第八十一話「まだ夜は続くなら、俺たちと演奏をやろうぜ!後編」
僕の歌うボーカルが、仙道たちの弾く音に乗せてスピーカーから鳴り響いていく。
迫力のある楽器の音色より、歌声が弱く感じてしまう。けれど、なんとも心地が良いのだろう。
――やっぱり、ロックをメインにやるバンドの弾く雰囲気はすごいな。
歌う僕はそう思いながら、声量を上げてオケに食らいついた。
正直、こんな僕のボーカルでいいのだろうか。お遊び感覚のセッションだろうけれど、仙道たちの反応が気になる。
本来、仙道のボーカルを聴き慣れているシゲ君たちにとってはきっと違和感があると思う。
歌っている僕は、少し視線をずらしてみんなのほうを見ることにした。
すると、誰の顔もくもった様子はなくどこか気持ちよさそうに弾いている姿があった。
特に、仙道はものすごい満足そうに笑みを浮かべて、ギターをかき鳴らしている。
これはどう反応をしたらいいのだろうか。少なくとも、僕のボーカルが彼らに受け入れられている気がした。
――あっ……どうしよ。次に歌う歌詞の英語がわからない。
英語の歌詞を歌う機会がほぼない僕。しかも、この曲に出てくる歌詞はうろ覚えだ。
このままでは曲がめちゃくちゃになってしまう。
すると、横でギターを弾いていた仙道がマイクスタンドからマイクを抜き、手前にあるボーカル用のスピーカーに足を置いて歌い出した。
僕が歌詞をうろ覚えだったのがわかっているのか、僕のボーカルを打ち消すような感情がこもった歌声。
――ほら。このままだと俺のボーカルに負けちまうぞ? おめえはその程度の男ではねえはずだ。
そう訴えかけるように歌いながら、僕のところへ歩み寄ってくる。
――ああ。僕だって負けていられない。
こちらもそんな答えを仙道に返すように、僕はマイクに向かってさけぶ声で歌う。仙道と僕の声が誰もいない空間の中で、重なって響き渡っていった。
弾くギターも、まるで楽しむかのように僕のプレイに応える音色をはじき出してくれていた。それくらいこの瞬間が、なによりも気持ちいがいい。
観客などはいない。ただのセッションだろうとも、僕らの中では最高のライブだ。
そう思えるほど、僕は仙道たちと一緒に曲ができることに高揚している。
最後まで演奏をやりきった後、僕はその場に倒れ込んだ。
――はあはあ……。なんか、久しぶりに倒れるくらいよく演奏をしたなあ。
荒い呼吸をしながら、天井のライトを見ながらそう思った。
「はあああ! 疲れたぜ! いやあ、最高のライブをやったような気分だぜ」
僕と同じように倒れ込んでいる仙道も、満足そうに口にする。
「晴君も岩崎君も、白熱しすぎるよー。僕らの演奏なんか、まともに聴いてないんだもの」
「ふっ。その通りだが、俺たちもつい曲に乗ってしまったな」
「俺様のベースが台無しになっただろうが! ったく、暴走した仙道には頭を悩ますぜ」
シゲ君たちが僕らのもとにやってくると、それぞれが話している。けれど、みんなも演奏が良かった印象だったようだ。
ギャルゲーソングを弾いた時とは違った快感を味わう僕は、それだけでも良い経験になった。
「ありがとう、みんな。僕にとってみんなと弾けたのが、うれしかったよ」
僕は素直に感謝の言葉を仙道たちに言う。
「こちらこそだ、岩崎。俺たちにとっても、いい刺激になったよ」
「おまえの顔はかっこよくないが、同じ学校だったら、俺たちのバンドに入れてやってもいいくらいだぜ」
「成瀬君……それは失礼だと思うよ? けど、岩崎さんのギターもボーカルも、惹きつけるものがあるのは本当だと思うな。ねえ、晴君」
小野寺君や成瀬君が話す中、シゲ君がそう仙道に問いかける。少しなにかを考えた後に、仙道が口を開いた。
「はっ! 俺たちのバンドにギターボーカルは二人もいらねーよ! こいつには、こいつのやるバンドがあるじゃねーか」
「あっ、ああ……」
突き放すような言い方だけれど、たしかに僕には同好会のみんなとやるバンドがある。あのメンバーでしか出せない、僕だけのライブができるのだから。
「けど、ならなんで岩崎さんを交えてバンドで弾こうとしたの?」
「別に理由はねーよ。ただの気まぐれだ」
「あー! こいつ、絶対になにか考えがあったからに違いねーぞ。本当はバンドメンバーに入れたいとか思ってたんじゃねーか?」
「うるせえ、成瀬! それよりてめえは、どのライブでもかっこつけて弾くんじゃねーよ! 見ていて、腹が立つんだよ」
「わわ! 図星をつかれて俺に八つ当たりをしてきやがったー!」
「このやろう……」
成瀬君が仙道をおちょくると、ギターを握りしめて追いかけ始める。その様子に、他のみんなは大笑いをする。
「でも、僕らと弾いていた時の岩崎君はすごかったけど、晴君は違って見えたのかもしれないね」
「違って見えた?」
シゲ君が僕にそんなことを話すと、聞き返してみた。
「岩崎さんと歌ってみて、晴君はとても楽しそうだったよ。けど、それ以上に岩崎さんはギャルゲーソングを弾くときのほうがもっと輝いて見えたと思うんだ」
「そうなのかなあ?」
「それが一緒に曲を弾いてみてわかったんだと思う。岩崎さんがやるべき曲は、ギャルゲーソングだということを」
シゲ君が仙道を見ながらそう答えた。
違うバンドと弾くとそのバンドの色に染まることがある。けれど、僕にはやっぱりギャルゲーソングを弾くのが合っているということだろう。
「でも、楽しい時間だったなあ」
「うん。僕も本当にそう思っているよ」
名残惜しそうに話すシゲ君に、僕はそう答えた。
この先、仙道たちと一緒になって弾くことはないのだろう。彼らは、自分たちのロックをたくさんの人に聴かせるために。
そして、僕らはギャルゲーソングをもっと多くの人たちに知らしめるために。
道は違えど、目的がどこか似ているかもしれないと思った。
それでも、僕は今日。仙道たちと一緒に曲が弾けたことを決して忘れないだろう。
演奏中に感じたバンドの対する熱い気持ちを、芹沢さんやみんなと生み出していけるように。
「よーし! なら、今度はギャルゲーソングをみんなとやろうか」
僕はそう仙道たちに言ってみるも、みんなからは即答。
「「ぜってーにやらねー! なにが、ギャルゲーソングだ! ロックじゃねーだろうが」」
「だと思ったよ。ははは……」
仙道たちとのセッションは終わり、気が付けばもう夜中になっていた。
なんとも濃い一日だったと、僕は苦笑をするのだった。




