第五十二話「来たれり!運命のギャルゲーソングライブ再び!後編」
目の前には、大勢の生徒。そして、ステージの近い所にはスーツを着た人たちが横に並んで座っている。
視線はステージにいる僕らに向けられていた。
全員が楽器を構え、曲を演奏する体勢になると瑠奈のドラムによるカウントが入る。
――カンッ! カンッ! カッカッ!
ドラムをたたくスティックから鳴る甲高い音が響いた後、瑠奈がドラムを思いっ切りにたたく。アップテンポのリズムを刻み、乱れることはなく迫力のある打音が始めに聴こえてきた。
「ワン……ツー。スリー!」
僕は小声でタイミングを合わせるかのようにそう声を上げると、手に持つギターの弦をピックではじく。
――ジャンジャカ! ジャジャジャァァン!
バスドラムの音にガッチリと重ねた瞬間、僕の弾くギターが小刻みに音を出しイントロのリフを奏でる。
エフェクターによる、ロックなサウンドがドラムと一緒に体育館の全体へ響き渡ってゆく。
そして、瑠偉のベース。芹沢さんのギターも同時に入っていった。
瑠偉のベースラインが演奏する音に厚みを加え、全体のグルーヴ感を目立たせてくれる。
そこに、芹沢さんの弾くギターの音色がさらに曲の質を高めていく。彼女が作り上げたアレンジによるギターのフレーズ。
イントロが始まったばかりなのに、ものすごくかっこいい。
各パートを弾く一人ひとりが、レベルが高く完璧な演奏をスタートさせている。その音は、今まで努力して練習してきたから出せるものであった。
僕らの演奏を聴く生徒や大人たちは、まだ静か。けれど、この曲を聴いた何人かのハートを撃ち抜いているはず。
その証拠に、正面を見ながら弾く僕は数人の生徒の表情が変わっていることに気づく。
――よし、出だしは良い。このままボーカルを入れて、曲の良さをさらに引き立たせるぞ。
僕はそう考えながら、視線で響子に合図を送った。
マイクを握りしめ、目を閉じながら自分が歌うのを待つ響子。集中しつつ、体を揺らしながら歌うタイミングを計っている。
すると、響子は目をカッと見開き、マイクを口へと近づける。
そして、その声を体育館にいる人たちに向けて届けるように歌い出した。
力強く。まっすぐな歌声。それに、感情がこもった響子のボーカル。
緊張はしておらず、ふざけたことを言う時と違った一面を見せつけてくれる。
――やっぱり、おまえのリードボーカルはこのバンドでこそ輝く。
そんなことを思いつつ、僕は響子の歌声を聴いていた。オケとボーカルが重なるとき、一つの音楽が生まれる。
曲の歌が体育館に聴こえると、少しずつ雰囲気が変わっていった。聴いたことのない曲。そして、特徴的なロックサウンドであれば人はなにかしら反応を見せる。
この原曲がギャルゲーソングだと、まだ誰も知らない。
最初にギャルゲーソングだと言わなかったけれど、演奏し終わった後に言えばいいだろう。サプライズのような形で演出すれば、原曲に興味を持つかもしれないと踏む。
だが、まだライブは始まったばかり。ここで僕のコーラスとハモリも入る。ギターを弾く僕は、マイクに顔を近づけた。
――ギュワワワァァン!
すると、サビへ入る途中に芹沢さんの弾くギターが、激しく鳴った瞬間に会場がおどろきに包まれる。
その音は練習の時よりも激しい。けれど、それがすごみになってギターの音色に感情がこもっているように聴こえた。
いったい芹沢さんになにが起こったのだろう。
いつもと違った表情を浮かべ、ギターを弾く芹沢さん。その視線はどこか一点を見つめているみたいだ。
それでも僕は、彼女の弾く音になにかしら変化が起きたと思うことにした。
会場である体育館からは次第に曲にノッている人も増え始めている。ライブハウスで見た、あの独特な雰囲気に近くなりつつあった。
僕はそれを感じつつ、今だとマイクに向かってハモリを入れる。それは絶好のチャンス。さらに曲を盛り上げるための要素。
僕のハモリは響子のリードボーカルにきれいに重なり、歌に深みが出る。
最初はリードボーカルが目立つが、徐々に僕のコーラスパートのほうが目立っていく。
音楽研究同好会のバンド。通称、ザアゴットは僕の歌うコーラスとハモリがどの曲でも、強調される。
他のバンドにはない構成でやるギャルゲーソングバンドなのだ。
――うん。いい感じにできているし、声も良く出ている。
歌う僕はそう思いながら、声を上げた。
最初は響子の歌う声に反応していたみんなは、僕のハモリを聴いた後にどことなく戸惑いを見せている。ハモリが一番に目立つのだから、当然の反応である。
けれど、次第にそのハモリの正確さやコーラスの勢いに聴く人たちが湧いているのを感じた。
久しぶりのライブ。人前で披露することがなかった僕らのバンドだが、間違いなく思えることがあった。
僕らのバンド、演奏するギャルゲーソングが受け入れられる事実。
今日の大報告会で、僕はそれを確信した。
曲ももうすぐ終わりへと近づいてくる。このままなにごともなく、演奏ができそうだ。みんなと頑張ってきたことが報われるだろう。
ライブとしてはそこまで白熱としたものはない。けれど、バンドとしては大いに得るものができたと僕は思う。
ギターソロがもうすぐやってくる。僕と芹沢さんの息の合ったギタープレイを見せる時が来た。
――芹沢さん、いけそうかい?
僕はそう伝えるように目線をやるが、彼女からは返ってこない。芹沢さんの目は僕ではなく、なぜか市長に向いたままだった。
その様子に僕は少しだけおどろいたが、ギターソロを弾く体勢になる。
「待たせたな、岩崎君! ここで僕からのサプライズ演出だー!」
演奏中、どこから聞こえる金本の声に、僕らだけでなく体育館にいるすべての人がおどろく。
すると、ステージの後ろから大きなスクリーンが現れると、みんなの目がそちらにいく。
――おい、金本! これからギターソロを弾いて曲が終わるのに、なにを始めるつもりだ。
突然の金本による謎の演出が始まり、僕は嫌な予感がした。それでも、後ろにあるスクリーンを見ることができない僕らは、構わず演奏を続けるしかない。
そして、僕の嫌な予感はスクリーンから流れる音声で現実のものになった。
「きゅるるーん! みんなぁー、いっくよぅ!」
それは僕らの演奏する音よりも大きく、わざとらしい女性のアニメ声が聞こえる。その声は、僕らのカバー元であるギャルゲーソングシンガーであるさくりんだ。
いきなり起きたことに僕は、つい後ろを振り向いた。
スクリーンにはライブで歌うさくりんの姿と、その曲が使われているギャルゲーのオープニングの映像が映っている。
そのいかにもな映像に、僕だけでなくこの場にいる全員の目が点になった。そして、その中に市長がいる。
――あっ、ダメだ。こりゃあ、市による第三者委員会が発足される事案だわ。
衝撃的な映像と、オタクが反応をするアニメ声。僕は真っ白になった。
それでも、ライブは続く。




