第八十三話「ここにきて、まだ曲を増やすのか!カギは岩崎にあり」
練習場所には僕らだけになってしまった後、仙道に言われたように僕らは練習を真面目にやっている。
部屋からはベースの重い音。ドラムのたたく音が、大きく鳴っていた。
「それで……岩崎君。ここのフレーズなんだけれど」
「そこはね。ピックのアップダウンを細かくすると、音の強弱がはっきりできるはずだよ」
――ジャカジャカジャカ。
僕は芹沢さんに先ほどのギターフレーズについて教えて、弾いて見せる。
ギターはそこまで難しくないコードであるものの、弾き方がきちんとしなければうまく表現ができないもの。
僕が偉そうに言うほどではないが、ギターを弾くうえでは大切なことである。
「なるほど! こう……こうやって、こう?」
芹沢さんが僕が弾いたやり方を真似るように弾く。ぎこちないのは最初だけで、何回か弾いたらきちんとできている。
――物覚えがいいなあ。ギターを弾く右手のフォームが、前よりもきれいだ。
彼女の弾く姿を見ながら、僕はおどろきながらそう考えた。勉強はできるほうだと思っているけれど、ギターも同じように優秀かもしれない。
芹沢さんの成長速度は計り知れない。仙道たちも芹沢さんのギターに一目置く理由がわかる。
「そうそう! できているよ。あとは、曲のテンポにうまく合わせれば問題はクリアだと思う」
「ありがとう、岩崎君。よし! もう一度やってみるね」
その後も、反復練習を繰り返す芹沢さんに付き添いながら、僕もギターを練習することにした。
しばらくギターを弾く僕は、大型イベントで弾く曲目を確認する。
スポーツのトーナメント戦のような形でやるライブで、審査員によってジャッジ。負けたら、そこで試合終了のようなものだ。
曲選びは重要であり、慎重に選ぶ必要があった。今、練習をしている曲は決勝でやる予定。
一回戦でやる曲をどうするべきか、ずっと悩んでいる。
「どの曲もいいんだけれど、どれをやるべきか……」
頭で考えながら弾くギターがピタリと止まる。考えれば考えるほど、集中ができずにいた。
弾いていたギターも止まり、僕は迷いで頭がいっぱいだ。
――そうだ。みんなに相談してみようかな。
一人で決めるのはやはり難しい。ここは練習をいったんやめて、会議のようなものをやるべきだろうか。
「ここは……こうで、ジャララーンっと」
「瑠偉ー! ドラムにベースを合わせてよ」
「え? いいけど……今、サビのところにしない? ここのベースラインがまだ不安定で」
みんなのほうを眺めると、それぞれがきちんと練習をやっていた。芹沢さんはギターを弾き、瑠偉たちは一緒になって曲を合わせている。
練習に取り組む姿を見ていたら、とても練習をやめさせる空気ではない。
まだイベントまで時間があるとはいえ、ここで決めておけば士気も上がると思っていたが、言うのはやめておこう。
そう自分を納得させていると、僕に気が付いた響子がかけよってくる。
「どうしたの? そんな変な顔をして」
「変な顔とは失礼だな。おまえの練習はどうした?」
「それがさー! やるなら、キョウちゃんのボーカルとやろうかなって声をかけようとしたんだけどー。思いっ切り悩んでますみたいな顔をしていたからー」
響子がそう思うくらい、僕は顔に出ていたのか。
「なんか悩みがあるなら、あたしらに相談しなよー。どうせ、バンドのことでしょー」
こちらの考えていることをわかっているかのように、響子は話す。これまで一緒にやってきた期間が長いのは響子だ。こいつには、いろいろと敵わない。
少なからず、バンドの絆を感じるならば、こいつを頼るのも悪くないだろう。
「実はさ……」
僕は悩んでいた選曲について響子に話す。すると、響子は話を聞いてさけぶ。
「いや! それはみんなで決めないとダメでしょー! なんで、キョウちゃんが決めるのよー」
「いやいや……相談しようとしたけど、みんなが練習に真剣だから言いにくいなと」
「キョウちゃんはおバカさんだねー! バンドのことは、みんなで話し合わないと意味がなーい! なにを気を遣うのさー」
響子にしては今回はまともな答え。まさか、こいつからそんな言葉が出るとは思わなかった。
「おーい! みんな、練習をストップしてこちらに来てー!」
芹沢さんたちは響子の声に気が付くと、こちらにやってくる。
「どうしたの? なにかあった?」
「馬場先輩、どうしたんです?」
