第五十三話「やりきりライブ後の虚無。そして明かされる真実!」
演奏時間。おおよそ、四分。僕らの完璧なパフォーマンスは、わずか数十秒のギャルゲームービーとさくりんの映像で薄い存在になってしまった。
スクリーンに映るその強烈なものは、大報告会に参加した者を強い印象を与えただろう。それくらい、インパクトがあったのだから。
――パチ……パチパチ。
弾き終わった後、小さく乾いた拍手が聞こえる。
完全に引いた顔をする生徒やら、まるで汚物を見るかのような表情でだれる生徒。なにより、頭を抱える先生たちや顔を真っ青にして泡をふいている校長。
それよりも、大報告会を見に来た市長を含む偉い人たちの顔を僕は見れなかった。
「あっ……ありがとうございましたぁ」
僕の情けない声がマイクから流れ、逃げるようにステージを後にする。そのまま無言で別室に戻った僕らは、楽器をスタンドに立てかけた。
その後も大報告会は続き、気がつけばあっという間にお開きとなった。
別室に残っている僕らはしばらく誰も口を開かず、うつむいている。
それもそうだろう。金本の協力というか、ほとんど嫌がらせのようなサプライズ。あんなことをされ、せっかくの良いライブが台無しになったのだからショックを受けているに違いない。
なんとも重たい雰囲気の中、僕が最初に口にする。
「みんな……ごめんな。金本先輩がまさかあんなことをするとは思わなかったし、それに気づかずにいて」
僕は謝るように、みんなに向かって話す。すると、それを聞いた瑠偉たちが顔を上げてさけぶ。
「すごかったですね! 演奏は完璧に弾くことができたし、いいライブができましたね」
「だね! それに、金本先輩がやったスクリーンの映像を映した演出とか最高すぎるね!」
「……え? あの」
僕の謝罪をまるで聞いていないように、二人は興奮しながら話す。
「それにさー。聴いていたみんなの顔とか見てた? みんな、びっくりした様子で聴いてたよねー!」
「ですね! あれは、間違いなく俺たちの演奏が良くておどろいていた顔ですよ」
「なんか、すっきりしたよねー!」
ひどいショックを受けているかと思えば、みんなはライブが大成功をしたと大喜びしている。
――いやいや、あのオタクしか喜ばないような映像と音声だったでしょう? なんで、みんなは大満足をしているんだよ。
思っていたのと違ったみんなの反応に、僕は少しおどろく。
「ふっふっふ……実によいライブをやってくれたようだね。あれこそ、ギャルゲーソングを知らしめるライブにふさわしい」
すると、別室に入ってきた金本が、僕らに向かってそう話す。
「いや……金本先輩。あれは、ちょっとやりすぎと言いますか、ひどいと言うか……」
「なにを言うか! この僕が今日のために、徹夜をして編集をした最高の動画なんだぞい!」
「どこが最高なんですか! 先輩は見ていないのかよ! あの、引きつった観客の表情を」
ライブが失敗をして笑われるならばいいけれど、うまくいったライブで引かれるほうがバンドマンとしていやなものである。
金本が流した映像によって、僕ら同好会が悪く思われるのは必須。僕は、そう考えたら顔が青ざめた。
「けどー! あれくらいのインパクトがないとさー、ギャルゲーソングがすごいって印象にならないじゃん?」
話に割って入ってくた響子がそ僕に言うと、金本は大きくうなずく。
「楽観的だろ……おまえらは。はあ、この後に生徒会やら先生たちに怒られるなあ」
軽音楽部の代わりに弾いたはいいが、まさかのサプライズ演出があるとは思っていなかったのだろう。しかも、金本の単独行動であるならなおさら後が怖い。
「はあ……反省文か? それとも、停学処分なのかな」
僕はため息をついているが、みんなは金本と流れた映像について語り始めている。
その中で、芹沢さんを見るとライブ中の彼女を思い出す。
――それにしても、なぜ芹沢さんは市長のほうをずっと見てギターを弾いていたのだろう。
ライブの時、芹沢さんはまったくミスもなく完璧にギターを弾けていた。あのフレーズのすごさは僕だけでなく、聴いた人にも伝わるくらいに。
