第六十三話「このギターはどうやら特別らしいけれど、まだ僕は知らない」
岡山の家にあった、ボロいハードケース。その中には、一本のエレキギターは入っていた。弦にサビがついているものの、ボディに傷や破損した所もなく状態は良く見える。
「しかし……すごい汚れだな」
長く入れっぱなしでほこりを被り、あちらこちらに汚れがあった。
「けど、まさか……レスポールタイプのギターが入っていたとは」
「それに見てくださいよ。ボディの横にくり抜いた空洞が見えますよ」
僕と金本は、ギターを観察するように見ながら話す。
ホロウボディと呼ばれるタイプの形で一見レスポールタイプだが、このようなタイプはあまり見たことがなかった。
カラーもこのタイプには珍しいサンバースト。いわゆる、ストラトキャスタータイプでよく見るものだ。
おそらく、このギターを持っていた人が、改造を加えたのだろう。ボディだけでなく、ほとんどのパーツが純正の物でないと確認できる。
「なんか……本当に僕が持っていいんですかね。買い取った値段以上の代物のような気がして、恐れ多いような」
「だがしかし! これは君のギターである。遠慮なく、使うがいいさ! それより、音出しのチェックをしたほうがいいのではないか?」
「そうですよね。とりあえず、アンプに繋げてみます」
金本に言われ、僕は家からアンプとシールドケーブルを持ってくる。ギターを持ち、ケーブルをギターに繋げてアンプで音を出してみることにした。
「はたして……音は出るのか! ちゃんと、使えるギターなのか……オープンザプライス」
某、お宝番組のようなかけ声で金本はさけぶ。僕はそんな金本に構わず、ギターの弦をはじいてみた。
――ギュワワァァン! キィィィン!
一音を軽く鳴らしてみたが、レスポールタイプのピックアップらしい太くて重みのある音が響く。
しばらく使われていないはずのギターであるのに、ノイズもなく変な音も混ざっていない。それどころか、異様に良い音が鳴る。
その音は僕のギターや、買いたかったギターよりも質が高い。
「ほう……」
「金本先輩、もう少し弾いてもいいですか?」
「構わん! そうだな、ギャルゲーソングを弾いてもらおうか」
僕はもっと弾きたいという欲にかられ、金本に話すとそうリクエストが来た。
ギターはとてもではないが良い状態と言えない。けれど、不思議と憑りつかれるような感覚にさせられる。金本のリクエスト通りに、僕はギャルゲーソングのフレーズを弾く。
弾く手が次第になじんでいき、僕の出したい音をギターが応えてくれるように表現をしてくれる。
これまで弾いてきたギャルゲーソングのリフが、よりうまく弾けている気がした。
「どうでした? 僕のギターは」
「ちょっと、そのギターを貸してみなさい」
そう言われ、僕はギターを渡すと金本は同じ曲のリフを弾く。
「はやり、僕が弾くとまったくの普通なギターだ。岩崎君が弾くと、なぜか違って聴こえる」
「そうですかね……? 相変わらず、うまいと思ったんですが」
「そのギター。なにか、とてつもない念でもあるんじゃないか? まあ、とにかくギターをきれいにして、簡単な修理をすれば使い物になるだろう」
金本は僕にギターを返し、そんなことを口にする。その意味深な言葉に、疑問を持ちつつ、言われたようにまずはギターをきれいに拭くことにした。
――後日。
僕はギターを楽器店に持ち込み、修理できるところがあるならばそれを頼む。
「へえ、お客さん。これは、また珍しいギターをお持ちで」
「え? 店員さんは、このギターがどんなものか知っているんですか?」
やってきた楽器店は、以前にギターを買えなかった所。お詫びをかねての、割引を修理でしてもらうために訪れた。
「いやあ、これ……たしか、とあるギタリストが使っていたモデルと同じなんですよ。もう、倒産したギターのメーカーでなかなか中古市場には流れない一品でして」
「へえ。とあるギタリストって、有名な?」
「よくある売れないバンドってやつですよ。けど、そのギタリストはすごかったんですけどね。このギターを見たら、なんか思い出したなあと」
店員さんはどこか懐かしむように話しながら、僕のギターを持って受付に向かう。
――とあるギタリストが使っていたのと同じギターか。