みんなは何事かと思って、そう響子に尋ねる。すると、響子がにやりと笑いながら答える。
「それがキョウちゃんがイベントでやる選曲を勝手に一人で決めようとしているんだよー!」
「おい! 話を変な盛り方をするなよ。それじゃあ、僕が悪いことをしているみたいじゃないか」
僕が響子に指摘をすると同時に、みんなの視線がこちらに向かう。
「いやいや、岩崎先輩! なんで勝手に決めようとしているんですか。そこは、俺たちにも意見を言わせてくださいよ」
「そうですよー。曲順はいわばバンドのモチベーションにも関係がありますし」
「だから話しかけようと考えたけど、みんなのやる気を邪魔しちゃいけないなあと」
「岩崎君。わたしたちは邪魔になんて思わないよ? バンドのことなら、みんなと話し合わなきゃ……」
瑠偉たちの責め立てる声と、どこかさみしそうで諭すように話す芹沢さん。
「うぷぷぷー!」
遠くのほうで、響子のしてやったと言わんばかりの笑い声が聞こえる。僕は顔を引きつりながら、謝ることしかできなかった。
「ということでー! イベントの決勝戦まで行くことを想定して曲を決めていきたいと思いまーす」
「響子……おまえが仕切るんじゃないよ」
いきなり響子が仕切りはじめ、どの曲順にしていくか決めることとなった。
僕らの持ち曲は五つ。イベントで必要な曲数は確保している。
「新曲は決勝で弾くのは確定でいいけれど、問題は一回戦目よねー」
「かなりインパクトを残しつつ、対戦相手を倒せるくらいの曲かぁ」
「なんか……バンドのライブイベントとは言えない会話だね」
音楽イベントらしからぬ言葉に、芹沢さんは苦笑い。しかし、それくらいの意気込みでやらなきゃ勝てないのは事実。
まだどんな学生のバンドが出るかを知らないだけに、油断はできない。
「わたしたちの弾くギャルゲーソングに、そんなインパクトがある曲がありましたっけ?」
「良い曲ばかりなんだけど、こう……ガツンという感じなのがないような」
瑠偉の言葉に、僕らは無言でうなずく。
新曲のような印象が残るとは違った、ごく普通なギャルゲーソング。しかも、カバー。
相手のバンドを打ち負かせる自信がないが、正直な話だ。
「思い出補正でどうのこうのできるイベントではなさそうだからなあ。うーん……」
しばらくみんなで考えるけれど、意見はバラバラ。いざ決めようとしても、なかなか決まらないものだ。
「そーいえば、金ちゃん以外の人が考えてきたギャルゲーソング。あれ、どうなったのー?」
ふいに響子が僕にそう尋ねる。たしかに、金本だけでなく和田先輩たちも曲を考えてくれる話もあった。
「多分……話は流れたな。ありゃあ、決めることができないーっていう感じだし。先輩たちも、忘れてそう」
「先輩たちは受験勉強で忙しいはずだし、それは仕方ないよね」
「「いざって時に頼りになりませんね!」」
瑠偉と瑠奈は同じ言葉を口にする。まあ、それはそれで仕方がないことである。
「どうするんです? 岩崎先輩。このままだと、決まらずに練習をしていくことになりますしー」
「うーん……」
そう言われた僕は、考え込んでしまう。すると、芹沢さんが一言。
「もしかしたら、時間はないけれど……岩崎君が弾いてみたいギャルゲーソングをみんなで弾くのはどう?」
「え? 僕の?」
いきなりそう提案をした芹沢さんに、僕はおどろきながら答える。今から新しい曲を覚えるのも悪くはないが、時間があるだろうか。
それに、僕が弾きたいギャルゲーソングというのがどういうことなのか。
「岩崎君が思ったインパクトのあるギャルゲーソングなら、一回戦目で勝てそうかなあって」
「いやいや、芹ちゃん。キョウちゃんの好きなギャルゲーは義妹モノだよ? それ系の主題歌とかって、バンドでやりにくいのばかりなのよー?」
「おい……僕がいつからそんなジャンルが好きだと言った。金本先輩のおかげで、ありとあらゆるジャンルのゲームをやってきたぞ」
「その中で、岩崎君が印象に残った曲はなにかあったりする?」
僕と響子が話していると、芹沢さんがそう尋ねる。
僕は少し頭で思い浮かべると、うなずきながら返事をした。
「あるよ。僕にとって、印象に残っているギャルゲーソング」
そう。僕にはあまたのギャルゲーをやってきて、今も心に刻まれた作品があった。
僕にとって、それはまさしく印象深いギャルゲーソングでもあった。