すると、僕は思いつく。もしかして、芹沢さんは市長に伝えたかったのだろうかと。
ギャルゲーソングとはいえど、曲が良いのは間違いない。それを市長に知って欲しいからではないだろうか。
「あの、芹沢さん……」
「どうしたの? 岩崎君」
僕はそれが本当なのかどうか、芹沢さんに聞いてみることにした。
「えっとね……実は」
そう芹沢さんが言おうとした時、別室にずらずらと人が入ってくる。制服の腕には、生徒会と書かれたワッペンをつけていた。
「あ……やはり、来たか」
金本が現れた生徒会の人たちを見ると、ポロッと口にする。
その顔は不気味なほど真顔で、誰一人しゃべらずに僕らを見ていた。
間違いなく、僕らのやったライブに対する注意。もしくは怒号が飛ぶだろう。すると、一歩前にいる生徒会長が口を開いた。
「ごほん! まずは、軽音楽部に代わって演奏をしてくれた君たちには感謝をする……だが!」
「ひぃぃぃ……」
「あの映像は予定に組み込まれていなかったわけだが、どう説明をしてくれるのですかね……金本先輩」
「はっはっは! 素晴らしいものであっただろう? 前、生徒会長ならば大喜びしていただろうに、新しい会長になった君には響かなかったかねぇ?」
「響く、響かないの問題ではありません。そういう演出をするなら、事前に報告をしてもらわないと……ちなみに、僕は先代ほど、ギャルゲーには甘くないですから」
――あれ?
会長と金本の話す感じから、違和感を覚える。僕は思っているよりも、怒っていないような口ぶりで会長は話していた。
「あの……会長さん、僕らを停学処分にする話をしにきたのでは? それか、なんらかの責任を取らせるような」
「ん? ああ、岩崎君か。いや、まったくそういうことで来たわけではないよ。各、部活にねぎらいの言葉をかけにきたのだ」
「え! 怒らないんですか? あんなに、気持ち悪い映像を流して見た人たちを引かせたのに!」
「……岩崎ぃ」
僕の言葉に、金本から怒りの波動が見える。
「まあ、いきなりの映像でおどろいた生徒もいたのは事実だが、それよりも演奏が良かったという声が大きかったようだ」
生徒だけでなく、大報告会に来た他校の先生などは去年の僕らを覚えていたのか、事情を説明されると納得する人もいたらしい。
ギャルゲーソングがそこまで拒否されているわけでもなく、慣れたということらしいと会長が話す。
「曲のジャンルがどうのこうの言うのではなく、懸命に演奏する君らを評価しているとのことだ」
「はっ、はあ……」
思いのほか、演奏が好評だったらしく僕は信じられずにいた。
「軽音楽部の連中も、さぞ悔しがるだろうな! はっはっは!」
話を聞いていた金本は大きな声で笑うと会長から注意をされる。それに無断で映像をながしたことだけの反省文を書くように言われると、金本は落胆する。
「先輩! ということは、大成功ってことですよね!」
「あっ、ああ。そうみたいだな」
「「いやっほーい」」
僕にそう言われた瑠偉たちが、うれしそうに雄たけびを上げる。
「ああ、そうだ。岩崎君、この後に校長室に来てもらえるかね?」
そう会長に言われると、僕らは理由もわからずに校長室へ向かうことにあった。中に入ると、ペコペコとしている校長ともう一人。
「といこうとでして……あっ、君たち! 遅いじゃないか」
出迎えた校長がいきなり僕らに向かって、そう話す。なにをそんなに慌てているのだろうと、僕は不思議に思う。
だが、振り向いた人物を見た僕らはその理由を理解した。
「やあ、先ほどの演奏をした部活の生徒さんたちだね……」
「あなたは……市長!」
そう。僕らの前にいるのは市長だった。そして、次の言葉に僕らは大きくおどろいた。
「娘がお世話になっているね。たしか、岩崎君だったね?」
「はっ、はあ……って、むすめ?」
「ああ。娘から聞いていないのかい? なあ、あきら」
そう言って市長は、芹沢さんの目を向けた。
「……お父さん」
「えええええええええええ!」
もしかしたら、芹沢さんが言いたかったのはこのことかもしれない。
けど、今の僕はただおどろくことしかできない。




