第四十七話「いきなりの金本審査パート2。やつを黙らせて、そのギターをつらぬけ」
部活動の大報告会も近づく中、まったく関係がない僕らは今日も部室に集まって練習を始めようとしている。
そこに金本と和田が、久しぶりに同好会へ現れた。
「どうだね、岩崎君! ギャルゲーソングの練習は順調かい?」
「まあ……頑張ってはいますけどね」
「なんだい! その、歯切れの悪い言い方は」
この日は、僕が考えた新しいギターのフレーズを試してみようと思っていたが、まさかそこに金本たちが来るとは予想していなかった。
――なんか、弾いたらグチグチと言いそうなんだよな。
和田はともかく、金本は僕のギターにはうるさいところがある。嫌な予感を感じつつ、僕はみんなに話す。
「ということで。さっそく曲のギターを変えてみたから、みんなに聴いてもらいたいんだ」
「待ってください、先輩! わたしたちも、自分のパートを練り直してきたのでまずはそれを先にさせてください」
僕がギターを構えようとした時に、瑠奈がそう話し出す。
瑠奈たちもベースやドラムをもう一度作り直すと言っていたが、もうできていることにおどろく。
「ほうー! なにやら、楽しくなってきたじゃないかああああ! よし、それは岩崎君ではなく僕ら古参が判定してあげよう」
「ええ……金本先輩たちがですか?」
「なにを言う、岩崎君! ギャルゲーソングのスペシャリストである僕がチェックをしてあげるんだ。そこは、ありがたく思いたまえ」
嫌そうな口ぶりで話す僕の言葉を聞いた金本が、偉そうに答える。
金本に聴かせれば、たしかにいいアドバイスがもらえるかもしれない、しかし、ダメ出しをされてまた作り直すことになったら、振り出しにもどってしまう可能性もあるだろう。
そんな僕の考えなどお構いなしに、金本は椅子に座り直して聴く姿勢になっている。
「まあ、岩崎君。あまり嫌そうにしないで、やってみればいいさ。僕も、どんなふうになったか聴いてみたいよ」
「和田先輩……」
和田にそう言われてしまった僕は、もう後戻りはできないと思った。結局、金本たちの前で一人ずづ弾いていく形となる。
初めに瑠奈がドラムセットの後ろに座り、ドラムのビートを刻む。
――ドンッ! カッ、ドンドン!
以前に叩いたドラムの音よりも、違って聴こえる。ドラムはよくわからないけれど、良さそうに思った。
「ふむ、なるほど……」
金本はドラムを聴き終わると、なにやら考え込む。
「どうでしたか? サビのところにオカズを足して、迫力があるようにしたんですけれど」
「まだ粗削りだが、良いドラムではないか! 原曲のドラムに寄せつつ、きちんと盛り上がりを作れるドラムだと思うぞい! はい、合格!」
そう簡単に。特に詳しく理由を言うまでもなく、金本は合格を告げる。
――まったく、基準がわからに判定だな。
金本がなにを考えているかわからない僕は、そう思いながら二人が話しているのを聞いている。
「はい、次! ベースを聴かせてもらおうか……へへ」
気色の悪い声を出しながら、金本が瑠偉にベースを弾くように話す。その後、瑠奈と同じようにベースを弾いた瑠偉も合格をもらった。
「和田先輩……あの人の意図がわかりません」
「まあ、あいつなりになにか考えがあるのだろうな。僕も聴いて、いいアレンジにしているなと思うし、バンドでやれば間違いなく盛り上がるはずさ」
「はっ、はあ……そうですかねえ」
少し納得がいかないと思う僕だが、和田が言うのであればそれは間違いないだろうと思うことにした。
そして、いよいよ僕がギターを弾くときが来た。
「なんか、久しぶりに緊張してきたな」
全員の視線を感じながら、ギターを構える僕はそう口にする。
ライブの時とは違う、なんとも言えない緊張。人前で弾くのは慣れているが、この場にいる金本たちの前で弾く時は特に感じてしまう。
「さあ、岩崎君! 君のギターを聴かせてみたまえ。芹沢氏のフレーズに合うように考え直してきたのだろう? ならば、それを僕らにぶつけるんだ」
「金本先輩たちには関係ないでしょうが!」
「きええええええい! なんて、生意気な小僧だ! 君らのバンドがやるギャルゲーソングの成功を手助けしようとする僕にたいしての暴言は許さんぞ」
ほとんど、逆ギレに近い態度で金本は僕に向かってさけぶ。
「まあまあ……落ち着くんだ、岩崎君」
「そうだよー! 金ちゃんと言い争ってないで、ギターよギター」
僕と金本の小競り合いに、和田と響子がなだめる。
「岩崎君……頑張ってね」
その中で、芹沢さんがそう祈るように声援を送る。
――そうだ。これは、芹沢さんが作り出したギターのパートに合うために作り直したものを聴かせるんだ。
自分が再度、作ったギターのアレンジを芹沢さんたちに聴かせるために弾くのだ。僕は、そう思い直してギターを構え直す。
「それじゃあ、弾いてみますんで! よろしくお願いします」
ギターのボリュームとトーンを上げ、指で弦を押さえる。やがて部室は静まり返り、僕の弾こうとする音に全員が集中する。
ふうっと深呼吸をし終わった後、僕は勢いよくピックで弦をはじき出す。
――ジャカッ! ジャジャン、ジャカジャジャン!
