第四十二話「ギターよりもまずギャルゲー!そして芹沢さんの意思」
金本たちに演奏する曲を教えてから、しばらく日が進む。
この日は、みんなで曲の一つを練習することになっていた。
「ということで、早速曲を覚えるのだけれど……瑠偉たちはもう演奏できちゃう感じ?」
部室に集まった後、僕は瑠偉たちにそう尋ねる。
演奏してみたい曲を選んだということは、その曲をある程度は弾けるのではないかと思った僕に瑠偉は答えた。
「俺は曲を聴きながらベースを弾いていたんで、もちろんできますよ。けど、ライブでやるならさらに質が高くなるように考えないと」
「瑠奈は?」
「わたしは瑠偉ほどじゃないですけど、かるーくドラムを叩けるレベルですねえ」
少なくとも、僕よりは曲を聴いているし練習するには困らなそうである。ということは、僕と芹沢さんがギターのパートを弾けるようになれば形にはなるはず。
「曲のギターはそこまで難しいテクニックがないと思いますから、覚えるだけならすぐにできそうですよ」
「コードを弾くくらいなら、問題はないけど。結構、アップテンポなところもあるしなあ」
「そこは、岩崎先輩ならできるでしょう! さあ、悩んでないで曲を頭の中に記憶させちゃいましょう」
瑠偉にそう言われた僕は、スマホに入れた曲を改めて聴くことにした。
ギターを覚える前に、曲全体を聴いて把握する。たしかに、それは重要なことだろう。金本からも曲の雰囲気を頭に叩き込み、ギャルゲーの物語もすべて理解しろと言われていた。
――しかし、曲は三つある。まずは、すべての曲を頭にいれるんだ。
僕がそう考えながら、耳にイヤホンをつけようとした時に響子がパソコンをいじりながら話す。
「とりあえず、みんなで演奏する曲が使われているギャルゲーはパソコンにインストールしておいたからー。後で、キョウちゃんと芹ちゃんはプレイするようにー」
「いや、ゲームより曲が先じゃないか? ゲームしていたら、時間が……」
「いいから! ギャルゲーをやらないと、歌詞の意味がわからないでしょー!」
「おまえ……そこは金本先輩と同じ考えなんだな」
僕は響子からの圧にため息をつきながら、言われるがままにパソコンの前に行く。その横には、芹沢さんもいた。
このメンバーの中で、曲が使われているギャルゲーをしたことがないのは僕らのみ。すなわち、一緒にゲームをやることであった。
「とっ、とりあえず……やってみようか」
「うん! どんな物語なのか、気になるよね」
妙に張り切って見える芹沢さんと一緒に、ギャルゲーをスタートする。BGMと共に、キャラクターのボイスが部室に聞こえる。
――なんか、夕方の国民的アニメで聞いたことがあるキャラクターがいるな。まあ、生き別れた双子の兄弟だろう。声優の名前も違うし。
その声にどこか聞き覚えがあった気がしたが、僕は気にすることなくテキストメッセージを読み進めていった。
しばらく、僕と芹沢さんはギャルゲーのストーリーに引き込まれていく。それだけ、シナリオが面白いのだ。
すると、タイミングのいいところで演奏する曲がオープニング映像と一緒に流れる。
「ああ! ここで主題歌か……」
「オープニングもいいなあって感じるよね。なんていうか、物語の意味を知れるような感じがして」
僕らは流れる映像を見ながら、そう感想を言い合う。まだ序盤だけれど、このギャルゲーが面白いということは間違いないと確信する。
改めて、ギャルゲーの奥深さを再認識した。この曲を弾きたいという気持ちも強くいなっていった。
「まだまだ共通ルートが終わっただけじゃーん? ここからが本番だよー」
「ヒロインによっては泣けるルートがあるんで、岩崎先輩たちも頑張ってクリアを目指してください」
「え? 全部のヒロインをクリアしなきゃいけないのか? それだと、ギターの練習が……」
「あっ、岩崎先輩。その作品が終わったら、次はわたしが選んだ曲の使われているギャルゲーをやってくださいね!」
ドラムスティックを机に叩きながら瑠奈はそう僕に向かって話す。
――ああ。ギャルゲーが好きなやつらって、必ずってほどその作品をやらせたがるものなんだな。
きちんとギャルゲーをクリアしないかぎり、ギターに触れさせてくれないということを僕は理解してしまう。
練習を始めようとしたのに、まさかギャルゲーをプレイするところからに僕は大きくため息をつくのだった。
「それじゃあ、岩崎君! 早く、続きをやろう」
「うっ、うん……芹沢さん、もうギャルゲーに夢中になっているね」
そんな芹沢さんと僕は、ギターではなくギャルゲーを始めることになっていった。やっとギターを弾くようになれたのは、ギャルゲーをコンプリートした数日後の話。
「よーし! ギターを覚えようか!」
やっとギャルゲーソングを練習できるようになり、この日の僕はテンションが上がっている。作品の物語を理解した今ならば、さらに曲の良さを表現できそうだ。
「うん! けど、楽譜がないからまた耳コピで覚えなきゃだよね」
「そうだね。それでも、あれから曲は何回も聴きまくったからそれなりに弾けそうだよ?」
僕はそう言ってギターを持ち、軽く弾いて見せる。
――ジャラーン! ジャッジャ!
原曲のサビであるギターフレーズを、それらしく弾く。
「すごい、岩崎君! たしかに、そんな感じのフレーズだったよ」
「ははは。けど、このフレーズは芹沢さんが弾くところかな。繰り返して弾けばいいし、そこまで難しくないコードだからすぐに弾けるようになるよ」
ギターを覚えるには、まず芹沢さんが弾けるようにするのを優先したほうがいい。僕はそう思いながら、彼女がわかりやすいように譜面を書こうとする。
すると、それを見ていた芹沢さんが僕に話す。
「あの……岩崎君。実は、お願いがあるのだけれど」
「ん? お願い……?」
そう聞き返すと、芹沢さんは意を決したように口を開く。
「今回、覚えるギャルゲーの三曲を自分で耳コピして覚えてみたいの!」
「え……全部を一人で? え? 本当に」
「うん! 岩崎君にばかり負担をかけたくないし、一人でギターを弾けるようにチャレンジしてみたくて」
まさか、芹沢さんからそう提案されるとは思わなかった僕はおどろいた。でも、その目は真剣でやり遂げてみせるという意思を感じる。
だから、僕はこう答えた。
「わかった。芹沢さんがやりたいようにやればいいと思うよ! そうだね……チャレンジしてみようか」
それを聞いた芹沢さんは嬉しそうに笑顔を見せた。その後すぐに、ギターを持って弾こうとし始める。
少し心配なところもあるけれど、それが芹沢さんの成長になるだろう。
ギターを弾く芹沢さんの姿を見ながら、僕はそう思った。




