第八十二話「バンドマンたちの恋事情は荒れる要因となるもの」
仙道たちと一緒に弾いた次の日。僕はステージのある部屋で、そのまま寝て過ごした。
立て続けにギターを弾き、喉がかれるくらい歌った疲労感でいまだに寝ている。
「むにゃむにゃ。もう、弾けないよぅー」
僕が無意識に寝言を言っていると、頭をコツンとなにかにぶつけられて目を覚ます。
「岩崎。朝飯ができたぞ? はやく起きんか」
「んんんー! ああ、小野寺君か。もう、朝?」
「ああ。しかし、おまえも仙道たちもよく寝ていたようだ。あいつらはまだ起きん」
小野寺君がため息をつきながら、横でまだいびきをかいている仙道を見ている。彼らもよほど疲れたいたのか、まだ起きる気配はなかった。
その後、小野寺君に無理やり起こされて不機嫌そうな仙道たちと朝食をすませる。
「今日もおまえのバンドメンバーが来るんだよな?」
「そうだね。多分、もう少ししたら到着するかも」
「よーし! 今日もバンド練習だ! あのやかましいおかっぱ頭野郎はこないだろうし」
部屋に戻ってから、仙道はそう僕に尋ねてくる。芹沢さんにこれから向かうと連絡があって、僕はそれを仙道に伝えた。
金本先輩たちは模擬テストやらで、今日は来ないはず。それを聞いた仙道は、なぜか嬉しそうだ。
「けど、あの芹沢って女。まだギターを初めて数か月だろう? それで、あそこまで弾けるようになっておいるのはたいしたもんだな」
「それは僕もそう思うよ。お父さんがギターを教えたりするらしいけど、芹沢さんはすごいよ」
「うちのシゲよりもうまくなるかもな!」
「聞こえているよ……晴君」
話が芹沢さんのギターについてなっていると、そう口にする仙道にシゲ君が間に入ってくる。
彼もパートがギターだが、そこは芹沢さんと同じである。
「けど、僕もそう音を聴いて思ったよ。それに、使っている機材も良いものばかりだね」
「ギタリストは機材にもこだわるべきだからな! 良いエフェクターを使うのも常識ってやつだ」
「「僕は、あんな良いエフェクターなんか買えないよ」」
僕とシゲ君は同じことを同時に話す。それだけ、僕らは貧乏なギタリストというものだろう。
そう話し終わって、しばらく仙道たちと軽くギターを弾いたり雑談をしていると、部屋の扉が開く。
そして、芹沢さんたちが現れて中に入ってきた。
「やっほー! またまた来たよー。やっているかね、野郎どもー!」
「この女……うるせえな」
「響子はああいうやつなんだよ……気にしないでくれ」
テンションが高めで登場した響子に仙道がイライラしながら話すと、僕はため息をつきながらそう返す。
「仙道君は泊ったみたいだけど、大丈夫だった?」
「え? ああ……うん。そこそこに良い体験ができたよ」
どこか心配そうな顔で話す芹沢さん。仙道たちになにかされたのかと心配をしてくれたのだろうか。
僕はなにも起きていなかったことを芹沢さんに説明をする。それを聞いた芹沢さんは、ホッとした様子。
――どれだけ、仙道たちが怖いと思っただのだろうか。まあ、あの見た目だとそう思ってしまうよね。
改めて仙道を見る。赤っぽい金髪にどこか目つきが悪く、耳にピアスをしている容姿だ。
「あ? なんだよ」
「いっ、いや……なんでもない」
にらみ返させた僕は顔の向きを戻し、響子たちに声をかけた。
「とりあえず、今日は金本先輩たちがいないから個人練習を少しやってから、全体で合わせる感じの日にしよう」
「オーケー! 今日も張り切ってやっていこー!」
「やっぱり……腹立つなあ」
仙道の声にあえて聞かないふりをして、僕らは練習を始める。
「岩崎君。ここのギターなんだけど、いいかな?」
みんながそれぞれ練習を始めた時、芹沢さんに声をかけられる。ギターと楽譜を持ち、僕に質問があるようだ。
芹沢さんは僕に近づくと、なぜかピタリとくっつきそうな距離。
――すごい……顔が近い。
僕はその距離感にドキドキしながら、つい赤面をしてしまう。
今までこんなに女の子と近づいたことがない僕にとっては、どうにも落ち着かない。
