第六十六話「その曲に酔いしれるも、それは戦うためではない」
――キミ、ボクのミライ。
そこまで有名ではないギャルゲーブランドの一作品。その主題歌を歌ったボーカリストは、後に一般人でも認知されるほどの人気を得る。
その主題歌が、金本が選んだ一曲であった。
「へえ、あのボーカリストがギャルゲーソングをねえ」
金本の長ったらしい話を聞きつつ、僕はそう口にする。
「ギャルゲーソングは知名度が低く、そのブランドもいつのまにやら倒産! けれど、その歌手が有名になったのは、まさに奇跡的なことなのだ」
「けどー。隠れた名曲って言われてて、数年がたった今でも聴いているギャルゲーファンがいるけどねー」
「まあ、その歌手はライブで歌わず、黒歴史のような扱いにしている人ですけどね」
響子たちも曲や歌手を知っているらしく、それぞれが思っていることを話す。
「たしかに、すごい良い曲で好きだけどー。かなりハードルが高いなー」
「演奏するのが難しいってことか?」
珍しく、響子はあまり乗り気でない様子。僕は、それだけ大変なのかと尋ねる。
すると、なにか言いたくなさそうな顔をして間を置いた後に響子の口が開く。
「この曲、ものすごくコーラスとかが多いのよー。それは良いんだけど、いざ歌うとなると多すぎて耳が混乱して歌いにくいのー」
「ああ、ですよね。ふにゃあー! みたいな独特のコーラスがイントロからありますし」
「そっ、そうなのか……」
「ライブで完璧にできれば、観客は曲の世界観に飲み込まれるだろう! つまり、岩崎君のコーラスが成功のカギを握るのだ!」
みんなと話していると、金本がそう話に割り込んでくる。それだけ言われてしまうと、妙に構えてしまう。
とりあえず、まだ曲を聴いたことがない僕は金本の持ってきたCDを流すことにした。スピーカーから曲が流れるのだが、僕はイントロを聴いた途端に衝撃が走る。
どこか面妖な雰囲気のイントロかと思いきや、ゴリゴリのロックサウンド。そこに、かっこよさを際立たせるボーカルの歌が、突き抜けていく。
第一印象としては、これは本当にギャルゲーの主題歌なのかと疑うくらいだ。一般人がこの曲を聴いたとしても、それがギャルゲーソングだと気づくまい。
――けど、たしかにコーラスが多いし、ハモるところもあちらこちらにあるなあ。
何度も繰り返して聴くが、僕がやるであろう歌のパートがいつもより難易度が高い。
「それにしても……ギターソロの後に来る歌が、なんというかグッと来ますね」
激しいギターソロが流れたと思いきや、その後はボーカルのみが歌うところ。
楽器の音をすべてミュートして、しんみりと感情がこもる歌詞とメロディ。そして、そこから一気に盛り上げるオケ。
僕は、その部分に胸が熱くなるような気持ちが湧いてくる。
「ふふふふ! さすが、岩崎君。わかっているじゃないか」
金本はすべてをわかっている顔をして、にやりと笑いながら口にした。それは、響子たちも同じであった。
みんなも僕と同じで、僕が言った曲のところが一番、良いと思っていたのだろう。
「一番の盛り上がりといったら、そこですからね。金本先輩が言ったように、ライブで再現ができたならば感動ものですよ」
「けどー、難しいんだよねー。あたし、あのボーカルのような雰囲気を出せるタイプじゃないしなあ」
「弾くにしても、息をぴったりと合わせないと微妙な感じになっちゃいますし」
みんながそういうのだから、この曲は一筋縄ではいかないみたいだ。けれど、僕はこの曲をやってみたい意欲が湧く。
「でも、この曲ならイベントに勝ち上がれるに決まっているよ!」
僕がそうみんなに話すと、たしかにそうだなという感じの返事が返ってくる。
「芹沢さんはどうかな? この曲をやってみたいと思う?」
「うん! わたしも初めて聴いたけど、岩崎君と同じ気持ちだよ」
僕と同じで初めて聴いたギャルゲーソングに芹沢さんも、ギターを弾いてみたいという気持ちが伝わってくる。
「ならば、決まりであろう! この曲を完璧にコピーをして披露するのだ。この金本が全力で協力をしてやるのだから、安心したまえ」
「よーし! さっそく、この曲を練習してみよう!」
僕は金本の声をかき消すように、大きな声でみんなにさけぶ。
こうして、イベントでやる曲の一つが決まる。
僕のギターが、この曲を聴いてどう奏でてくれるかは不安だが、今はやるしかない。
本格的なイベントに向けたバンドの活動が始まる。
「あとは、和田先輩たちも選ぶギャルゲーソングを待つか」
金本の他にも、和田たちがライブで弾く曲を探してくれている。大型のイベントだけあって、覚える曲が多くなっていくだろう。
けれど、僕らなら最高のギャルゲーソングをライブでできるはず。そう考えたら、僕のモチベーションは上がっていく。
「金本様の指導により、曲を覚える前にこの曲が使われているギャルゲーをみんなでプレイだ! 物語の内容を理解することにより、曲の意味がわかる!」
「え……今回も、それをやるんです?」
「きえええええい! 当たり前であろう。岩崎君や芹沢さんは初見だから、なおさらゲームをやる必要がある!」
「「はっ、はあ……」」
僕と芹沢さんは、同じことを口に出して困った様子で答えた。
「それで、そのギャルゲーってどんな物語なんですか?」
芹沢さんは金本に、そう尋ねる。
「たしかに。曲調からして、戦う学園の恋愛アドベンチャーゲームだと思うけどなあ」
「わたしも、そうじゃないかなと思った。例えるなら、アンヘルビートみたいなアニメ」
「せっ、芹沢さん……そのアニメを知っているんだね」
僕は詳しく話す芹沢さんに、意外そうな顔で話す。まさか、アニメを見ていたとは思わなかった。
「ふふふふ……残念だが、二人とも不正解だ」
金本は待っていましたと言わんばかりに、得意げな顔で話す。そして、このギャルゲーがどんな物語か、彼は答える。
「戦いもなければ、ファンタジーなものでもない。ずばり! 観光案内、ご当地料理の紹介をする明るい恋愛アドベンチャーだ」
「……はあ? うそでしょう」
僕は金本の言葉が信じられず、ギャルゲーのオープニングムービーをネットで調べる。すぐに検索でき、動画を見ると女の子のキャラが武器をもっている絵があった。
「ほら、どう見てもバトル描写があるゲームじゃないですか!」
「残念だが、岩崎君。それはオープニング詐欺で、本当は主人公がヒロインから観光案内され、料理を紹介されるギャルゲーなんだよ」
僕は無言で響子たちのほうを向くと、全員がうなずく。
あんなかっこいい曲なのに、作品とまったく合っていない事実に僕はおどろいてしまう。
「ささ! さっそく、ゲームをプレイだ」
そんな僕に構わず、金本はギャルゲーをパソコンにインストールをして始める。
ギャルゲーは奥が深いものだと、再確認をする僕であった。




