第五十九話「新しいギターと出会うが、運命よりお金」
和田からの言葉に、僕はおどろくと同時に思い当たる節があった。
芹沢さんと一緒にギターの練習をしていた頃だろうか、よくチューニングが合わなくことがあった。
最初はチョーキングやスライドといった弦を引っ張ったり、揺らしたのが原因で起きるズレだと気にも止めていなかった。
しかし、それがギターの本体が悪かったなんて。
「まあ、中古で買うとよくあることだね。どんなに調整をしてもらっても、ギターがダメになることもあるし」
「……はあ」
この日は、和田と一緒に楽器店へと向かう。その道中も、僕は上の空でいる。
新しいギターを見に行くとこになったはいいが、そんなすぐに愛機となるギターと出会うことは早々にない。
できることならば、この先も今まで使ってきた相棒を使っていきたい気持ちがある。だから、あえてギターを持ってきている。
もしかしたら、修理ができるかもしれないという思いがあったからだ。
「あれ? ここって、いつも僕らが行っている楽器屋ではないですよね」
「ああ、違う楽器屋に行くのも悪くないだろう。いきつけの楽器屋よりも、品ぞろえがいいのさ」
「へえ……和田先輩は来たことがあるんですね」
違う楽器屋に着き、僕らはそのまま店内へと入る。
店の中にはいつも行く店よりも多くのギターが並んでいる。その数に、僕はおどろいた。
「さて。岩崎君の新しいギターの候補を見つけたいが、どのタイプが好きとかはあるかい?」
「え? あっ、はあ。そうですね……やっぱり、レスポールタイプがいいですね」
僕はそう和田に答えた。これまでずっとレスポールタイプのギターを使ってきたし、あの野太い音が出るパワフルなタイプが自分は好きだ。
「ふむ。そうか……なら、いろいろと見ていこう」
今回は一緒に選んでくれるのか、和田がレスポールタイプのギターがあるエリアへと誘う。
――カスタム。スタンダード。スペシャル。
そう書かれている値札を見ながら周る。
「なんか……いろいろと種類があるんですね。ギターをやってはいるものの、よくわからないんですよね」
「まあ、形は似ているからね。ほとんどが、見た目で決めるのは一番だよ? ギターってやつは」
たしかに、その考えは理解できる。ほとんどのギタリストたちは、値段ではなく見た目で決めろと言う。
僕もその言葉を信じ、ギターを買ったことを思い出す。ギターケースを握る僕の手が、ギュッと強くなる。
「いらっしゃいませー! なにか、お探しですか?」
ギターを眺めていると、いきなり店員さんが話しかけてきた。
楽器屋ではよくあることだが、本音を言えばあまり話しかけてほしくない。けれど、相手は店員だし、店としては商品を買ってほしいのだろう。
それは仕方ないとしてギターについて話そうとした時、和田が僕の代わりに答えた。
「実は、彼の新しいギターを探しているのですが、なにかいい機種はありますかね」
「どのようなジャンルの曲をやっているんですか? それによっては、アドバイスなどができますけども」
「ジャンル……それはギャルゲーソングですね!」
和田がほこらしげに答えると、店員さんは一瞬だけフリーズをする。
それもそうだ。ジャンルを聴いているのに、返ってきた言葉がギャルゲーソングだと言われたらそうなるだろう。
「あの……先輩。ギャルゲーソングはいいんですが、ジャンルなのでロックとかパンクかどうか聞いていると思いますよ?」
僕は和田に小声でそう話すと、なるほどという顔を浮かべる。
「これは失礼! そうだな……激しい音が出せたり、時には落ち着いた音が鳴るギターですね!」
「はっ、はあ」
「わ! もう、先輩は黙ってください。すみません、レスポールタイプでおすすめがあればそれで」
またもやとんちんかんなことを言い始める和田をさえぎり、僕がそう店員に尋ねる。すると、店員さんから意外な返事が返ってきた。
「ギャルゲーソングといっても、多種多様ですよね。基本はどのギターでもいいと思いますけど、こちらのギターとかいいと思いますよ」
――ん?
