第六十五話「まさか……まだこの世に未練があるのかい?ギター君」
無事にギターも修理され、やっと本格的なバンドの活動が始まる。この日も、久しぶりにみんなと集まった。
「へえ……それは、とてつもないギターを手に入れたんですね」
「死んだギタリストのギターって、やっぱり……不吉ですねえ」
瑠偉たちは僕のギターを見ながら、引きつた顔をして話す。たしかに、事情を話せば誰だってそう思うだろう。僕も、正直そう思う。
「けど! ギターの音はすごいんだよ? 今までにない機能もあるし」
「芹沢さん……」
そんなみんなに芹沢さんは、このギターの良いところを必死に伝えていた。
彼女の言う通り、ギターの性能だけを考えたら以前の物との差は段違い。あきらかに、良い音を出してくれる。
「まあ、僕はオカルトは信じないからな。なにか悪いことが起きたこともないし」
あれからしばらく自宅でギターを弾いていたが、特別な怪奇現象はない。けれど、一つだけおかしな点はあった。
「それじゃあ、久しぶりにみんなでなにか弾きましょうよ。金本先輩たちがイベントで勝てる曲を用意してくれるまで、時間はまだかかりそうですし」
「そうだねー! なにかやらないと、腕が鈍ってしまうもんねー」
瑠奈がそう提案をすると、響子も同意して自分のマイクを取り出す。たしかに、みんなと弾くのも久しぶりだし、僕も反対はしない。
――お願いだから、機嫌を悪くしないでくれよ。
僕はギターケースに入っているギターに向かって、そう願うようにして取り出す。
狭い部室の中でそれぞれが楽器を持ち、弾くのを待っている。
「よし。とりあえず、これまで弾いてきた曲を順番にやろう」
「「はーい!」」
僕の声にみんなが答えると、全員が弾く構えと変わる。そして少しの間、静かになった後に曲の音が鳴り始める。
――ジャララン! ジャララーン!
イントロから弾く音は悪くなく、みんなは完璧に弾いてみせた。頭の中で曲をしっかりと覚えているのか、ミスもなく曲は進んでいく。
僕の弾くギターも、いつも通り。ピックアップが良い物で、以前よりパワフルな音が鳴る。
芹沢さんを除く他のみんなは、僕のギターから出る音が変わったことにすぐ気がつき、おどろいたような表情を浮かべていた。
――この曲は、ちゃんと音が出てよかった。
みんなの表情を感じつつも、僕はギターの様子を心配していた。理由は、次の曲でそれは起きて知る。
二曲目のサビを弾いていると、やけにギターの音が不安定になる。まるで、その弾き方は違うと言われているかのように。
――ギュワワッ! ガガガ……ギュイイィン!
ギターからノイズに混じった音がアンプから鳴り出す。僕はそれにおどろき、途中で弾く手を止めてしまう。
いきなりの音にみんなもおどろき、完全に演奏も止まった。
「どうしたんです、先輩。イイ感じに弾けていたのに、ノイズを走らせるだなんて」
「……すまん」
「岩崎先輩にしては珍しいですね。機材のミスをやるのは」
瑠奈たちは僕の演奏がミスだと思ったのか、そう話す。それを聞く僕は、つい黙ってしまう。
けっして、ミスをしたわけではない。機材もきちんとセッティングをしたし、ノイズを出さないようにアンプとギターの距離は適切な場所に置いている。
「もしかしてー! そのギターが悪いんじゃないのー?」
響子はギターを指さしながら指摘をする。そして、まじまじとギターを見ていた。
「修理に出したのに、そんな変なノイズなんか出ないでしょー! 実は壊れているところがまだあるんじゃないのー?」
「いや……壊れていそうなところは楽器屋で見てもらったけど、どこも異常はないんだよ」
「ええー! なら、そんな初歩的なノイズのミスなんか起きるわけないじゃーん!」
――そうなんだよなあ。普通は起きないんだよ、普通は。
そう。このギターに起きる変な現象。それは、曲によって異様なノイズを出すことだった。
正直、どの曲がノイズを出すかはわからない。まったく出ずに良い音を鳴らすこともあれば、ひどいノイズでまったく弾けないこともある。
まるでギターが曲を選ぶかのような、そんな現象が起きる。
「それ……まさか、死んだギタリストが起こす霊現象とかですかね」
僕はそのことをみんなに話すと、瑠偉が小さく口にした。
「いやいやー! そんなホラーなことなんて、ありえないってー!」
「そうですよね! 偶然に起きたことか、単に岩崎先輩のミスですよ」
「「はっはっはー!」」
響子と瑠奈は、大笑いをしながら話している。二人とも、瑠偉の話を信じていないようだった。
「だっ、だよなあ。僕だって、信じていないよ……ねえ、芹沢さん」
「え? あっ、うん……そうだね」
僕が尋ねると、芹沢さんはどこか気味が悪いような表情を浮かべる。
――ジジジジ……ジィィ!
突然、僕が持つギターから大きなノイズが走る。僕は、さあっと青ざめる。なぜなら、ギターのボリュームを完全にゼロにしていたからだ。
つまり、音は鳴らない状態なのにノイズが出ることなどありえない。
「……いったい、どういうことなんだよ」
僕はいきなり起きたことに思わずそう口にすると、みんなは勢いよく僕から離れる。
「ひいいぃ! やっぱり、プロになれなかったギタリストの怨念が具現化したんだあああ!」
「ぷっ、きゃああ! こわーい」
「岩崎先輩。修理より、お祓いをしてもらったほうがいいですよ……そのギター」
瑠偉たちは怖いものを見る顔で、冷静に提案してくる。響子の顔だけは、妙に腹が立つけれど。
「けど、もしかしてそのギターからノイズが出ない曲は、そのギタリストさんの幽霊が気に入ってくれたってことなのかな?」
芹沢さんは、ふいにそんなことを僕らに話す。言われてみれば、ノイズが出ない曲はロック調のものでバンドマンが好みそうな気がする。
「この曲なら、最高のギターサウンドを出してやるぜって伝えているのかも?」
僕も芹沢さんの言葉に、そう解釈する。
ノイズが出ない時は、やたらと良い音を出すってことは本当にそういうことなのかもしれない。
ひょっとしたら、このギターの持ち主だった亡きギタリストが不思議な力を貸してくれるような、気にもなってしまう。
――ガラガラ!
すると、部室の扉が開いて金本が現れる。
「やあ! 諸君、イベントでやる最強の曲を持ってきたぞい! しかも、素晴らしいほど熱いロックな一曲だ」
金本がそう上機嫌に僕らに話して、一枚のCDを手でぶらぶらとさせている。金本の言葉を聞いてなのか、僕のギターが思いっ切り大きなノイズを鳴らす。
「おいおい……なんで、ギターにケーブルがついていないのにアンプからノイズが走るんだよ」
金本も青ざめた顔をしながら、そう口にする。
このギターが選ぶ曲が、僕らにとってライブを成功させるかもしれない。そう思わせるような、甲高いノイズであった。




