第八十話「まだ夜は続くなら、俺たちと演奏をやろうぜ!前編」
仙道たちとのライブも終わってからは、合宿の日々が続いていった。
夜中までバンドの練習をやる話であったが、女子がいるという理由でそれが叶うことはなかった。
「いやあー。泊りがけを考えていたが、さすがに男女が一緒にとはいかんだろうな。ということで、芹沢たちは私が自宅まで送ろう」
途中になって現れた山本先生がそう僕らに話すと、女子を車に乗せる。
「えー? じゃあ、あたしらは合宿はどうするのー?」
「明日になったらまたここまで送ってやるから安心しなさい」
響子が尋ねて山本先生がそう答えた。
――まあ、たしかに合宿と言っても女子高生が泊るのは問題になるか。
僕がそう納得をしていると、金本が先生に向かって声をかけた。
「我々は残るぞい! 男子ならば泊っても問題なかろう」
「いや……金本。おまえらは明後日に受験対策の模擬テストが学校であるだろう? それは、テストを終えてからにしなさい」
「きえええええい! そんな話は聞いていないぞ」
「おまえが忘れているだけだろう? とりあえず今日は帰って、テストが終わってからここに戻ればいいじゃねーか」
「ぐぬぬぬぬ……」
荒木にそう言われた金本は、しぶしぶ納得して帰り支度を始める。
「とっ、とは言っても。僕らは電車と徒歩で帰らないとだねえ」
「もともと僕らはアドバイザーみたいなものだからね。岩崎君たちの合宿には、僕らはそこまで必要とは言えないさ」
「受験対策のほうが重要といえば、重要だな」
「ということで岩崎君。僕らもいったん帰るけど、君はどうする?」
みんなが一時帰宅をしようとする中、和田が僕に尋ねる。
てっきり泊ることを想定しているため、親に今日は帰らないと言ってしまった。いまさら帰宅しても、自宅のカギは閉められているだろう。
そのことをみんなに話すと、仙道が僕の肩に腕を置いて口にする。
「なら、こいつは泊りってことでいいな! それでいいだろう? そっちの先生はよう」
「おっ、おい……仙道」
「まあ、そういう事情なら仕方がないか。岩崎、特別に許可をしてやるが小野寺君のご家族に迷惑をかけるなよ? なにか問題を起こしたら、イベントは辞退だからな」
「よーし! 決まりだ決まり! ほら、さっそくギターでもやろうぜ」
仙道は意気揚々としながら話して、僕を強引にステージがある部屋へと引きずる。
――いったい、こいつはなにをしようと考えているんだ?
みんながそれぞれ帰っていく中、僕はこれからなにが起きるかわからずにいる。
残ったのは仙道たちと僕。合わせて五人。
ステージがある部屋に戻ると、僕から離れた仙道が話す。
「よーし! それじゃあ、夜はまだまだこれからだからな。さっそく、なにか弾こうぜ」
「けど、晴君。岩崎君は僕らのバンドとは無関係だよ?」
「そーそー。なにか弾こうって、なにかできるわけでもねーだろ」
いきなり演奏をやろうと言う仙道に、シゲ君や成瀬君が反論をする。
彼らの言う通り、この中で僕はまったく関係のないバンドメンバーである。仙道の言うなにかを弾こうとは、僕も含めてのことだろう。
いきなり今まで一緒にやったことのない僕を入れても、そんな良い演奏はできるわけがない。
「僕のことはいいよ。仙道たちのバンドでやればいいじゃないか」
僕もシゲ君たちと同じようにそう仙道に答えると、彼は急に不機嫌となった。
「ばっかやろう! せっかく違うバンドのやつがいるんだ。一緒にやるのも練習になるじゃねーか」
「「とは言ってもねぇ……」」
仙道以外のみんなは、どうにも乗る気にならない。すると、ギターを剣を持つかのとうに構えると、こちらに向かって振り下ろそうとしている。
「わかったわかった! わかったから、ギターをおろせよ」
奇行に走る仙道をなだめる僕らは、結局全員で何かを弾くことになった。
