第四十六話「最高なアレンジにするために僕らは……そして、またアレがやってくる!」
激しいギターの音が刻む、リフ。そこに合わさる他の楽器の音色。
そのすべての音に、僕と響子のボーカルが乗っかる。バンドの形がうまくできていた。
――ジャラーン、ジャジャン!
僕らは演奏を終えると、その場で静まり返る。
「わっ、悪くない演奏だったな……」
僕は、そう尋ねるとみんなが無言でうなずく。
もう、レンタルスタジオでの練習は何回目だろうか。初めてみんなと合わせて弾いてみてから、しばらく日が過ぎた。
芹沢さんの弾いたギターを聴いてから、僕らのやる気は大きく変わった。
「芹沢先輩のギター。なんか、変わりましたね」
「ああ。まさか、あんなすごいアレンジを思いつくとは思わなかったな」
ベースを弾く瑠偉が話しかけた後、僕はそう答えた。
金本たちと遊びで曲をやったが、和田が弾いたギターよりもクオリティが高いものだった。僕ですら考えつかなかった、ギターのリフ。芹沢さんの能力におどろきの連続だ。
「さくりんの曲って、エレクトロな感じでケロケロボイスみたいな感じでしょー? それを、あんなロックテイストにできたのがびっくりだよー」
「さすがに、リアルタイムにピッチ補正ができる機材は用意できないからな。ボーカルは少し、練り直したほうがよさそうだ」
原曲とは違い、テンポをさらに早くしたロックな曲調にしたのでボーカルパートも、それに合うようにしなければならない。
他の曲よりも歌い方を変える必要があるため、響子との打ち合わせも大切になってくる。
「芹沢先輩の弾くギターを基準にもう一度ドラムを考えなおさないとかなあ。弾いた感じはよかったんですけど、わたしも練り直しかなあ」
「ああ。俺もベースラインを変えてみるよ」
それぞれ、合わせて弾いた後に思うところがあるのか瑠奈たちは頭を抱えながら譜面を見始める。
「岩崎君。わたし、なにかみんなに負担をかけているのかな?」
「いや、そんなことはないよ? 芹沢さんのギターが良いアレンジだから、みんなもそれを引き立たせるために頑張りたいんだよ」
芹沢さんがそう不安そうに尋ねると、僕は答えた。事実、先ほど弾いた演奏はよかったけれど、まだ完全には納得していないところもある。
僕の弾くギターも芹沢さんの音を活かしせていないし、このままではダメな気がしてならない。
「僕も……やらなきゃだなあ」
ギターを握る手が、ぎゅっと強くなる。
芹沢さんのギターがこの曲をさらに良いものへと変えてくれた。それを、さらに表現させるためにしないとという気持ちが強くなっていく。
ひとまず、今日の練習を終えてそれぞれが帰ってゆく。
僕も寄り道はせずに自宅へ帰った後、すぐにギターを持つ。机には真っ白な譜面とペン。そして、自分が書いたギター譜面をゴミ箱に投げ捨てた。
「よし……やるか!」
気持ちを新たに、僕は最初からギターのフレーズを作り直す作業に入る。頭の中で、芹沢さんが弾いた音をイメージしながら、ギターを弾き始めた。
すべては、この曲を最高な形で演奏できるように。
――次の日。
「ふあああ……ねむい」
閉じそうな目をこすりながら、僕は教室でだれている。
あれから朝まで永遠とギターを弾き続けたため、今はどうしようもなく眠い。
「岩崎君、大丈夫? とても眠そうな顔をしているけど」
「芹沢さん、おはよう。大丈夫だよ……昨日は徹夜でギターを弾いていたからね」
隣の席に座る芹沢さんが心配そうに尋ねると、僕はそう答えた。
「それより、僕もギターのフレーズを考え直してみたんだけれど……」
芹沢さんにギターの譜面を見せようとした時、同級生のひなたが近づいてくる。
「わわ! がんちゃんの顔がいつもより、さらに変な顔になっているね」
「ひなた……おまえは、どうしてこうも変なタイミングでおかしなことを言いやがるな」
「それより、聞いた? 今年の部活動の大報告会」
「……大報告会?」
「ああ! あきらちゃんは転校してきて、知らないよね! 大報告会っていうのは……」
ひなたは芹さんにこの学校にある、部活動の大報告会について説明をし始める。
この学校にある部活動で一番活躍した部が教育委員会やら他校の偉い人の前で、その成果を発表する、よくわからない学校のイベントである。
「へえ。そんな行事があるんだねえ」
「そうそう! 去年はがんちゃんたちの音楽研究同好会も、ギャルゲーソングを披露したんだよ」
「そうなの? それは、すごいね!」
たしかに、僕らの同好会がライブをやった動画がバズったおかげなのか、その大報告会に参加したことがあった。
「まあ、今年はそこまで目立った活動をしてないから、選ばれているはずもないからな」
「そうそう! がんちゃんたちには、もっとギャルゲーソングの良さを広めてもらわないと!」
「うるさいなあ……それができたら、苦労はないよ。それで、その大報告会がどうしたんだよ」
僕はそうひなたに向かって尋ねる。こいつがさわぐくらいなのだから、よほどのことだろう。
「あー。そうだった! その大報告会なんだけど、今年は軽音楽部が選ばれたらしいのよ!」
この学校にある軽音楽部。僕はその部がどうにも気に入らない。
入部しようと考えていた僕をオタクだと言い、入部希望を拒否。あげくには、ギャルゲーソングをバンドでやる僕らの同好会を悪く言う連中がいる部。
そんなふざけた軽音楽部が、大報告会に選出されるような活躍をしたのか疑問に思った。
「がんちゃんたちは、ギャルゲーソングの練習ばかりだから知らないだろうけど。なんか、軽音楽部が高校のバンド大会でテレビに出たんだって」
「テレビの出たのか……あんなくそったれな部なのに」
「思いのほか話題になったらしくて、それで大報告会でライブをやることになったみたい」
僕たちが懸命にギャルゲーソングを練習している間に、軽音楽部は結果を残すような活動をしているみたいだ。
それを知った僕は焦りつつも、冷静を装う。
「けど、どんなライブなのか気になるね」
芹沢さんはそう興味深そうに僕らに話す。たしかに、どんなレベルなのか知っておく必要もあるだろう。
「どうせ、たいしたライブじゃないさ。本番前に腹を壊して、出れなくなればいいのさ」
「ははは! そうなったら、大変だよ。代わりのバンドなんていないしさ」
ひなたと僕は冗談を言いながら笑う。しかしそれがのちに起きる、大イベントになるとはこの時の僕は知らない。




