第七十四話「それぞれのやるべきことがあるから動く」
仙道たちがいきなり現れ、どうも一緒に練習をやることになった。部屋はある程度広いのだが、それにしたって人数が多すぎる。
「だからよ! やっぱり、ギターをやるならニルヴァーナを一度は聴いたほうがいいぜ? 他にも……」
「はっ、はあ。そうなんですね……最近のバンドですか?」
「きええええい! ギターを弾くなら、ギャルゲーソングの多くを作る作曲家がいいに決まっているだろおお」
お互いのバンドが練習をやるんだろうと思っていたが、いつの間にか雑談大会のようなものになってしまった。
仙道はギターを弾く芹沢さんにそう熱弁をしている。その横で、対抗するように金本が割って入り、話に加わっていた。
「へえ。キミ、ベースをやるんだねえ。ところで、連絡先を交換しない?」
「え? なんですか、いきなり……こわいですって」
「こらこらー! そこのナンパ男! うちの後輩に手を出すなー」
「というか、この人。瑠偉が女だって、すぐ気が付きましたね」
向こうのほうで瑠偉に近づく成瀬君が、響子に注意を受けている姿がある。
なんというか、ものすごく自由すぎる時間になってしまっていることに僕は苦笑いを浮かべた。
シゲ君は和田先輩たちと和やかに話している始末。
この場で楽器を演奏している人は誰もいなかった。
「これは……まずい状況じゃないのか?」
ただでさえ僕らには練習が必要なのに、こんなのほほんと音楽について話している場合ではない。
仙道たちが来て、さらにだらけさが増す一方だ。ここで弾かなければ、今日の練習が意味をなくす。そう思った僕は、立ち上がってみんなにさけぶ。
「こらこら! みんな。僕らには練習をやる目的で合宿をやるんだろう? サボってないで、ステージで練習をするぞ」
僕の声に、全員が振り向くと、たしかにそうだったなという顔をしている。
「あのー。岩崎君たちはなんで、小野寺君の神社で合宿をやることになったの? そんな、合宿をするような体育会系の同好会でもないよね?」
シゲ君はそう疑問を持ったのか、僕らに尋ねる。僕はこれまでの経緯をシゲ君たちに話し、説明をした。
「へえ……たくさんの軽音楽部が参加する高校生バンドバトルかあ」
「ああ? そんなもんあったっけ? 俺たちの学校には話が来てないぞ」
「いや、仙道。俺たちは部活でバンドをしてないからな? そんな話を耳にするわけねーじゃん」
仙道たちはそんなイベントがあることを知らなかったのか、初めて聞いたようにおどろく。僕らも知らなかったくらいだから、そのおどろきは理解できる。
けど、その後に船頭は悔しそうな顔をして言う。
「くそう! そんなイベントなら出たかったぜ! 他のやつらに、俺たちのバンドが最強で最高だとわからせてやれるのになあ!」
「そうだねえ。そのイベントがある日って、僕らは東京でライブがあるのを忘れずにね?」
「え? 東京でライブをやるの?」
シゲ君が仙道に話している内容に、僕はそうおどろきながら口にする。彼らのバンドは、今では中堅バンドと同格。
いろいろなライブハウスで活動をしているのは知っていたが、東京でやれるくらいになっていたとは思っていなかった。
「おう! おまえらもたしか、東京でギャルゲーソングのライブをやってのけただろう? だったら、俺たちだってやるに決まってんだろうが」
「対バンの相手は僕らより格上なバンドなんだけど、負けていられないね」
――すごいな……仙道たちは僕らよりも、バンドマンらしい活動をやっているんだ。
同じバンドでもここまで目指すステージが違うことに、僕は少し嫉妬をしてしまう。それは、バンドをやる人なら誰もが思う劣等感であった。
「……っ」
目の前のイベントに集中すべきなのに、僕の顔は次第に神妙になっていく。すると、そんな僕に仙道は気づくと一言を話す。
「まあ、俺たちが出れない代わりにおまえらが、暴れまくればいいか」
「そうだね! 岩崎君たちのバンドはすごいから、きっとそのイベントで勝てると思う」
「今のレベルじゃあ勝てるかわかんねーぞ、シゲ。新メンバーになってから、こいつらも腕も落ちたしなあ」
シゲ君がエールを送るのに対して、仙道はからかうように答えている。
彼らなりの励ましなのかはわからないけれど、その言葉が僕にやる気を起こさせた。仙道たちが東京でライブを頑張るならば、僕らだって頑張る必要がある。
先ほどの消極的な考えはなくなっていき、僕の中にあるバンドマンとしても闘志が燃え上がった。
「この合宿で、僕らはさらにバンドを成長させてみせるさ……イベントで勝つためにも」
僕はそう言葉にすると、仙道はにやりと笑う。そして、立ち上がって僕にギターを返す。そして、どこかに向かって歩き出した。
「よーし! 俺たちも楽器を持ってくるぞ。岩崎たちとバンド対決をやろうぜ!」
「え、いまから? もう日が暮れるぞ?」
「いいんだよ! 今日はオールで弾きまくるんだよ。さあ、行くぞ」
そう言って強引にシゲ君たちを引っ張って、部屋を出ていった。
いきなりの提案におどろくけれど、他のバンドと練習をやるのはいい刺激になるだろう。
仙道たちがどんな曲をやるかはわからないけれど、僕らもやるからには全力を尽くす。
「ということで、みんな……お遊び気分はここまでだ。仙道たちとやるからには、本番だと思って弾こう」
先ほどまでの騒ぐ音はなくなり、みんなの雰囲気が変わる。
「話を聞いた限り、仙道さんたちのバンドはすごそうですね……俺たちもやれますか?」
「だねえ。なんか、妙に緊張をしてきた」
「大丈夫さ。おまえたちの演奏レベルは高いし、きちんと弾けている。だからこそ、その音を仙道たちに見てもらうんだ」
不安に思っている瑠偉たちに、僕はそう話して安心をさせる。僕だって、仙道たちとやるのは一年ぶりだ。
去年より腕が落ちているのは事実かもしれないが、練習途中の新曲を披露するのも悪くない。
「とりあえず完璧な演奏はまだできていない僕らだけど、だからこそ全力で弾いてみよう」
どう反応を仙道たちが見せるかは、それもわからないけれどやる価値はある。
僕の言葉に、みんながなにか決心をしたようにうなずく。その姿に、僕と同じような闘志がみなぎっているのを感じる。
「よーし! 仙道たちが帰ってくるまで曲をやるぞ。みんな、楽器を持てー!」
話がまとまり、僕らはステージへ向かい曲の練習を再開させる。
僕らの練習は、これから本気を出す。




