第四十四話「芹沢さんは新たな武器を手に入れた!確実に進むバンドの練習」
新しく弾くギャルゲーソングのギターをある程度覚えた僕は、部室に集まっているみんなに声をかける。
「そろそろ、ここらで合わせて弾いてみようか」
しばらく個人練習を中心にやってきたが、もう全員で弾いてもよい頃合いだろう。僕だけでなく、瑠奈たちの練習の成果も確かめておきたい。
「わたしは問題なーし! 全部のボーカルパートは覚えているからねー」
「そうか……まあ、響子は歌だけ覚えればいいしな」
「なにを言ってんのよ、キョウちゃん! これでも、歌い方とかわたしなりに研究しているんだよー!」
ぷんすかと怒る響子に構わず、僕は瑠奈たちに尋ねる。
「どうだ? 二人とも、曲のベースとドラムはやれそうか?」
今は、歌よりもオケのほうが重要である。二人共、合わせることができるレベルまでいったならばありがたい。
「大丈夫ですよ? だいたいベースラインは覚えましたし、自宅でも瑠奈のドラムとすでに合わせてましたから」
「はい、同じく! 自分がやりたい曲って、すぐに覚えちゃっいたりしますからね」
「そっ、そうか……それは頼もしいな」
自信がたっぷりに話す二人におどろきながら、僕はちらりと芹沢さんを見る。
あれから、芹沢さんがどうギターを覚えてきたからわからない。一人で曲のギターを弾けるようになったのかどうか。
芹沢さんはギターケースを抱え、黙っている。
「あの……芹沢さん? どうかな、みんなと合わせられそう?」
ギターは全部、自分で弾けるようになったか――そう聞きたかったが、あえてみんなと同じように尋ねてみた。
すると芹沢さんはギターをケースから取り出し、肩に背負う。その後に、僕に向かって答えた。
「大丈夫! きっと、できてると思う。岩崎君に……いや、みんなに聴いてもらいたいの」
その声は、どこか自信があるように聞こえた。
「すごいじゃないですか、芹沢先輩! ということは、ギターはばっちりですね」
「ばっちりかどうかは、みんなと弾かなきゃわからないけど……わたし、頑張ります!」
みんなが、芹沢さんの言葉におおっとうなる。それぞれ楽器を取り出して、演奏の準備を始めようとしていた。
「って、こんな狭い部室でやるのか?」
「え? だって、他に場所がある? 体育館はさすがにもう無理でしょー」
「ここはレンタルスタジオで弾くのはベストだろう! せっかくみんなで合わせるんだから、設備が整っているところが良いに決まっている」
「けど……今日は持ち合わせがなくて」
ここにいる全員が、お金を持っていない素振りをみせると僕はため息をついた。
「しょうがない……今日は僕がレンタルの代金を支払おう」
僕がスタジオ代を払うことで話はまとまり、レンタルスタジオに向かう。さっそく、スタジオ内に入ると全員が楽器を取り出す。
「瑠偉、その足元にある大きなエフェクターはなんだ?」
「ああ。これですか? 実は新しいベースのエフェクターを買ったんですよ! マルチエフェクターってやつで、いろいろな音が出せるんです」
「へえ、ベースにもエフェクターっていうのがあるんだね」
「なにを言っているんですか、芹沢先輩! ベースにだって、ギターのようにきちんと音を作るんだから当たり前ですよ」
「ごっ、ごめんねぇ」
たしかに、ベースにも音を良くするためにエフェクターは大切だ。それよりも、瑠偉がちゃんとエフェクターを使っていることに感心する。こいつなりに曲に合った音にするため、いろいろと試行錯誤したのだろう。
「エフェクターかあ」
「どうしたの? 芹沢さん」
「え? んー、わたしもエフェクターとかをちゃんと買わなきゃだめなのかなって」
ギターはエフェクターによって、様々な音色を出すことができる。これから弾くギャルゲーソングも、きっちりとした歪ませた音が必要になる。
「芹ちゃんはー、キョウちゃんから貸してもらったのしか使ってないもんねー」
「ディストーションとノイズサブレッサーのみだからな……」
僕が芹沢さんに貸したのは、歪ませることができるディストーション。そして、ギターのノイズを軽減するエフェクター。
自分が使うもの以外はあまり持っていなく、貸してあげられるものはそれしかなかった。
「けどね! お父さんに相談したら、これを持っていきなさいって」
そう芹沢さんがカバンを持ってきて、紙袋を取り出す。すると、中からドサッと重い物の音が聞こえる。
「こりゃあ……すげえ」
目の前には、ずらりと並ぶコンパクトエフェクター。しかも、どれも年代物の名機である。
「どうせギターを弾くなら、これくらいは使わないとって言われたんだけど。弾く曲に合うかわからなくて……だから、岩崎君に話して新しく買ったほうがいいのかと」
「いや……芹沢さん。これ全部で問題ないよ? というか、もう買う必要もない」
これだけエフェクターの種類があれば、曲のギターサウンドが作れてしまう。そのくらい、充実したラインナップだ。
正直、僕が使っているのより良い音を出してしまいそうなくらい。
「芹沢先輩のお父さんって、何者なんですかね……」
「音楽に理解があるとしか思わないけどー! まあこれを使えば問題ないみたいだし、ささっとセッティングしちゃいなよー」
響子に言われ、芹沢さんは持ってきたエフェクターをギターに繋げる。他のみんなも、軽く音を出しながら調整を進めていった。
「よーし! それじゃあ、みんなで合わせてみるか」
「「おおー!」」
全員が準備を終えた後、さっそく曲を弾くことになる。僕はマイクスタンドの前に立ち、ギターを構えた。
まずは、一曲目であるギャルゲーソング。
瑠奈がドラムスティックでカウントを取り、それに合わせるように一斉に弾く。
――ドンッ! ドンッ! ギュワァァン。
すべての音が鳴り響き、曲のイントロを奏でる。
どのパートも仕上げてきたのか、おどろくくらい曲の形になっていた。
特におどろいたのが、芹沢さんが弾くギター。彼女が自分で覚えてきたところが、ほぼ完璧に近いギターのフレーズ。
――へえ、すごいじゃないか。原曲通りのリフだし、聴いていて違和感がない。
なにより、先ほどのエフェクターが功を奏したのか、かなり良い音になっている。
それは僕だけでなく、他の楽器を弾く瑠偉たちも感じているようであった。芹沢さんの弾くギターを聴きながら、気分良さそうに弾いている。
曲のイントロがうまく合っていると、そろそろ響子と僕のボーカルが歌い出す。
このまま良い流れで、歌が入ればそのまま一気に曲を演奏してもいいだろう。ギターを弾く僕はマイクに口を近づけて、歌う。
その瞬間、オケとボーカルが重なると僕はハッとする。
金本たちと演奏してきたあの時と同じような、完全無欠のギャルゲーソングバンドになったような気がしたのだから。




