第六十九話「とりあえず、不安は残るが曲をやってみた」
響子とボーカルを代わり僕が曲のメインボーカルに決まり、本格的な練習を再開した。僕は金本からスパルタのような指導を受けつつ、ギターとボーカルを鍛えていく。
「だあああ! そこは、違うのだ! ギターでこう弾きながら、その音に合うように歌うのだよ」
「うう……声が出ないし、手が痛い」
何度も歌ってはギターをかき鳴らして、喉は枯れて指には久しぶりに豆ができている。
コーラスやハモリと違い、メインは休まず歌い続ける。そこにギターも弾かないとで、やることが忙しい。
ギターボーカルが、こんなにも大変だと痛感。
「ところで、岩崎君。君のギターから異質なノイズが聴こえないのだが、もうお祓いとかをしたのかね?」
「いや、そんなことはしてないですよ。やる暇もないですし……ノイズが出ないってことは、こいつがこの曲を気に入ったということなんんでしょう」
「うーむ。良い音が鳴るのだが、それが逆に不気味に感じるのう」
曲の練習を始めてから一度も変なノイズもなく、金本の言うように良い音を鳴ってくれている。
けれど、どこか大人しいようで激しいサウンドがまだ出ていないようにも感じた。
――まだ、俺の力は出していないぜ? さあ、もっとロックな音を出しな。
そんな風なことをギターが言っていそうだなと、僕は持っているギターを見つめる。
「まあ、ギターやボーカルはどうにかなるとしても……あれはどうなのかね?」
「さっ……さあ?」
金本は響子たちのほうへ指さしながら、呆れながら口にする。
コーラスを芹沢さんたちにもさせると言ったものの、聴こえてくるのはなんとも不安になる歌声。
楽器をやりながらコーラスをするのは初めてだとみんなが言うが、それでもひどい有様だ。
「はい! いくよ、せーの!」
「「「ふにゃらぁぁぁぁ! ボエェェー!」」」
僕と金本が見ている横で、響子たちは大声で曲のコーラスをまた響かせていた。
本当にライブ本番までにうまく歌えるのかと心配になってくる。本人たちは真面目に歌っているのだろうけれど、劇的な変化はない。
「岩崎君、僕は外で空気でも吸いながらドリンクタイムをしてくる……教えたところを重点的に弾き歌うのだ。あと、アレをどうにかしなさい」
「ちょっ! 金本先輩」
そう言って金本は僕を置いて部室を去っていく。
残された僕は頭を抱えながらしばらく考えて、響子たちのところに向かった。
「ん? どうしたの、キョウちゃん」
「いやあ、その……練習はどうかってさ。ははは」
「まあまあかなー! みんな、それとなくできていると思うよー」
「そっ、そうかあ?」
あんな悲鳴のようなコーラスを、まあまあとできていると言った響子が逆にすごい。曲がりなりにも、ボーカルをやってきたのだから違和感ぐらいはあると思わないのだろうか。
僕はため息をつくて、響子に真実というやつを伝えることにした。
「えええええ? そんなにひどいの? あたしは、いいと思っていたけどなー」
「おまえの耳はおかしくなったのかよ。どう聴いても、コーラスというよりノイズだろうが」
思っていたことを口にすると、響子はおどろいた顔をしている。その横で、芹沢さんたちが、響子よりもショックを受けたように暗い。
「わたしたち、コーラスとかに向いていないのかな……」
芹沢さんはとても悲しそうな声で口にするのを聞いた僕は、慌てて訂正をする。
「そっ、そんなことはないよ! ただ、もっと曲のコーラスに近づけるように歌えば完璧だよ」
「そうは言っても、岩崎先輩のようにうまーく歌えないんですよ」
瑠奈がそう愚痴をこぼすと、隣にいる瑠偉が話す。
「どうせなら、岩崎先輩に教えてもらったほうが上達すると思うんですが。馬場先輩だと、ちょっと……」
「なによー! あたしじゃあ、教えにならないってことー?」
「それは間違いないな」
瑠偉の指摘に響子は頬を膨らせているが、それは正直に言って合っていた。
自分の練習も一区切りをしたところだし、ここは僕がコーラスを教えたほうがいいだろう。
「じゃあ、まず歌うコーラスを一つずつきちんとできるようにしようか。最初は音程を合わせる練習から」
僕はそうみんなに話し、コーラスの練習を始めた。
正直、瑠偉たちは原曲をよく理解しているから問題はないだろうと思っていたが、自ら歌う場合はどうにもうまくいかないらしい。
全員が歌うがうまいとは言えず、なかなか音程を取るのも難しいようだ。
芹沢さんは自分に自信がないのか、声に勢いがない。
「こりゃあ、時間がかかりそうだなあ」
「まあまあ! そこは、コーラスのスペシャリストたるキョウちゃんに任せましょー」
「……響子。せめて、おまえだけでも完璧に歌えよ。メインボーカルができるんだから、コーラスとハモリも」
「あたしはキョウちゃんと違って、そこまでうまくはハモる才能はないんだよー」
僕の言葉に、響子はそう屁理屈を言う始末だ。とにかく、どうにか形になるように僕はみんなの練習をサポートしていった。
そして、何日か過ぎてようやく演奏ができるまでになった。
「ということで! 今日は、実際に曲を通しでやってみようと思う」
ある程度、バンドの演奏もできそうで僕はそうみんなに話す。
「まあ……さすがに曲が弾けるようにならないとそろそろまずいですよね」
自信がまだない。そう思っているかのように瑠偉は口にする。他のみんなも、同じなのか、全体の練習には消極的な雰囲気だ。
「気持ちはわかるが、ここで一度みんなでやってみなきゃなにも始まらないだろう?」
僕はそうみんなを説得し、ひとまず曲を弾いてみることにした。
「金本先輩たちが演奏を聴いてくれるらしいから、本番だと思って全力でやるぞ!」
「「おっ、おおー」」
元気のないかけ声が返ってくるが、そこに金本たちが部室にやってくる。
「やあやあ! 話は岩崎君から聞いている。僕たちが聴いて的確なアドバイスをしてあげるから、そんな緊張をしなくて大丈夫だお」
「金本……一応、先生もいることを忘れるなよ?」
「はははは! たいして顧問もしていない山本先生が、なにを偉そうに」
今日は金本たちの他に、山本先生も同席をしている。どうせなら、先生にも聴いてもらおうと僕が呼んだ。
そうして、金本たちが僕らの演奏を聴くために椅子を置いた後に座る。
「久しぶりに人前で弾くから、ドキドキするね」
「ギャルゲーソングを知り尽くす人たちですからね……変に緊張」
「まあ、あくまで練習がどこまでできているかの確認だと思えば大丈夫さ。いつも通りに弾けばいい」
不安に感じる芹沢さんたちに、僕はそう言葉をかける。本当に、どこまで僕らができているかがわかればいい。
僕のメインボーカルと響子たちがコーラスがどんな感じになるかを確認するのが、今回の目的でもある。
「よし! それじゃあ、みんな……曲をやるぞ」
準備を終え僕らは金本たちが見守る中、曲の演奏を始めようとする。
ギターと手に持ち、マイクの前に立った僕はみんなに合図を出してギターのボリュームを上げる。
これより、僕らの新曲が披露される。そして、僕はギターの弦を大きくはじいたのだった。




