第七十八話「それぞれの想いを胸に……いざ、合宿ライブ再開!」
ステージのスピーカーから鳴るのは、一曲目のギャルゲーソング。
芹沢さんや瑠偉たちを加えた新メンバーで初めて覚えた曲である。
――ギュワーン! ジャカジャカ!
僕はギターでコードを弾き進めていく。どんなに曲数を増やそうとも、演奏を忘れることはなかった。
他のみんなも問題なく、曲をそれぞれが弾いている。楽器の音に合わせながら、響子はマイクで気持ちよさそうに歌う。
その演奏を仙道たちは、ステージの近くで聴いていた。
僕らの弾く姿を見て、彼らはどう思っているのだろう。その表情からは、まだ読み取れずにいる。
それでも演奏は続いていく。まだ、仙道たちをおどろかせるには早い。
ギターを弾き、コーラスとハモリを歌う僕の目は芹沢さんへと向く。
――ギュワワァァン! ジャララーン!
彼女の弾くギターの音色がより目立っていた。テクニックやフィーリングがこれまでより良く、僕のギターを完全に食っている。
ギター本体の性能やエフェクターのおかげかもしれないが、芹沢さん自身の成長が大きいだろう。ギャルゲーソングを弾くたびに、その成長が垣間見えていく。
もちろん芹沢さんだけでなく、瑠偉や瑠奈の演奏レベルは上がっている。そして、僕や響子も。
それは、バンド自体が大きく変わってきているということだ。金本たちとやっていた頃とは違うバンドへとなりつつある。
そんなことを思わせるほど、演奏をしていて感じている僕はいつもより楽しく演奏ができているのだった。
「へえ、聴けるレベルになってきているじゃねーか」
「ふふふ。だろう? 僕らがいずとも、岩崎君たちはギャルゲーソングをここまでうまく表現できているのだよ」
「もともと、岩崎の野郎はできるレベルの男だろうが。ギャルゲーソングをやらなくても、オリジナルで張り合えるんじゃねーかな」
「岩崎君はギャルゲーソングを弾くことで輝ける男なのだ。僕らが、そう調教をしてやったようなものだからな!」
「調教って……てめえ」
演奏の途中、仙道と金本がなにかを話している姿を見つける。どんな話をしているかは曲の音で聞こえないが、珍しい組み合わせだ。
あの二人は相性が悪いと思っていただけに、意外。
「けど、まだ伸びしろがありそうな気がするんだよなあー。聴けるけど、そこまですげえとは思わないぜ」
「それは認めようではないか。だがしかし、それは最後にやる曲を聴いたら考えが大きく変わるだろう」
「あ? ああ。俺らはそこまではっきりと聴いたわけじゃねーからなんとも言えねーけど、そんないきなり変わるのか?」
「ふっふっふ。みなの演奏と岩崎君のメインボーカル……そして、あのニューギターがあれば間違いなく変わる!」
なぜか誇らしげに話す金本を見る僕は、だいたい察しがついていた。
あそこまで金本が自信を持って言うのだから、それに僕らは応える義務がある。
一曲目が終わり、次の曲へと変わっていく。
僕らが本気を出すべきは、ラストの新曲。けれど、この二曲目も思いれがあるものだ。
バンドを組んで弾くことの難しさや、それぞれの実力不足を認めて努力をしたことで弾けるようになったギャルゲーソング。
音楽研究同好会が一丸となって学校で披露できたもの。
僕は弾くギターがその曲のコードを、勢いよく奏でる。それに呼応するように、みんなの弾く音が重なっていった。
曲の演奏に合わせて、僕と響子のボーカルがうまく噛み合う。ここまで良い感じに合わさるのは久しぶりだ。
仙道たちに聴かせるためなのか、いつもより気合が入っているボーカル組み。
――なんか、この感じ……懐かしいな。
それはかつて金本たちと一緒にライブをやっていた頃に感じたライブでの熱。
金本たちのうますぎる演奏を背に、僕らがボーカルでさらに曲を表現できている完全無欠のムーブ感。
メンバーを新しくしても感じることができて僕はどこか心地よさを体で感じる。
それにギターが心なしか応えてくれている気がした。あの頃よりも、より感情がこもったプレイをさせてくれているから。
「ふむ! 以前よりも、音が格段にすばらしいな。あの、呪物ギターが本領発揮していいる」
「たしかに曲のギターに迫力がすげえな。本当にギャルゲーソングか?」
「ふっ……成長しているではないか、岩崎君」
マイクスタンドで歌う僕の目に、またも金本たちがいく。金本はなにか満足そうに演奏を聴き入っているようだ。
曲のサビから、ギターソロへと変わる。僕は視線を芹沢さんへと向き、一緒にソロを奏でる。
――ギュイィィン! ジャララ、ジャラーン!
芹沢さんの弾くギターに合わせ、僕はピックで弦をすばやくはじいて左手の指を動かす。一弦、二弦から高音の伸びた音が鳴り、流れるように弾きこなす。
まったくもって、なんときれいなソロだろう。
「つーかよ。おめえらは、もうあいつとバンドをやらねーのか?」
「僕らはもう同好会を引退している身でな。岩崎君たちとは一緒に弾けぬだろうな」
「……さみしくねーのか?」
「まあ、さみしくないと言えばうそになるな。だが……」
「だが? なんだよ」
「あのメンバーならば、きっとさらにいいギャルゲーソングを奏でていけるだろう。僕らがいなくともな」
ギターソロも終わり、二曲目も終わりに近づく。僕らは、良い演奏ができているとお互いに目を合わせながらそう思った。
僕は演奏を見ているみんなをステージから眺める。金本たちがなにかを思いながら僕らを見ている。
その顔は良くやっていると言わんばかり。だが一瞬、どこかさみしそうな表情を僕は見逃さなかった。
――金本先輩……どうしたんだろう。
僕がそう考えるも、次が最後の曲。
まだ完全とは言い難いけれど、仙道たちにすごいと言わせることができると金本が言ってくれた新曲だ。
金本は表情を変え、僕を見ながら無言でうなずく。
――ええ。わかっていますよ、金本先輩。僕のメインボーカルで、仙道たちにぎゃふんと言わせてやります。
僕はギターを構え直し、マイクスタンドの高さを変える。僕が歌うメインボーカルとしてのベストピジョン。
心臓がドクドクと動く音が次第に大きくなる。
胸の高鳴りは緊張から来るのか。それとも、すごいライブができると自信の表れか。
場は静まり返る。誰もが、今かと演奏が始まるのを待っている。
僕は深呼吸をし、ギターのフレットを握りしめてピックを手に持つ。そして曲をやる合図をみんなに送り、演奏が始まった。
――とりあえず、すべてを出し切ってみよう。
イントロの頭。響子たちはコーラスパートを歌い出す。その声を聴きながら、僕はそう自分に言い聞かせる。
目を閉じてマイクに口を近づけ、僕は歌い出した。




