第七十三話「宴よりもバンド練習だ!そして、さらに現れる人物」
近くにあるコンビニから大量の袋を手に持ち、神社へ帰っている。
袋の中身は、たくさんのジュースとお菓子。まるでこれからパーティーでも始めるのではないかと思ってしまうラインナップだ。
「はっはっは! これだけあれば、今夜はおおいに楽しめそうではないか」
「「いえーい!」」
金本の言葉に、響子たちがテンションを上げてさけんでいる。その後ろで僕は、ずっと黙りながら歩いていた。
時間はすでに夕方の五時を過ぎている。これから練習を始めようとすれば、夕飯まででだいたい二時間しかない。
それだけの時間で、どこまで練習が進むかわからない。僕はそう考えると、頭が痛くなる。
このままでは、金本の主導で思うような練習ができるないだろう。ここは同好会のリーダーである僕がどうにかしないと。
「とりあえず……着いたらすぐに練習をやるぞ! いいな?」
僕の声にみんなの反応は薄い。もうこれは、練習より夜更かしにスイッチが切り替わっている。
「でも! きちんと練習はしたほうがいいよね。ほら、わたしたちってまだまだ成長をしないと……お菓子やジュースは、練習が終わってからでも」
「芹沢さん……」
フォローをして話す芹沢さんに僕は、つい感動をしてしまう。彼女だけは、きちんとバンドのことを考えてくれていた。
「うむ……そうだな、つい舞い上がってしまった。ここは真面目にバンドの練習をやろうではないか」
「だねー! 練習後のお楽しみにしたほうが、楽しさがアップするよねー!」
「おい、なぜ僕の言葉に反応しなかったのに芹沢さんの言ったことなら返事をするんだよ」
僕と芹沢さんの違いに、納得がいかない。そんなのはお構いなしに、みんなは歩くスピードを上げて神社に向かっていった。到着すると、小野寺君が現れる。
「どこへ行っていたんだ? てっきり練習をしているかと見に来たら、誰もいないくて焦ったぞ」
「ごっ、ごめん。金本先輩が、買い物をするって言いだして」
「そうか。まあ、それはおまえたちの自由だからよいが」
予想外の僕らの行動に小野寺君は苦笑いを浮かべて、そう答える。僕は謝りながらしばらく話した後に、機材がそろっている建物の中に入った。
買ってきた物が入った袋を置き、改めて練習を始める。
「とりあえず、曲を弾いてみよう。この前の反省を意識しつつ、演奏をして先輩たちのアドバイスをもらう」
「うん。わたしも、ギターを猛特訓してきたんだ」
「歌いながらのギターだけど、芹沢さんは大丈夫?」
先にギターを構え、今にも弾ける体制でいる芹沢さんに僕はそう尋ねた。前回で、ギターを弾きながら歌う難しさを知ったのか、対策をしてきたような自信が垣間見えた。
「まあー、あたしたちもダメ出しをされてからそこそこ練習をしていたからねー! 前よりは良くなっているはずよー」
「そうですね。まあ、とりあえず一度弾いてみましょう」
響子や瑠偉もそんなことを話しながら、準備を終わらせる。なんだかんだ言いつつ、みんなも個人で練習をしてきたようだ。
かくいう僕も、山本先生に思いっ切りダメだと言われたのであれからかなり自宅で猛特訓をした。少なくとも、良くっていると思いたい。
「よし! それじゃあ、聴かせてもらおうかのう」
金本は腕を組みながら、ずいぶん偉そうな口調で僕らに声をかける。まるで映画の監督みたいな態度に、僕のこめかみがピクピクとなった。
「まっ、まあ……とりあえず弾こう」
僕は冷静を装いつつみんなに話し、小野寺君たちが作ったであろう簡易的なステージに上がる。
ステージには大型のアンプやモニタースピーカが置いてある。これだけでもすごいのに、照明器具もあって本当にライブハウスのような空間であった。
「このドラムセット……有名なブランドのやつですよ。わたしが使っているものより、高級でわたしが使ってもいいんですかね」
瑠奈はドラムの後ろでそう申し訳なさそうな顔をしながら話す。おそらく小野寺君がライブで使ってるドラム。
バンドのスキルだけでなく、機材にもきちんとこだわっていそうで、瑠奈の言う気持ちもわかる。
