第七十七話「飯の話題はやはりギター!けれど、僕らの演奏は再開する」
僕らの演奏を仙道たちに見せるライブが始まるというのに、夕飯の時間と被ってしまったため、全員で夕飯を食べることに。
人数が多すぎるのか、自宅の大部屋に通されたけれどそこには大量の料理が並んでいる。
「……なんか、すごいな」
「あ? そうか? 小野寺の家では、これくらいが普通だよ」
「仙道たちは、よく食べに来るの?」
「まあな。バンドの練習はここでやることが多いし、夕飯を食べる日がほとんどだよ」
そう話す仙道は箸を持ちながら、皿へ焼きそばを盛り始めた。
仙道だけでなく、シゲ君や成瀬君も同じで慣れたように勝手に食べている。
――さすが同じメンバーの家で食べるのはわかるが、僕らもいいのだろうか。
今日、来たばかりの新参者である僕らに、これだけの食事を提供してくれることに申し訳がない気持ちになってしまう。
「さあ! 遠慮なく食べなさい。バンドマンっていうのは腹が減るものなのだろう?」
そんな僕に、小野寺君のお父さんは軽快な声でそう話す。
「うーまーいーぞ! こんな家庭料理で感動をしたのは初めてであーる!」
「金本先輩……」
横でまったく遠慮をするこなく、金本が料理をむさぼっていた。こいつは、どれだけ同好会に恥をかかせるのかとため息をつく。
「はっはっは! いい食べっぷりじゃないか。それでこそ、男だ」
――本当にこの人は神社を営む人間なのだろうか。もっと物静かなイメージがあると思うんだよね、宮司ってやつは。
僕は小野寺君のお父さんを見ながら苦笑いを浮かべると、目の前にある料理を口に運ぶ。
「うん……本当に美味い」
僕は金本が言うように、その料理の美味さを実感する。
しばらく夕飯を食べていると、仙道が話しかけてきた。
「ところでよー! おまえのギターって、また違うのにしたのか? 前に使っていたのはどうした?」
「え? ああ。和田先輩に言われて、新しいギターにしたんだよ。前のは自宅に置いてあるよ」
「ほう! やっぱり新しいギターっていいよな!」
僕の話に仙道は気をよくして、そう答えた。すると、横にあるギターを僕に見せる。
「実は俺も新しいギターにしたんだよ。ほら」
「むむ……そのギターは!」
仙道の持つギターは、以前に僕が楽器屋で欲しがっていたモデルのギターと同じ。色は違うけれど、まぎれもなく本物だ。
「いいなあ! それ、僕が欲しかったやつだ。良い音を出すんだよ」
「おっ、さすがだな! 俺のロックな魂に、ビビッと来るんだなあ!」
なんともうらやましい。本音を言えば、このギターを使って曲を弾いてみたいと思うほどである。
すると、仙道は逆に僕の後ろに置いておいたギターを見る。そして、ギターを手に取った。
ヘッドからネック。ボディにピックアップなど、ありとあらゆるところをじっくりと観察をしている。
「軽く使わせてもらったけどよ。なんていうか……音に違和感があったんだよなあ」
「違和感? それって、どんな?」
「いや、なんて言えばいいかわからねーけどさ。俺が弾いている感じがしねーっていうか」
「まあ……そのギターを手に入れた後のことなんだけどさ」
このギターはいわくつきの代物。死んだギタリストの念が込められていると、僕は大げさに説明をする。
仙道のことだから、そんな怪談を信じるとは思っていない僕だが彼の顔は真顔だ。
――え? もしかして、信じちゃうの?
僕の話を聞いた仙道は、輝いた目をしてギターをまた見つめる。
「すげえな! もしかしたら、その死んじまったギタリストがギターに宿ってよ! すげえギタープレイをさせてくれるかもしれねーな」
「いやいや……すごいというより、曲によってはノイズを走らせるだけのじゃじゃ馬みたいなものだよ」
「つーことはさ、あの新曲を弾くときはノイズが出ねーんだろ?」
たしかに新曲の演奏ではの不可思議なノイズは出ていない。亡きギタリストはこの曲を気に入ってくれていると思うことにしている。
曲によっては強烈なノイズを走らせ、まるで拒否をしているかのような場合も多々あった。
「もしかしたらよ。そのギタリストの魂が、その曲のギターをすげえものに変えてくれるかもしれーな!」
「うーん……そうかなあ? 何回も練習をしているけど、そんな兆しも見せたことがないよ」
「それはおまえのギタープレイがまだ下手くそってわけだな! スポーツカーに免許を取り立ての初心者が乗るようなもんだろ」
よくわからない例えで仙道は話すけれど、僕は彼の言葉を真に受けてはいない。僕のギター演奏はたしかにまだ下手の部類だろう。
しかし上手くなったからといって、このギターがそんな力を与えるようなファンタジーではないのだから。
つまり、僕自身がこのギターを使ってすごい演奏をやれるように努力をしていくことが重要なことである。
「まあ、飯を食い終わった後におまえの演奏をきちんと聴いてやるよ! やっぱり、バンドの演奏は近くで聴くのが一番だからな!」
そう言って仙道は話し終わると、また料理を食べ始めた。
この夕飯が終われば、僕らのライブが再開をする。変に時間が開いてしまったが、仙道たちの前でやる本番。
僕は妙な緊張感があるけれど、不思議と怖さはない。
久しぶりに彼らの前でライブをやれるチャンスに、心がざわついていた。
金本の言う、仙道たちをあっとおどろかせる演奏が出来たらいいなと思うのだった。
「よーし! みんな、腹はいっぱいになったな? いよいよ、こいつらのライブを観ようじゃねーか!」
「うむ! 腹ごしらえは終わりだ。これより、僕ら音楽研究会のバンドによるライブをリスタートするぞい」
「てめえはなにもしねえだろ……このおかっぱ野郎」
「ひいぃ! あいかわらず、高圧的で怖いなぁ」
仙道のかけ声に金本は反応をしてそう声に出すけれど、仙道の威嚇におびえている様子。
けれど、その言葉がこれからやる僕らのライブが始まる合図である。
場所はふたたび特設ステージ。僕らはまたステージに立ち、全員が楽器を構える。
目の前には、仙道たちが僕らの演奏を今かと待っていた。
「よし。それじゃあ……やるか!」
「「おおー!」」
僕はみんなにそう声をかけ、みんなが気合の入った声が返ってくる。
仙道たちに負けない演奏をしよう。これを本番の糧にしよう。
そう僕は頭で考え、ギターを構えてマイクへと近く。その位置はセンターポジション。
それはメインボーカルとしての立ち位置だ。
この瞬間から、僕らのライブが本当にスタートしていく。




