握る手を緩めたのを見計らって、僕は瑠奈にドラムで何回かループでリズムを刻んだもらう。
――ドンッ! カッ! ドンドンッ!
それらしい曲のドラムが鳴ると、僕と瑠偉はその音に合わせてギターとベースを合わせる。楽譜もないけれど、きちんと曲の音を奏でられていることに、僕は少しおどろいた。
「へえー! それっぽいオケになっているじゃーん! 原曲を知っているとできる、ちょっとしたバンドのあるあるだねー」
「茶化すな、響子! 芹沢さんは自分のタイミングで入ってきてね。このまま何回も同じフレーズを繰り返しているからさ」
「うっ、うん……やってみるねぇぇぇ」
なんとも自信がなさそうな声をする芹沢さん。まあ、そんなすぐに歌を合わせることはできないだろう。
芹沢さんがいつでも入れるように、何度も繰り返すのもギターの練習にもなるし、ここはこうアレンジをしようかと考える時間にもなりそうだ。
それは僕だけでなく瑠偉たちも同じ考えなのだろうか、すでに瑠奈はドラムパターンを微妙に変えている。
――サビのここは同じフレーズを弾けばいいんだけれど、リフの刻みを変えてみようかな。
原曲のギターはソロ以外はあまり目立たない。あくまで、ボーカルを際立たせるためであるが、どうにもそこは変えてみたい。
などと、やってみたいことが頭の中で、いろいろな欲が出てきた。
そういえば、ギターソロってこのフレーズを弾いた時に弾く時と同じだった気がする。
まだソロは完璧に弾けたことはない。練習は何度も曲を聴いて試したことはあるけれど、そこまで再現はできずにいた。
芹沢さんはまだ鼻歌で入ってくる気配はない。ちょっと、このままソロを弾いてみようかと思い始めてきた。
どんなに物覚えがいい芹沢さんでも、初めてやることはさすがに時間もかかるだろうし、それは想定の範囲内である。
少しくらいならと、僕はギターソロを弾こうと左手の位置を変えると同時に、芹沢さんがマイクで鼻歌を歌い始める。
「ふふふーん。ふふふふーんー、ふんふふっふー」
歌詞の言葉ではなく、ふふんふん。独特な鼻歌だけれど、きちんとメロディ通りの音程。まだ声に自信はないのか、音の大きさは皆無だけれど初めてにしては完璧な入りであった。
なにより、芹沢さんの歌声はこの曲に合っている声質で、それはまさしくイメージ通り。
「おお。いいじゃないですか、芹沢先輩! 先輩のボーカルでも、いけますよ」
「ほらほらー! 芹ちゃん、歌うのは気持ちがいいでしょー? 次は、ふふーん、ふーんだよ」
「ぷは! なんですか、馬場先輩。笑わせにこないでくださいよ」
ムードは和やかで、みんなは遊びのつもりで弾いているせいか緊張感はない。しかし、それがいいのか、演奏が楽しく感じているようだ。
だがしかし……。そのふふーん、ふーんの後。それは、ギターソロへと繋がるメロディと同じであることに変わりはない。
僕は芹沢さんの鼻歌に手ごたえを感じた瞬間。そこで、ギターソロを弾く覚悟を決めた。なにせ、瑠奈が次にたたくのはソロの入りと同じドラムパターンだからだ。
――ダッダッダッダン!
瑠奈のドラムが大きく鳴ったタイミングに合わせ、僕は勢いをつけてギターソロを鳴らす。
芹沢さんの鼻歌、瑠奈のドラム。そしてそのあとにくるギターソロ。その流れは曲のエンドロールであり、おそらく曲の最大である見せ場。
――ギュワァァン! テーテッテレテレテレー!
ギターに繋がったアンプから、僕の弾くギターソロが鳴って、みんなはおどろく。いきなりソロのところなのだから、弾き手はとまどう。
けれど、そこは原曲を知りバンドをやっているからか、みんなはガッツリとついてきた。
臨機応変に、対応をしてみせるみんなに逆におどろいてしまった。
「あれ? ソロ……弾けちゃったよ、最後まで通して」
そのままフェードアウトをして弾き終わった僕は、思わずそう口にしてしまう。
「いや、先輩……いきなり曲を終わらせないでくださいよ。というか、ギターソロは完璧じゃないですか!」
「そうですよ! あれ、地味に難しいやつだと思ってましたが、岩崎先輩がびっくりするくらいに弾いておどろきですよ」
「自分でも、びっくりだよ……はは。けど、おまえたちもいきなりなのによく弾けたじゃないか」
ギターソロができたことに瑠偉たちはおどろきと興奮で、そう話す。
まだ曲を弾こうと決めたばかりなのに、エンドロールは完璧と言っていいだろう。
「いやいや……あんたたち、芹ちゃんのボーカルを最優先にしようとしているのに、勝手にそこで盛り上がってんじゃないわよー」
「ははは……」
響子は僕らに向かって、そう怒号を浴びせるもその後に芹沢さんをじっとみて口にする。
「芹ちゃん。今のキョウちゃんたちの演奏を聴いたでしょうー? あれだけのオケを表現できるんだから、芹ちゃんもここは覚悟を決めてやろー!」
このエンドロールを弾けるのならば、きっと曲をモノにできる。そう確信をしたように、響子はいつにもなく真面目に、そう芹沢さんに話す。
僕もそれは確信をしている。これに芹沢さんのボーカルが加われば、言い方はあれだがギャルゲーでこの曲を披露した主人公たちと同じような展開が期待できる。
大いに盛り上がるステージと大歓声を。
すると、響子の言葉を聞いて黙っていた芹沢さんは、下を向いた顔を上げた。
「……うん。わたし、やってみる! 岩崎君たちの演奏にふさわしいボーカルになってみたい」
その言葉はたしかな覚悟と意思を感じる。
この瞬間、追加で弾くカバーギャルゲーソングが正式に決まった。
新たなボーカルも、ここに爆誕である。