しかし、僕はほとんどギャルゲーソングだけをこれまで弾いてきた。オリジナルの曲、もしくはゴリゴリのロックな洋楽をやるであろう仙道たちとではジャンルが違う。
「それで、おまえはどの曲をやるかは決めているのか?」
そう尋ねたのは小野寺君。すでにドラムセットの前でスタンバイをしていた。
「小野寺……おめえは準備がはえーな」
「僕らの中では常識人だからねえ。やるからには、きちんとやる人だよね」
一人だけドラムの前で腕を組む小野寺君に、シゲ君たちが話すと楽器を持ち始めた。
――この雰囲気では僕もギターを構える必要がありそうだな。
みんなに釣られるように、僕もギターを持って構えた。
「よーし! それじゃあ、ここはニルヴァ-ナで一曲をやろうぜ。もちろん、なんの曲かはわかっているよな?」
「……スメルズかあ」
僕はそう小さく口にする。その曲は僕でも知っているし、なにより仙道の気に入っている曲名だからだ。
「わかってんじゃねーか! 俺とおまえでボーカルをやるぞ」
「え? ボーカルは一人だろう? なんで、僕まで」
「いいんだよ! 一緒に歌ったら面白そーじゃねえか。ほら、さっさと位置につけ」
仙道に言われるがまま、僕はステージに上がってマイクスタンドのところまで行かされる。
僕の隣に仙道。その後ろにシゲ君たちがいる。
――なんか、変な成り行きになったけれど……仙道たちのバンドとやるのは、これが初めてになるなあ。
仙道たちのバンドがどれくらいの実力があるかは、十分に理解をしている。その中で、僕が混ざっているのはなんとも不思議な感覚だ。
なるべく足をひっぱらないようにしなければと僕は、ギターに集中をしていく。
――ジャージャジャン! ジャーラララン、ジャージャラン! ジャララン!
曲のイントロ。ギターの音が最初に鳴るのだが、それをシゲ君が弾き始めた。
そして、繰り返すように仙道。僕も同じフレーズを奏でる。
三つのギターによる音は原曲よりも厚みを増し、タイプの違うギターの音色がはっきりとわかる。
――ダッ、ダッダ! ダダダン!
そこにとてもパワフルで迫力のあるドラムが合わせてきた。小野寺君のドラムは正確さが段違いであるが、前よりも力強さを感じる。
成瀬君のベースも入り、僕らの演奏が一つになった。
なんてすごい演奏になっただろう。同好会のみんなとは違った雰囲気バンドの感じに、僕は息を飲んでしまう。
――まだイントロからAメロに入る前なのに、こんなにもすごみがあるだなんて。
僕は仙道たちの弾く音を聞きながら、そう頭で考えてしまう。正直、この音に合わせるのがやっとなくらいだ。
必死に食らいつくように弾く僕。そこに、仙道がマイクに向かって歌い出す。
仙道のボーカルは僕や響子にはないタイプの歌い方。原曲通りの歌を歌うのでなく、それを完全に自分のものにするような声。
それがオケに良い具合に重なっては、うまくかみ合う。
僕はギターを弾きながら、仙道の歌声を聴く。彼のボーカルを引き立たせるように、ギターの弾き方をチェンジさせた。
それにしても、シゲ君たちの演奏は完璧である。バンドメンバー同士の信頼感なのか、誰一人もズレやミスはなく、どの音もそれぞれのパートとリンクされている。
ここまでお互いの音に信頼できるのは、そうできることではない。
メンバーでもない僕は、彼らの音に負けてしまっていた。
曲は進み、サビまで来てしまう。このままでは、僕は単にお荷物。
そう少しいづらい感じで弾いている僕に、仙道は歌いながら目線をよこす。
――ほら、サビはおめえが歌えよ。
そんなことを言っているかのように、仙道の視線を感じる。
僕なんかのボーカルがこの勢いで、はたして歌っていいのだろうか。そう思っていても、仙道はそれを許さない。
ほとんどヤケクソだろう。僕はどうなっても知らないと、開き直るようにマイクに近づいた。
――ああ、もう! なるようになれだ!
僕はもうなにも考えず、感情のままサビのパートを歌うのだった。