そうは言っても、名も知らぬギタリスト。もしかして、その人のギターかと思った僕だが、すぐに否定をする。
そんなギタリストが使っていたギターが農家の家にあるはずがないからだ。
修理が終わるまで、僕は店内を見て時間をつぶす。
「やあ、岩崎君」
「あっ。和田先輩……それに、芹沢さんも」
ギターを眺めていると、和田と芹沢さんが現れる。話を聞くと、芹沢さんのギターに使うエフェクターなどを買いに来たらしい。
「聞いたよ、岩崎君。ギターが買えなかったんだね」
「え? ああ、うん。けど、岡山先輩の家にあったギターを買い取ったんだ」
「僕も岡山から聞いたよ。それで、そのギターは大丈夫なのかい?」
和田が言う大丈夫とは、きちんと使えるギターなのかということ。壊れたところや、微妙な狂いがないギターなのか尋ねたのだろう。
僕は金本とギターを開封した時の話をして、その良さを口にする。
「なるほど。いたるところに改造が施されているなら、かなり使えるようにしたギターなのだろうな」
「少なくとも、音はかなり良かったです。なんか、ギターに意思があるような感じがして」
「ははは。君がそんな神秘的なことを言うなんて珍しいね」
僕の言葉に、和田は軽く笑いながら答える。信じてもらえそうにないが、僕は本当にそう感じたのだ。
しばらく話していると、店員さんが僕のギターを持って帰ってきた。
「おお……すごい」
店員さんの手には、ピカピカに磨かれた僕のギターがある。あれほど汚れがひどかったのに、短期間であそこまできれいになるとは思わなかった。
「ネックの反りもなく、電気系統も問題はなかったですよ。一応、弦高は弾きやすいように調整をしておきました。それにしても……これ、すごいですね」
「すごいんですか?」
「使ってるパーツのほとんどが良い物だし、配線材やハンダにしても有名メーカーのやつを使ってますね。これだと、良い音しか出ませんよ」
「僕、そんなに詳しくないけど……そんなにいいんですか?」
「良いに決まってますよ! 店売りなら、数十万以上はしますね!」
店員さんは鼻を荒くしながら話すけれど、知識があまりない僕らにはピンとこなかった。
「けど、かっこいいギターだね! 岩崎君に似合うと思うな」
芹沢さんはギターを見ながら、そうほめてくれる。
「せっかくだから、岩崎君。ギターを弾いてごらんよ」
「そうですねえ。きれいに生まれ変わったこのギターを、思いっ切り弾いてみたいですし」
和田に言われた僕は、ギターを手に取って店にある椅子に座る。まるで新品のような見た目に心をおどらせながら、僕はピックを手に持つ。
弦は張り変えてくれたのか、触り心地がいい。
「どうせだから、芹沢さんも一緒に弾きなよ。エフェクターの感じをつかむ意味も込めて」
「え、いいんですか?」
「構わないよ、芹沢さん。一緒に弾こうか」
そう僕が芹沢さんに声をかけ、ギターを取り出した芹沢さんが横に座った。
そういえば、彼女のギターも大きく改造されて、音が良かったはず。僕は芹沢さんのギターとどちらが良い音になるか、少し期待をしながら構えた。
「とりあえず、この前に弾いた曲のフレーズにしようか。せーの!」
何も考えず、適当に選んだのは大報告会で弾いたギャルゲーソングのフレーズ。
僕と芹沢さんが同時に弾くと、店内に大きな音が響く。
――ギュワワァァン!
芹沢さんのギターに合わせるように、僕は思いっ切りギターの弦をはじく。
すると、想像していた音よりはるかに上回るギターの音色に僕はおどろいた。そして、和田もおどろき、芹沢さんの弾く手が止まってしまう。
まだワンフレーズしか弾いていないのに、時が止まったような雰囲気が流れる。
「これはまた……とんでもない音が出るギターだね。このギターを使ったライブなら、イベントで勝てるかも」
「私の弾く音より、すごく目立った音でびっくりした」
二人は僕のギターから出る音に、そんなことを口にする。
「やっぱり……あのギタリストが使っていたギターなのかもしれない」
横で僕らの試奏を見守っていた店員さんが、真っ青な顔をしてつぶやく。
「いや! 横から急に話の中に加わらないでくださいよ! というか、そのギタリストって誰なんですか!」
僕は店員さんにつっこむように、そう声を出してしまう。そして、店員さんは僕らにそのギタリストについて語り始めた。