「それでね。ここのフレーズを弾くときって、どう……岩崎君?」
「え? あっ、ああ。そこはだね」
僕に気がついた芹沢さんがそう尋ねると、見ていたことをごまかすように僕は慌てて答える。
芹沢さんもその距離感に気づいてか、ハッとした顔をしている。
「てめえ……女といちゃいちゃをするために、ここに来ているのかあぁぁ? ああ?」
仙道が鬼の形相を浮かべながら、僕にそう話しかけてくる。その手には、ギターが強く握られていて、今にも振り上げてしまいそうだ。
「ちっ、違うよ! ねえ……芹沢さん」
「うっ、うん……」
僕らはパパっと離れ、そう言いながらもじもじとする。それに仙道はさらなる怒りのオーラを放っていた。
すると、向こうの方で瑠偉たちに絡んでいた成瀬君が、仙道を見ながらにやにやとしていうる。そして、仙道に聞こえる声でしゃべり出す。
「あれぇー? 仙道、もしかしてうらやましいのかなぁ? てめえは好きな子と進展がないからって、岩崎に八つ当たりをしてんじゃねーのー? ぷぷっ」
「あ? この野郎……なんて言った?」
成瀬君の言葉に反応をした仙道は、怒りの矛先を彼に向ける。ゆっくりと成瀬君の方へ行き、飛びかかりそうな勢いだ。
「最近はバンドばっかりだからなあ。女に飢えているなら、誰か紹介をしてやろうか?」
「俺はな、てめえと違って女をとっかえひっかえしてねえんだよ! かなで一筋に決まってんだろ! 女たらしのてめえは黙ってろ!」
「……あ? この成瀬様はすべての女を愛する男なんだよ。ハンサムをなめんじゃねえ!」
二人はそう言い争い始めると、いつの間にかケンカに発展する。
「あわわわ……」
「おっ、おい。ここでケンカはやめようよ」
その様子を見ている芹沢さんはあたふたとしているし、僕は仙道たちを止めようと向かう。すると、小野寺君とシゲ君がなぜか僕を止める。
「気にするな。あいつらは、よくああいうケンカをするから止める必要はない」
「うん……晴君はかなでちゃんのことになると、なぜかスイッチが入っちゃうから」
「……かなでちゃん?」
初めて聞く名前に、僕はそう二人に尋ねる。
シゲ君が言うには、幼なじみのような女の子で、仙道の片思い相手であるらしい。それだけでなく、同じようにバンドを組んでいて仙道たちより学校では有名なガールズバンドという話。
――あの仙道にも、好きな子がいるんだなあ。
仙道はバンドのことばかりだと思っていただけに、それなりに色恋があるにもおどろきだ。
「なんかさー! ギャルゲーの主人公みたいだねー」
「さすが馬場先輩。着目点が違いますね」
「それっぽいギャルゲーはたしかあったような……」
近くにいた響子がそう話すと、瑠奈たちもそれに反応をして会話をしている。たしかに、それらしいゲームもありそうだなと、僕も思った。
「だああああ! てめえら、いつまでもふざけてねーで練習をしやがれ!」
仙道はいら立ちをさらに増しながら、僕らにむかってさけぶ。
「仙道。俺たちも練習といきたいところだが、学校から呼び出しだ。岩崎と一緒に夜中に演奏をしたのがバレたらしいぞ」
「ふざけんなよー! なんで、俺たちがまた学校に行かなきゃなんだ。俺はいかねーぞ」
「晴君……今、行かないと停学が退学になっちゃうよ」
「はは! 退学になったら、愛しのかなでちゅあんに会えなくなるぞー」
「うぐっ……しかたねえか」
学校から呼び出されてしまった仙道は、仕方なく納得をしたような様子でギターをスタンドに立てかける。
「ということだが、おまえたちはそのまま練習をしているといい」
「いいか! 練習をやりまくって、昨日より良い演奏に仕上げていけよ!」
そう言い残し、仙道たちは部屋から出ていった。
「……それじゃあ、練習をやろうか」
そうみんなに声をかけて、改めて練習を再開させる。
僕は芹沢さんに目を向けると、さきほどのこともあってかどうにも変な雰囲気になっていることに気がつく。
妙に芹沢さんを意識しつつ、今日の合宿が始まった。