「人様のドラムだからな。壊さないように丁寧に使え」
「先輩! そんなことを言わないでくださいよ……なおさらたたきにくいですよ」
僕の言葉に瑠奈が返事をするも、もうこれで練習をするしかない。なんとか瑠奈をなだめて、僕らは演奏を始めることにした。
「それじゃあ、新曲をやるぞ? せーの!」
僕がマイクでみんなに合図を出すと、演奏がスタートする。
曲のイントロを弾きつつ、響子たちのコーラスが聴こえ出す。たしかに、以前よりも声は出ているしコーラスらしさが表されていた。
ギターを弾く僕は、その声にきちんと耳を傾けて自分が歌うのを待つ。
――先生に言われたように、今度こそみんなの声に意識しよう。
目を閉じ、耳にすべての音を集中させて音を聴く。自分の弾くギターの音。それに、みんなが弾く音と声。
すべての音を聴けることによって、メインボーカルがどう歌えばいいかを考えさせてくれる。
みんなの音が頭の中で感じた僕は、マイクに口を近づけて歌う。その声がスピーカーを通して、楽器の音に重なっていく。
原曲を歌うボーカリストの実力とは程遠い。けれど、僕の歌声はそれとは違った風に歌って思う。
みんなのコーラスと、僕のボーカルが合わさり曲は続いていく。
そして、サビまで歌い終わるとそこで演奏を止めた。
「あれ? 岩崎先輩、ラストまでやらないんですか?」
「ああ。とりあえず、Aメロからサビまでを聴いてもらって金本先輩たちの意見を聞こうかなって」
ここまでをできていれば、Bメロ以降もいけるだろうと思った僕はそう瑠偉に答えると、金本先輩たちがなにを言うのかを待つ。
「けどー、あたし的には良くなっていると思うけどなー! キョウちゃんのボーカルも、安定して聴けるレベルになったなーと」
「おまえらもな……聴いた感じだと、悪くないよ。コーラス担当だった僕からみたら」
「へえー! 歌いながら、あたしたちのコーラスをきちんと聴いてたんだー。いがーい」
僕の言葉に響子はおどろきながら答える。
響子やみんなもそう感じたなら、もしかしたら曲の完成度が上がってきているのかもしれない。
そう少し期待をしていると、金本が口を開く。
「うむ! まあ、最初に聴かせてもらった時よりが良くなっているだろう。だがしかし、まだ心にビビッと来ていないのだ!」
「まあ簡単に言うと、技術はいいけど、感情がまだまだ曲からは響いてこないって金本は言いたいのさ」
和田先輩が金本の説明に補足をするように、僕らに話す。
「感情……ですか」
音を聴いて歌うことができるようになっても、次にも問題が増えていく。この新曲は、他よりも苦戦を強いられることに僕はため息をついた。
「感情をぶつけるには、より歌詞の意味やギャルゲーの物語を知ることも必要だね。あとは、全員の思う感情を一致させるように練習をしていくしかない」
「ギャルゲーソングの八割は、思いを爆発させて歌うのだ! さあ、練習を続けたまえ」
「「はい!」」
金本たちからのアドバイスをもらった僕らは、また曲を一から弾き直していくことにする。
やっと合宿らしくなってきたと思う僕は、またギターを構えマイクスタンドの前に立つ。
「おお、やっているみてーだな!」
みんなで曲を弾こうとした時、部屋のドアが開かれて中に誰かが入ってくる。
「きっ、きさまは……仙道!」
「んだよ、おかっぱ野郎どももいるのかよ。もうバンドメンバーじゃねーのに、なにをしにきてんだよ」
「晴君、それは失礼だよ?」
そこには仙道だけでなく、他のメンバーであるシゲ君たちもいた。
「あの、なんで仙道たちがここに?」
僕はなぜ仙道たちがいるのかわからず混乱しながら尋ねると、仙道が答えた。
「小野寺から電話があってよ、おまえらが俺たちの練習場で合宿をやるって聞いて見に来たんだよ」
「あっ、ああ……そうなんだ」
「けど、なにやら面白そうだな! 俺たちも混ぜてもらおうか」
そう言って仙道は僕のギターを奪うと、勝手に弾き始める。いきなりのことに僕が口をポカンとしていると、シゲ君が必死に謝る。
「おっ! そうだ。どうせならよ、一緒にバンドの練習をやろうぜ!」
ギターを弾きながら、仙道はそう提案をした。




