第七十九話「練習の成果がよく出たライブに、その男は涙する」
最初の幻想的なイントロをギターやベースでアレンジをした音で奏でる。
少ない楽器の音で表現をしているため、曲の厚みは原曲よりはない。けれど、響子たちのコーラスが入って形になっている。
それに、バンドでしかできないサウンドの良さがそれを補っている。
――ジャーン! キュワワァァン。
イントロのここは、ギターのハイポジションで僕は弾く。ギターの高音を揺らし、ハーモニクスも加える。
そこからAメロに入るのだが、ここで一気に迫力を出す。
僕はギターのポジションを上へと変え、リフを弾くとみんなも同じようにそれに合わせて弾く。
タイミングを見計らって、僕は声をマイクに向かって出し歌う。
――うん。歌い出しはうまくできた。
声に緊張感はなく、真っ直ぐな歌声が響いていった。歌い出しはブレスを意識してやると、うまくいく。
これはボーカル講座の動画で見た、テクニックの一つ。僕はそれをきちんと意識をしながら実行する。
やはり、あの動画を観たのは正解だった。
けっして上手いとは言えない僕のボーカルだけれど、不思議と曲になじんできたと思えてくる。僕はそのままメロディを口ずさみ、歌詞を乗せていった。
仙道たちは、僕が歌を聴いてどう感じただろう。ギターを弾きながら歌う僕は、目線をわずかに彼らのほうへ向ける。
表情ははっきりとは見えないが、そこまでおどろいているとは言い難い。
まだ曲は始まったばかり。ここからが、本番である。
Aメロは落ち着いた感じの雰囲気を出すのだけれど、サビからは一気に迫力が変わる。
このギャルゲーソングは、そこが見せどころだ。
僕は声の感情を少しづつ変化させていき、サビが来るのを待つ。バンドで弾く音も、だんだんと勢いがついてきた。
――よし……ここだ!
サビへと入る前、僕はここでギターの弦を力強くはじいた。そして、歌声も強弱をはっきりとさせる。
瑠奈のドラムがボーカルの後に、激しく音を鳴らす。
ドラムが鳴った後に。わずか、一秒。
わずかな時間に、すべての音がピタリと止まる。そして、サビの冒頭部分である歌詞を口ずさんだ。
完璧な入り。曲の見せ場であるサビが原曲と同じように再現できた。練習をしてきた中で、一番の完成度。
その勢いのまま、駆け抜けるようにサビを演奏して歌う。
さきほどまでの落ち着いた曲調はガラリと変わって疾走感を生み出していく。
僕はオケの音を背中で感じて、それに合わせるように声を上げた。そこに、響子たちのコーラスも再び重なってハモっていった。
学校での練習。そして、この合宿初日で練習をした時よりうまく演奏ができている。
誰かに聴かせることが、これほどまでに演者へ影響を与えることに僕は改めてバンドを組むことの素晴らしさを実感する。
なにより、ギターがいつも以上に鳴りが良い。普段からは僕の手では出せない音色がアンプを通して出ていた。まるで、ギターがこの曲を盛り上げてくれているように感じる。
仙道が言っていたギターがすごいプレイをさせてくれる。その言葉が本当にそうなったと思ってしまう。
死んだギタリストの意思なのか、それともへたくそな僕に力を貸してくれているのか。
ただ、このギターを弾くと不思議なくらい一体感が増していく。僕はこのギターと共に、ギャルゲーソングをさらにすごくしていった。
この時、金本たちや仙道らがどんなことを思って聴いているかはわからない。そんなことを考える隙がないくらい、僕は演奏に集中をしていた。
それと同時に、みんなと弾くこの曲がなによりも楽しい。演奏する音に興奮と高揚感を体で感じながら曲を弾き続けて歌う。
気がつけば、曲を通しで弾き終わっていた。
――ジャララーン! ジャジャン!