曲のイントロから弾き始めた僕は、器用にコードを押さえてはテンポ良く弾いている。ただストロークさせるだけでなく、音にメリハリをつけて表現する。
エレクトロのサウンドが主体である原曲を、どうギターで表現するか。それに重点を置き、僕はギターのフレーズを考えてきた。
基本となるコード進行を変えず、そこにロックのような激しさと疾走感を出せるようなフレーズだ。
「ほうほう……」
弾いている時に、ちらりと金本を見る。あごに手を置き、うなずく金本の姿があった。
正直、僕の中ではかっこいいのではないかと思うフレーズ。自分作ったゆえにそう思いながら、弾き続けていく。
イントロから始まり、Aメロ。そして、サビの部分へとギターを走らせる。
ギターだけの音が部室に鳴り響き、ソロを弾く時が来た。
――キュイイィン! タララァァン!
ハイフレットからの高音がきれいに鳴る。高速に指を動かすようなソロではなく、適度な速さと正確な音によるギターソロ。
少し、有名な八十年代のギタリストが弾くような古臭いパターンのソロだが、このギャルゲーソングに合うだろうと思い、オマージュした形。
それでも、聴くには悪くないソロだ。僕が弾いている姿を、みんなはおどろいたような顔で聴いている。
ギターソロもミスがなく、そのままエンドロール。
あっという間に、曲のギターパートを弾ききった。
「どうだった? このギターでよかったかな?」
弾き終わって、僕はすぐにみんなにそう尋ねる。
「いいじゃないですか! 前より、すごくかっこいいギターですよ」
「うん! 岩崎君はすごいなあ……こんなギターのフレーズを作れるんだもの」
瑠奈たちや、芹沢さんは満足そうに答えてくれる。バンドのメンバーからは好評のようだ。
問題は、金本たちだろう。みんなが話している間、ずっと黙っている。
「金本先輩たち、どうです? 僕のギターは。そこそこ、悪くなかったアレンジでしたでしょう?」
「いやあ、すごいよかったよ。岩崎君がここまで腕を上げたと思わなかった。去年より、だいぶギターも様になったね」
和田が先にそう僕に向かって話す。ギターを担当していた和田から言われた僕は、つい顔がほころぶ。
「岩崎君……」
すると金本が席を立ち、僕に向かって歩み寄るといきなり手を握ってきた。
「なんですか、いきなり! 気持ち悪い」
「認めたくないものだな……若さゆえの過ちというやつは」
「……は?」
「まさにこの曲をギターで表現するならば、君が弾いた通りに僕もしただろう。完璧な、ギターアレンジではないか!」
「はっ、はあ……それはつまりこのギターでオーケーってことですか?」
「うむ! 文句なしの合格だ。このギターで曲を弾けい! そして、ライブでギャルゲーソングの良さを知らしめてくれたまえ」
金本の言葉に、僕はかつてないほどのうれしさがこみあげてくる。僕がなにかするたびに文句を言ってくる金本が、ほめてくれているのだから。
「やったああああああ! よーし、みんな。全員が合格をもらったんだし、このまま一気に曲を仕上げるぞ」
「「おおおおおお!」」
ギャルゲーソングのマスターである金本からお墨付きをもらった僕らは、テンションが上がったまま全体練習を始めようと意気込む。
――ガラガラ。
「あのう……音楽研究同好会のみなさん。いらっしゃいますかあ?」
勢いづく僕らの部室に、おそるおそる誰かが入って来る。
「ん? 誰だね、ちみは」
それに気づいた金本が、僕らに代わって対応する。
後に、この人物が言い放った言葉に僕らの同好会の活動が大いに進むことになった。




