第八十四話「まずは先手必勝の曲を探るんだが、まさか君が……」
僕は自分の中で印象に残っているギャルゲーがあった。それは、まだ芹沢さんたちが同好会に入っていない頃。
金本たちが受験で忙しく、部室にも顔を出さない時に暇つぶしでやっていたギャルゲー。
「それで、どんなゲームをやっていたの?」
「えっと……たしか、学園が舞台で普通の恋愛系だったような」
「ほとんどのギャルゲーが、そうですよ? もっと具体的にお願いしますよ」
僕の言葉に、瑠奈はそう細かく説明をするように話す。とは言っても、タイトルというより、ストーリーが印象に残っているのだ。
正直、タイトルは覚えていない。僕はその印象に残っている物語をみんなに話した。
「主人公に、ヒロインの二人が取り合うみたいな? 結果的に三角関係になるんだけど、それがドロドロでさあ」
王道のようなギャルゲーとは言わず、現代ドラマにできそうな感じ。結果的に片思いの相手と結ばれるのだけれど、もう一人のヒロインとの別れがかなり精神的につらい。
よくできたストーリーだなあと、部室でパソコンにかじりつくように夢中になっていた。だるい時のテキストスキップは使わず、そべてのテキストを呼んだくらいだ。
それに題材の一つに音楽があった。主人公とヒロインたちが学園祭のバンドを組むイベンドがあるのだけれど、それも僕にとっては好きなパターンである。
「という感じのゲームだな! その学園祭でライブをやった時に弾いた曲が良くて、特に最後のギターソロがかっこいいんだなあ」
つい熱弁をする僕は、そうみんなに語る。
「ああ……その作品は、俺らでもわかります。というか、すごい知名度があるギャルゲーですよ」
「あそこのメーカーって、今でも現役だよね。もう、何十年も前から存在していますし」
「え? そうなの? わたしは、そのゲームを知らないけれど」
瑠偉たちは僕が言った説明で、どのタイトルかわかっている様子。逆に、芹沢さんは初見なのか、わからずにいる。
「あの曲って、わかりやすいくらいに主人公とヒロインを思わせる歌詞だよねー! どちらかと言えば、女の子目線の歌詞よー!」
「だよなあ! 深いんだよ、歌詞が! あの曲を聴いた時に、なんていうか心に来た!」
響子がそう口にすると、僕は同意をするようにうなずきながら答える。
「実は、なんだかんだでギターを覚えて来たんだよ! ちょっと聴いてくれ」
僕はそう話した後、ギターを持って曲のイントロを弾き始める。
――ジャンジャンジャラーン! ジャジャンー!
たしかこんな感じのギターだった気がする。軽く音をそれらしくすると、イメージ通りのリフとなった。
「へー! キョウちゃんにしては、初めて弾くにしてはうまいねー」
「だろう? 曲を聴いてから、ギターで覚えたくなったからな! つい、弾けるようになったんだ」
意外そうに響子がおだてながら話すと、僕はそのまま弾き続ける。不思議と曲のフレーズはほとんどわかっているのか、それに合わせて鼻歌を歌う。
「弾き語りっぽくて、なんかそれも良い味を出してますね」
「実は、俺も曲のベースはだいたい知っているんですよね。岩崎先輩、ちょっと失礼します」
瑠偉はベースを構えると、僕の弾くギターに合わせてベースを奏でた。シンプルな低音で目立たないように弾くけれど、うまくギターについていく。
「それじゃあ、わたしも!」
「え? 瑠奈もできるのか?」
「そこまで原曲のようなドラムじゃないですけど、そこはアドリブでなんとか」
瑠偉だけではなく、瑠奈もドラムセットがあるところまで行った後、タイミングよくドラムで混じってくる。
――ズンッ、ダン! ズズッ、ダンダン!
ドラムが入ることによって、曲らしくなってくる。三つの楽器が合わされば、ほとんど曲になっているようなものだ。
「みんな、すごいなあ」
「まー、そこまで難しい曲じゃないからねー。簡単そうにみえて、奥深いみたいな楽曲だね」
「響子ちゃんは歌えるの? ギャルゲーはほとんど女性ボーカルだと思うから、できそうだね」
「いやいやー! それが、あたしの声質じゃー微妙なんだよねー。歌えるだろうけど、イメージとはほど遠いかなー」
僕らの弾く音を聴きながら、響子と芹沢さんが話している。まあたしかに、どんなにギャルゲーソングを知る響子であっても、曲のイメージには合わない。
原作をやっている身からしたら、響子の声では曲の雰囲気が違って聞こえるだろう。もちろん、この僕もである。
けれど、やれるのであればぜひとも、この曲をライブで弾いてみたいと思う。
そんなことを考えていると、芹沢さんは曲を気に入ったような顔をして聴いている。すると、彼女は僕と同じように鼻歌を口ずさんだ。
まだそこまで知りもしない曲のメロディ。それでも、芹沢さんの鼻歌を聴いた僕はおどろいた。
それはまさに、この歌を歌うボーカルの理想的な声であったから。他のみんなも弾きながらだけれど、たしかに同じようなことを考えているように感じる。
響子はすかさず、こう口にする。
「いいじゃーん! この曲を、一回戦目でやろうよー! ボーカルは……芹ちゃんで!」
そう芹沢さんに向かって話すと、本人は大きくおどろく。
「え! なんで、わたしが? ボーカルは岩崎君か響子ちゃんでしょう?」
「いやいやー! ここは芹ちゃんのボーカルでやるべきよ! キョウちゃんと担当をチェンジでー!」
つまり、芹沢さんがギターボーカルでメイン。僕がギターのみを担当するということである。
「けっ、けど。わたしには無理だよ。ねえ、岩崎君」
芹沢さんは困ったような顔で僕にそう助け舟を出してくるけれど、僕は芹沢さんに答える。
「いや、響子の言う通りにしよう。芹沢さんをメインにして、この曲でイベントに切り込むぞ」
「「意義なーし!」」
瑠偉たちは僕の言葉に、納得してそう口にする。
「ええ……」
芹沢さんだけがこの状況を読み込めずにいるけれど、僕の直感は間違っていない。もしかすると、この決断がバンドにとって大きく変化をする可能性がある。
しかし、芹沢さんはギターボーカルは一度もやったことがない。これはある意味で、博打なのかもしれない。




