第六十話「ギターを手にするには、お金を稼げ!いざ、バイトだ」
十三万のギターなど、学生の身分ではあまりにも高額だ。それをその日のうちに払うのは無理であった。
しかし、なんとか店員さんに説得して例のギターは取り置きという形で残してもらえる。
「僕の全財産は、頑張ってもかき集めて五万円」
その日、僕は机の上に現金を置き数えてそう口する。もちろん、目標の金額には到底およばない。
親にお金を借りる手も考えたが、額が大きいゆえにきっと無理だろう。
和田先輩からは、ひとまず立て替えておこうかと言われたけれどそれでは意味がない。
自分のギターは僕だけの力で手に入れるのが道理。
「とは考えたものの、どうしようか……」
取り置きといっても、そんな長い間は空けれない。時間がかかるほど、すでに買われてしまうリスクがある。
どうにかして、早めにお金は用意をしておきたい。
「こうなったら、バイトをして稼ぐしかない!」
一番確実にお金を手に入れるには、アルバイトが正解。労働をして稼いだお金で買えば、ギターにさらなる愛着も生まれるだろう。
あのギターは確実にものにしなければならないと思いつつ、僕はアルバイトの情報誌を眺めた。
「長期ではなく、短期で一気に稼げるバイトがいいな。どんな仕事がいいだろうか」
飲食店のスタッフ。製造業の軽作業。いろいろなバイトが多く掲載されているが、どれも長く勤務をしなければならないものばかり。
そもそも、高校生で短期間のみを雇うところはあるのかと疑問に思う。
――プルルルル!
しばらく情報誌を見ていると、僕のスマホが鳴った。
「やあ、岩崎君! 和田から聞いたが、新しいギターを買おうとしているようだね」
「なんだ……金本先輩ですか。情報伝達がお早いことで」
「ふはははは! 同好会のことはすべて知っているからね、それは当たり前だ」
「はあ、そうですか。それで、なんの用ですか?」
僕は金本からの電話に、めんどくさそうと感じつつそっけなく話す。
「こらこら! 嫌そうな声で話すんじゃないよ。せっかく、君にいい話を持ってきたのに」
金本はそう言葉を返す。正直なところ、金本が持ってくる話にいいものはあまりない。
またろくでもないことを言うのではないかと、僕は思いながら話を聞く。
「ギターを買うお金がないと聞いて、おそらくバイトでもやろうと考えていたのだろう? そこで、この金本様がいいバイトを紹介してあげよう」
「え? 本当ですか!」
「もちろんだとも! 短期で高収入。このバイトをやれば、すぐにギターを買えるだろうさ」
情報誌と同じようなことを話す金本。実にありがたいけれど、どうにもうさんくさいものを感じる。
なにか怪しいバイトでもさせようとかんぐってしまう。
「あの……そのバイトって違法なものじゃないですよね? ニュースであるような、アレな関係とか」
「きええええ! そんなわけなかろうが! この金本様がすすめるバイトだ、違法なわけがない!」
僕の言葉に気分を害したのか、金本が強い口調でそう答えた。
けれど、このまま情報誌をだらだらと読んでいてもキリがない。金本の紹介をするバイトで、とりあえずは購入資金を手に入れようと僕は考えることにした。
僕がバイトをやると聞いた金本は、バイトがある日にちと時間を告げる。
「安心したまえ! この金本も一緒にバイトをやってあげるから、大船に乗った気持ちでやるのだぞ」
「はっ、はあ……」
受験生なのにバイトをしていいのかと一瞬考えたが、この状態の金本はどうにもならない。話がまとまったところで電話を切り、僕はスマホを机に置く。
――それにしても、バイトかあ。そういえば、ギターのために働くのって初めてだな。
なるべくお金をかけずにギターをやってきた僕だが、ここまで稼いで買おうと思ったことにおどろきだ。
ふいに、スタンドに立てかけていた自分のギターに目をやる。
中学からギターを始め、これまで金本たちといくつものライブをやってきた愛機。まだ、音は鳴るし、見た目も悪くはない。
けれどこのギターでは、この先に待つ戦いでは勝てないのだろう。そんなことはないと思いつつも、和田からの指摘ならば従うしかない。
今は愛機には休んでもらって、いつの日かまたこいつを使ってライブをやろうと僕は思った。
「しばらく、使ってあげれないけど……ごめんな」
僕はギターにそう声をかけ、謝った。
時間を見ると、もう夜中だ。バイトは来週の土曜からあるらしく、僕はカレンダーに印をつけた。
「土曜はもうすぐやってくるし、いろいろ準備をしないとな。履歴書とかはいるのかな? というか、どんなバイトの内容か聞き忘れていた!」
もっとも知るべきことを金本に聞き忘れた僕は、後悔しながら思わずさけんだ。
金本にまた電話をかけるも、応答はない。
――まあ、金本も一緒ならば大丈夫だろう。
バイトの当日になればある程度、どんなことをするかは教えられるだろう。そう思った僕は、ベットに入り眠ることにした。
――初めてのバイト当日。
僕は指定された場所に着くと、無言でいた。
「さあ! 岩崎君、今日はガッツりと稼ごうじゃないか!」
「……」
金本の言葉に、僕は無言をつらぬく。
どんなバイトかと思ったら、予想を超えるものだった。
「……フルーツパーク、岡山」
目の前には、広い畑に多くの木々。そこに大量の果実が実っていた。
「ということで、君たちには果物の収穫をやってもらうよ! 全部ね」
「よっ、よろしくね……岩崎君」
「まさかの岡山先輩ですか……」
僕がやる初めてのアルバイト。それは、果物の収穫作業である。しかも、そこは岡山の実家だということに僕はおどろきと落胆を感じた。
「それじゃあ、君の収穫用に使うカゴを渡すね! 今日はよろしくねー」
ドドンと渡された巨大なカゴ。それを僕は背負う。
ついでに麦わら帽子をつけられ、今より僕のバイトが始まる。