エンドロールを弾き、バンドの音がミュートしてフェードアウト。
僕らはやりきった気持ちで曲を終えると、部屋が静まり返っているのに気がついた。
「……あれ? みんな、どうしたんだ?」
仙道やシゲ君。成瀬君や小野寺君は口を閉じたままでなにも話さない。
それだけでなく、金本たちも沈黙していた。
これまで、こういった雰囲気になったことは何度もある。ところが、今のこれはその時とは違った空気感が漂っていた。
もしかしたら自分たちで気づかないミスか、そこまですごく演奏ではなくてガッカリしたのか。
なんとも重たい雰囲気に、僕らはなんとも言えない。あの響子ですら、茶化さずにいるくらいだ。
この空気感にいたたまれなくなった僕は、意を決して尋ねてみる。
「その……僕らのライブはどうでした……でしょうか」
思わず敬語でライブを見ていた全員にそう聞いてみると、どこからかすすり泣く声がする。
「……へ?」
僕はその声がするほうを向くと、金本の目に涙が浮かんでいる姿があった。
金本の涙に僕らはおどろく。なぜならば、彼がこれまで泣く姿を見たことがなかったから。
「実に、すばらしい演奏だ……。ぐすっ! この金本、過去一で感動をしている」
「いや……金本。おまえの顔が気持ち悪くて、ちょっと引くわ」
「ああ。感動をするのはわかるけど、さすがに泣き顔はきつい……」
「きえええええええええい!」
荒木が引きつった顔で金本に話して、和田たちも続けてそう言葉にする。それを聞いた金本の奇声が大きく鳴り響く。
「つっ、つまり。金本が岩崎君たちの演奏を聴いて泣くってことは、それだけよかったということじゃないかなあ」
「岡山先輩……」
「あいつが曲で涙を流すときって、ギャルゲーのストーリーがよかったか、ギャルゲーソングの神曲を聴いたときくらいだからな」
「けど、たしかにわかるかもね。おそらく、岩崎君たちが今までやってきたギャルゲーソングの中で、一番心を突き動かされた気がするよ」
岡山が僕らにそう説明すると、他の二人がそんなことを口にする。
「金本を泣かせるほどのギャルゲーソングのカバーか。岩崎君たちは、僕らを超えたのかもなあ」
「いやいや! そんな……」
和田はしみじみとした様子で話を続けるけれど、僕は首を横に振って否定してしまう。たしかに良い演奏はできたと思うが、彼らを超えているとは思ってもいない。
「いや。岩崎君たちのギャルゲーソングはこの金本様をうならせたのだよ……誇りたまえよ」
「はっ、はあ」
先ほどの泣き顔はなく、真顔でそう話す金本の言葉が本当であると感じた僕だが、思わず空返事をした。
「ふっ……これなら大型イベントでギャルゲーソングの良さを知らしめることを君らに任せらせそうだ。それに、見たまえ!」
金本がそう大きな声を出し、仙道たちのほうを指さす。その先には、仙道たちがいた。僕は仙道たちのいるところへ歩む。
「はああぁぁ」
僕が近づくと、仙道は大きくため息をつきて頭をかく。そして、僕の顔を見ながら、その口を開いた。
「岩崎、良いギターボーカルだったな。久しぶりにすげえバンドのライブを見たぜ」
「仙道……」
「あいつらが言った言葉じゃねえが、俺のハートにバシッと響いたぜ。おめえらのギャルゲーソングをよ」
仙道は負けを認めたような言い方で、そう僕らのやったライブの感想を話す。その顔は悔しさもあるが、どこか満足そうであった。
「あの曲、イベントでやる曲なんだろ?」
「ああ。もちろんさ」
そう尋ねる仙道に僕は答える。この新曲で、大型イベントで勝ちにいくのだから。
僕の答えを聞いた仙道は、腕を伸ばしてこぶしを前に出す。
「絶対にイベントを成功させろよな。おめーらならできるよ」
彼なりのエールなのだろうか。仙道の言葉に僕はにやりとして、同じようにこぶしを前に出した。そして、仙道のこぶしにコツンと軽くぶつける。
僕らのやった曲が、この日みんなに届けることができた。それは、間違いない。
「ああああああ! くやしいじゃねーか! おい、まだ合宿は続けるんだろう。なら、もっと演奏しまくろうぜ」
やっぱり悔しかったのか、仙道がさけぶとギターを持ち出して弾こうとしている。
そんな仙道に僕も応えるようにギターをふたたび手に持った。
お互いのバンドが演奏を終えるも、まだまだ合宿は終わっていない。二つのバンドが練習する時間は。これからも続いていくのだった。
自分たちのバンドを信じて。




