第四十五話「おどろき、もものき、芹沢さん」
レンタルスタジオでの練習が続く。覚えてきたギャルゲーソングを一曲、二曲と弾いていく中、その成果を僕は感じる。
好きな曲という理由だからと言っても、他の曲もきちんと弾きこなしていた。
「うん。悪くないな……というか、よくもここまでできたものだよ」
しばらく弾いた後の休憩。僕はみんなにそう話す。
「このメンバーでやってきた中で、一番頑張っているんじゃないかなー? どうしたー、みんな」
「いやあ、やっぱりギャルゲーソングは一人よりみんなで弾いたほうが楽しいなって。だから、つい気合いが入りますよねえ」
「だねえ! ゲームもいいけど、弾くのも好きだしな」
瑠奈と瑠偉は、そう口にしながら楽し気に話している。二人が言っていることは、間違いではない。
「芹沢さんも、すごくギターがうまくなったね。最初の頃よりテクニックが上がったし、アレンジも良くできているよ」
「ありがとう、岩崎君。けど、わたしが覚えたギターのフレーズで大丈夫だった?」
「ん? 僕は良いと思うよ。というか、こんな短期間に自分でできるようになったのがおどろいたよ」
今日の練習で、芹沢さんのギターが大きく変わったのがよくわかる。誰の手も借りず、自分だけで曲のギターを覚えてきたことに僕はうれしく思った。
「そーそー! 普通は、あんなかっこいいギターのフレーズを思い浮かべないよー! 芹ちゃんになにが起きたのー?」
僕だけでなく、響子もおどろいたのかそう芹沢さんに尋ねる。たしかに、どうやったのか気になった。
原曲通りのコード進行を把握して、そこにアレンジを加えていた芹沢さんのパート。正直、僕ですら思い浮かばないフレーズも多々あった。
「何回も曲を聴いたり、とにかくコードをたくさん弾いてみたり……」
芹沢さんは最初にそう話すが、どうにも歯切れが悪いような感じでいるようだった。
――なにか言いにくそうな感じだけど、なにかあるのかな?
その様子に、僕はそう思いながら芹沢さんの言葉を待った。すると、いきなり彼女が大きな声で謝る。
「ごめんなさい! ギターのフレーズを覚えてきたのだけれど、実は……」
「「ええええ! お父さんに協力してもらったぁぁぁぁ?」」
芹沢さんの言葉に、僕らはおどろきながら大きな声でさけんだ。彼女が謝ることより、お父さんがギャルゲーソングを弾けたのことがなによりもおどろきだった。
「え……先輩のお父さんって、ギャルゲーをたしなむお人なんですか?」
「いや、年齢的には過去にやってきたパターンかもしれない。ギャルゲーはかれこれ、何十年も前から存在しているし」
「けど、芹沢先輩の……ですよ? 見たこともないけれど、イメージ的にギャルゲーとは無縁だと思っていましたよ」
芹沢さんに構わず、僕らはそう話し合っている。それくらい、意外なものだったから。
「あの……お父さんはそういうゲームをやったことはないと思う」
そんな僕らに、芹沢さんは誤解を解くように答える。僕はなぜかほっとしながらも、次に疑問をぶつけてみた。
「じゃあ、なんでお父さんはギャルゲーソングを弾けるように協力できたの?」
「家でギターを弾いていたら、お父さんが気になったみたいで……一緒に演奏する曲を聴いてやっていたの」
「へー! そのギターもそうだけど、やっぱりお父さんも音楽が趣味なんだね」
「うん……それで、曲がギャルゲーソングと知らずに聴いていたら、すごい気に入ったみたいで。わたしより、熱心になってギターのパートを練習していたの」
「あるあるな話ですね。ギャルゲーソングとは思わず、曲を好きになるパターンだ」
瑠偉の言葉に、全員がうなずく。
金本がよく言っていたが、ギャルゲーソングは一般的なアーティストが歌う曲よりも、クオリティが高いものもある。決して劣っていることはないと。
僕もそれはそう思う。だからこそ、いろいろな人にギャルゲーソングを聴いてもらいたい。
「岩崎君にわたしだけでギターを覚えてみせるって言ったけど、結果的には一人で全部はできなかったのが申し訳なくて……」
芹沢さんはうつむきながら、申し訳なそうに話す。
「そんなことないよ! 芹沢さんが一人でやるって意気込みは素晴らしいし、協力してくれる人がいるのは良いことだよ」
「そうだよー! それに、お父さんをギャルゲーソングの良さを知ってもらえたことが大収穫だしー」
「ですね! みんなと合わせて弾いて、芹沢先輩のギターが良ければ問題ないですよ」
誰一人、芹沢さんを責める者はいない。むしろ、それがバンドにとってプラスになっているのだから悪いことなどなに一つないのだ。
「みんな……ありがとう」
芹沢さんの表情が、ようやく笑顔になる。そして、僕はみんなに向かって口を開いた。
「よーし! 休憩はここまでだ。引き続き、がっつりと練習をして形にしていくぞ!」
「「おおー!」」
僕らはまた楽器を背負うと、練習を再開する。さらに練習を重ね、完璧な演奏ができるようになるために。
「キョウちゃん。三曲目のやつから、弾いてみる?」
「ん? ああ、そうだな。さくりんの曲も、どんな感じになったか弾いてみなきゃ」
他の楽曲と違い、エレクトロなさくりんの曲をどうバンドでアレンジしていくか。実際にみんなで弾いてみないとわからないし、さっそく演奏してみる。
「あっ。この曲なんだけれど、これはわたしが一人でアレンジを考えてみたの」
ギターを構える芹沢さんが、そうみんなに伝える。
――なるほど、これは芹沢さんが気に入った曲だものな。これだけは、自分でどうギターを弾くか考えてみたんだな。
僕は横でギターを弾こうとする芹沢さんを見ながら、そう考えながら同じようにギターに手をそえる。
「それじゃあ、イントロの出だしからいくぞ」
全員が演奏を始めようと集中している中、合図を送る。しばらく、スタジオ内が静まり返り。そして、曲を弾き出す。
――ギュワワワァァン!
すると、最初に大きなギターが大音量で鳴り響き、僕はその音におどろく。原曲に近いのに、これまで聴いたことがないアレンジのギターに僕の手は止まる。
そのギターのサウンドを奏でているのは、横にいる芹沢さんだった。




