第七十二話「さっさく合宿開始だ!だけでも、気分は修学旅行!」
合宿先である神社に、意外な人物な小野寺君がいる。どうして、彼がここにいるのか僕は理解できずにいた。
「あの……なんで、小野寺君が? 今日は平日だし、学校にはいかないの?」
まったく想定していない小野寺君に、僕はちょっとズレた質問をしてしまう。事実、普通ならば、学生は学校で授業を受けている時間帯だから。
「ああ。そういえば、おまえたちは知らなかったな。ここは、俺の実家なんだ」
「ええええ! 小野寺君の家って神社なの?」
「別に社の中で住んでいるわけではないが……まあそういうことだ。ちなみに、なぜ俺がいるかというと、今は停学処分中なんだと」
「停学? なにかやらかしたの?」
見た感じには小野寺君は素行が悪そうには見えない。停学をするだなんて、そうは思えなかった。
「まあ……俺というか仙道がな。学校に許可なくに地方のライブハウスでライブをやったものだから、俺たちメンバーも仲良く停学をくらってしまったのだ」
「なんか、仙道らしいね」
生粋のロック小僧である仙道ならば、やりかねない。それよりも、すごいバンドらしい活動をして正直うらやましさもあった。
「停学期間中はバンドをやってはいけないからな、こうやって俺は神社の仕事を手伝う毎日さ」
「それにしても、どうして小野寺君の家で僕らがバンドの練習をやることになったんだろう?」
理由はどうあれ、神社とバンドの練習が関係をするかわからずに僕が口にしていると、小野寺君が続けて話す。
「ああ。それは、前におまえたちが俺たちの学校に来たことがあっただろう? その時に、お互いの先生が知り合って、定期的に連絡をし合っていたらしいからな」
「……そんな理由で?」
「神社でバンドの練習をしているのが学校にバレたから、先生がそれをおまえたちの先生に使ってはどうかと提案をしたのだろう。こちらとしては、まあ……迷惑だが」
仙道たちもここを使おうとしていたのだろうか。小野寺君は少し、迷惑そうな顔をしつつも仕方がないと思っている様子だ。
「まあ、ここの神社は他の部活がやる合宿を受け入れているからな。これもなにかの縁だ、思う存分と使うといい」
「あっ、ありがとう……小野寺君」
そう言って小野寺君はバンドの練習ができる建物へと案内をしてくれる。僕らはその後ろをついていった。
金本一人はぶつぶつとなにかを言いながら、とぼとぼと歩く。
「ああ……夢の巫女さんと出会うチャンスが。よりもよって、なんでスキンヘッドの男なんだよ」
「ダメだ、こいつ。完全にテンションが下がっているわ」
「あんな状態で、きちんと教えられるか不安だね」
そんな会話をしつつ、建物へ向かうとそこにはすでに響子たちがいた。
「あっ! 来た来た。遅いんじゃない?」
「うるさい! 僕らは徒歩と電車なんだから、遅いに決まっているだろう」
「はははー! けどー、おどろいたよね。まさか、おのでらんの実家が合宿先だなんてー」
「おまえ……なんだよ、そのおのでらんって。変なあだ名をつけるのはやめたほうがいいぞ」
響子にそう話しかけられ、ため息をつきながら答える。けれど、響子も小野寺君の実家であることにおどろいているようだった。
他のみんなも神社の敷地内を眺めては、関心をしている様子。
「けど、本当にここでバンドの練習をやってもいいんですかね? 罰が当たりそうな気がしますが」
「それは言えてるかもね。神聖な場所だし、ギャルゲーソングをやったら神様に怒られそう」
瑠偉と瑠奈がそんな会話をしていると、小野寺君が二人に話しかけた。
「そんなことで神様が怒るはずもないから安心をしろ。俺たちなんか、夜中でも弾いていたからな。そっちのほうが罰当たりというものだ」
「はっ、はあ……そうですか。というか、スキンヘッドでお坊さんに間違えられませんか?」
瑠偉たちは小野寺君の光る頭を見ながら、気まずそうに尋ねるが返事はない。
そんな無駄話はさておき、僕らはさっそく練習ができる建物の中へと入ることにした。大きな扉が開かれて、中を見ると僕らは思わず声が出てしまう。
そこには神社の関連した物があちらこちらにあるのに、大型のアンプや音響機材がずらりと設置されている。
まるで、簡易的なバンドのステージのような風景に僕はおどろいた。
「本番のライブを想定して作ったからな。ここなら、いい練習ができるだろう」
「すっ、すごいね。貸しスタジオよりも、全然環境が整っているなあ」
「もちろん防音対策はしているから、爆音を出しても問題ない。ここを思う存分に使ってくれ」
小野寺君は部屋の電気をつけ、機材の電源も入れながらそう説明をしてくれる。僕らは話を聞きながら、部屋を見て回る。
ここで練習ができることに、僕は胸をおどらせる。
「夕飯は夜の七時に用意しておこう。それまでは好きに活動をするといい」
そう話し終わると、小野寺君は去っていった。
彼がいなくなり、僕らだけになった後。さっそく、練習をしようと僕はギターをケースから取り出す。
「よーし! さっそく、バンドの練習といこうか」
僕はテンションが高いままに、みんなにそう声をかけた。この設備を見て、楽器を弾かない理由はない。
響子たち、現メンバーはうなずくとそれぞれ楽器を取り出した。
「まてーい! 練習の前にやるべきことがある!」
「なんですか……金本先輩」
せっかくやる気になっている僕らに、水を差す金本の言葉。僕は機嫌の悪そうな顔で、返事をする。
すると、なぜか財布を握りしめる金本の姿があった。
「なんで財布を出しているんです? 別にいまさら買うのもないでしょう?」
「きええええい! 岩崎君はなにもわかっていない! 合宿というものには、必ず必要なものがある」
「え……ないでしょう? 一応、小野寺君が夕飯とかいろいろ用意をしてくれるみたいだし」
「のおおぉ! 合宿ということは当然、泊りということであろう? ならば、夜のためにお菓子やジュースがいるではないか」
いったい、金本はなにを言っているのだろう。修学旅行ではあるまいし、そんな子供じみたことをする意味などはない。
そう思う僕だが、他のみんなは金本の言葉に反応をしている。これといって学生らしい青春のようなイベントなどこれまでなかっただけに、夜に騒ぐことは魅力的なのだろう。
「さすが金ちゃん! わかってるー!」
「なんか、ギャルゲーにありがちな合宿のイベントみたいで良いと思います!」
響子の言葉から始まり、瑠奈も賛同をしている。そうなったら、もう他のみんなも同じようにやりたいに決まっている話だ。
「よーし、諸君! さっそく、近くのコンビニで買い出しだ! ゆくぞー」
「「おおー!」」
金本の後をみんながついていき、部屋から出ていく。
「はあ……こんな調子で、本当にバンドの成長ができるのかな」
一人になった僕は、大きくため息をついてしまう。金本の思いつきには、いつも悩まされてしまうものだ。
「岩崎君。みんながもう行っちゃうよ? いこう」
「芹沢さん……あっ、ああ。今、行くね」
芹沢さんが戻ってきてそう声をかけられた僕も、みんなの後を追う。そんな僕も、ほんの少しだけ浮足立っていることを隠しながら。