いくつかのギターを僕らに見せて話す店員さんだが、ギャルゲーソングを知っているような口ぶりで話していた気がする。
「ほうほう。音的には、アイリスソフトの曲に使われている感じがするギターだなあ」
「あれはほとんどパソコンで作っていますからねー! けど、ギターで弾こうとするならシングルよりハムバッカーのピックアップが再現しやすいですよ」
「あー! たしかに、戦国スピアとか戦闘都市のBGMを弾くときはそっちを使いますね」
和田と店員さんは、まったくわからない話題で盛り上がりつつギターを見ながら話し続けている。
「ということは、お客さんはそういう曲をやるってことですかね?」
「いやあ、僕というより彼がですけどね。欲を言えば、オールマイティにできるギターがあればいいですねえ」
和田に言われた店員はしばらく悩んだ後、その場を去っていく。
「先輩……あの店員さんは何者なんですか? すごいギャルゲーソングを知ってます感がある口ぶりでしたけど」
「いやあ、まさかあそこまでギャルゲーソングに理解があるとは思わなかったな。相当なマニアとみえる」
「はっ、はあ……」
あの店員さんに和田がおどろいている。それだけ、ギャルゲーソングに詳しいのだろう。楽器屋の人がギャルゲーを知っているとは、世も末だ。
などと思っていると、店員が戻ってくる。手には一本のギターを握っていた。
「こちらのギターなんかどうですか? 多分、お客さんの希望通りな音が出せるモデルかと」
そう言って差し出してきたギター。それは、レスポールタイプの形をしていなかった。
「これ……レスポールタイプにあるダルマのような形ではないですよね? なんか、ストラトタイプに似ているような」
「それに、ボディの横に穴があいてますよ? 長細いような」
これまでに見たことがないギターに僕と和田は興味深そうにしながら、店員さんに尋ねる。
「これはセミソリッドっていうボディですね。他の機種と比べて軽量化をしつつ音に空気感を持たせることができる特徴があるんですよ」
「「へえー」」
「ハムとシングルの中間みたいな感じで、両方の音が欲しいって時に役立つギターなんですよ。あれもこれもやりたいお客さんには、もってこいのギターでしょう」
「たしかに。演奏をするギャルゲーソングによっては、こういうギターは必要かも」
妙に納得をする和田。たしかに、機能面では良さそうに思うけれど問題はある。
それは、僕がそのギターにインスピレーションを感じることがあるか。
どんなに良いギターでも、僕が気に入らなければ使い続けるモチベーションが上がらない。
「それじゃあ、試しに弾いてみましょうか。はい、どうぞ」
「え……僕がですが?」
「そりゃあ、そうだろう。君が手にするギターになるかどうかだしな」
ギターのうまい和田に、楽器を知り尽くす店員。その二人の前で弾くのはどうにもやりずらい。
けれど、弾かなければならない状況。僕はあきらめて弾くことした。
――まあ、ボディの色は好きな赤だし、形も嫌いじゃない。あとは音だよな。
ギターを持たされ、ネックを触ったりボディを見つめながらそう思う。
そして、僕はギターのボリュームを上げてピックを持った。ピックを弦に当て、軽くはじく。
――ジャララーン!
その音を聴いた瞬間、僕に衝撃が走った。
エフェクトもかけない、純粋なギターだけのサウンド。なのに、音の粒がはっきりとして、突き抜けて音が広がる。
今まで出会ったことのないギターの音に、僕は弾く手が止まらない。気がつけば、このギターにどんどんとハマっていった。
「すごい……弾いても全然疲れないし、ネックも手にフィットする。それに、どことなく、前に使っていたギターに似た音が出せる」
「まあ、ハムではありますからね。あと、そのボリュームをカチッと押すとシングルコイルの音に切り替わりますよ」
弾く僕の横で、ギターについて説明をする店員さん。その話を聞きながら、ギターを弾いていく。
もう、このギターが僕を呼んでいるとしか思えなくなった。
「ふっ。決まりのようだね、岩崎君」
「はい! 僕、このギターを買いますよ。店員さん、このギターはいくらですか?」
すでに買う気でいる僕は上機嫌に店員さんに尋ねる。すると、店員さんは値札を僕らに見せた。
「こちらは、十三万と八千円ですね! お買い上げありがとうございまーす!」
「……え」
ホクホクとした顔で答える店員さん。その金額を聞いた僕は逆に、顔色が一気に青ざめる。
それくらいの衝撃的なお値段であった。




