第四十三話「リモートセッションはドキドキと共に」
新しい曲のギターを覚えるために、僕は自室で弾きながら譜面に書いている。
まずは個々でパートを覚え、放課後になったらみんなで少しづつ合わせるといった流れでいくことにした。
「とは言ったものの、三曲となると少し大変だな……」
一つの曲を覚えるだけでも一苦労なのに、今回は三曲。それは、過去にないハードな練習になるだろう。
「おっと! ここで弱音を言ってもダメだな。よし、やるか」
僕はギターを構え、イヤホンで曲を聴きながら弾いていく。
――ジャラァァン!
原曲に合わせてギターのリフなどを耳コピしていくのだが、簡単ではない。曲のコードを最初に把握して、それに合うように音を見つけなければならなかった。
ギャルゲーソングは特にテクニックが必要なところもあるため、他とは難易度が高くなる。
「けど、本当に不思議だよなぁ。ギャルゲーを弾いてきたおかげか、今までできなかった技法とかいつの間にかできてたりしちゃうし」
ギターの教本や解説の動画を見ながら覚えるのが普通と言えるのだが、僕はギャルゲーを聴いて弾いていたら自然に身につけていた。
いろいろなジャンルがあるギャルゲーソングだからなのかわからないけれど、間違いなくスキルアップをしている実感がある。
「あとはいかに原曲を忠実に再現しつつ、アレンジできるかが問題だな」
ギターを弾きながらそう口にしていると、芹沢さんのことを思い浮かべる。
彼女が一人で曲のギターを覚えてみせると言ったが、大丈夫だろうか。ただでさえ、曲数が多いのに芹沢さんだけでできるのか心配になる。
「どうしよう……ちょっと、電話でもしてみようかな」
今、どのくらい進展しているのか気になってきた僕は芹沢さんに電話をかけようか悩む。
しかし、もう夜中だ。こんな時間に電話をしたら迷惑か。もしかして、すでに寝ているかもしれない。そう考えると、僕は少しためらう。
「だが……曲のギターがどんな感じか知りたいし。どうしよう」
などと言っている間にも時間は過ぎていく。僕は意を決して通話ボタンを押した。
――プルルルル。
しばらくスマホを耳に当てて待っていると、すぐに通話が繋がる。
「はい。どうしたの、岩崎君?」
「あっ、芹沢さん? いきなり、夜遅くにごめんね。ギター練習はどうかなって電話したんだけれど」
「大丈夫だよ? ギターは……頑張っているよ!」
妙に元気がいい声で話す芹沢さん。そのトーンから、弾いてはいるけれど苦戦しているように思った。
「そんな急に覚えなくても、ゆっくりで構わないからね?」
「ありがとう。けど、早く弾けるようになりたいし、岩崎君に追いつけるように努力したいから」
「そっ、そうか」
追いつきたいと思ってくれるのは嬉しいけれど、まだ僕もそこまで進んでいるわけではない。彼女の期待を裏切らないためにも、僕がきちんと弾けるようにならなければ。
そう思いつつ、しばらく芹沢さんと電話越しで会話をする。
「一曲目のイントロは弾けるようになったんだけど、そこからどのコードかわからないの」
「ああ。Aメロに入るところだよね? そこは……」
「大丈夫! 自分の力でコードとかを見つけてみたいの。頼りっぱなしは、良くないもの」
「あっ、ああ。そうだよね……けど、どうしてもわからないところがあったら、遠慮はしなくてもいいよ」
僕が芹沢さんにそう話すと、彼女は少し困惑したように笑ってごまかす。きっと芹沢さんにも意地があるのだろう。それ以上、ギターを教えるといったことは言わずにいることにした。
――ジャカジャカ! ジララァァン。
すると、電話も向こうで芹沢さんがギターの音を慣らしている。電話越しのためか、はっきりとした音はわからないがおそらく練習中のギャルゲーソングだ。
「へえ、そこはイントロのギターだよね! きちんとコード進行ができてる」
「そう? ありがとう。最近、コードチェンジにつまずかなくなったんだ」
「たしかに……自然な流れで、違和感がなくなったね」
芹沢さんはギターの音が聴こえやすいように、スピーカーに切り替えて僕に聴かせる。その音を聴きながら、僕はうれしさを感じた。
彼女のギターは、日が進むたびに上手くなっている。おそらく、部活以外でも毎日ギターを弾いているはずだ。
その成果が、はっきりと弾く音に表れている。僕だけじゃなく、芹沢さんもギャルゲーソングで着実に上達していると思った。
「……芹沢さん、しばらくそのまま弾いてて」
「え?」
ギターを構え直し、僕はそう芹沢さんに話すと彼女の弾く音に合わせてギターを奏でる。曲のイントロであるフレーズに、同じようで少し変えた音で合わせていく。
――ジャラーン! ジャカジャカ!
アンプに繋がっていない生音だけれど、うまく芹沢さんのギターに重ねようとする。電波の関係か、少しずれてしまうがそこは構わずに弾く。
「すごい! 岩崎君の音が聴こえてくるよ」
「ここは、こんな感じに小刻みに弾いてもいいかもね。そうすると、かっこいいフレーズになるんだ」
「そうなんだ。よーし、わたしも!」
僕の弾く音に、芹沢さんも聴きながらギターを弾き直す。先ほどよりも、大きな生音がスマホのスピーカーから鳴っていた。
ほんの最初のフレーズだけど、誰かと弾くとそれだけで楽しい気持ちになる。
一人でコツコツとギターを練習するのもいいけれど、息抜き程度の遊びでやるギターもモチベーションが上がる。
その後も、僕と芹沢さんは一緒にギターを弾いていった。気がつけば、かなりの時間が過ぎてしまった。
「そろそろ、終わりにしようか。もう、夜中だし」
「そうだね。ギターって、時間を忘れさせてくれるね」
「うん。ごめんね、芹沢さん。こんな時間まで電話してしまって」
「そんなことないよ? 岩崎君と一緒に話せたり、ギターができてうれしかった」
芹沢さんはうれしそうに話してくれる。それが、僕にとってもうれしい。通話を終えた僕は、ふうっと息をゆっくり吐く。
――よし、今日は徹夜だな。
通話をした余韻に浸り、さらにギターを弾きたいという気持ちになる。このギャルゲーソングを、一日でも早く覚えたいと思う僕は再びギターを構えた。




