第四十一話「あの頃よ、もう一度」
「ということで……これが僕らの今後にやりたい曲のリストでして」
僕は同好会のバンドで演奏する予定である曲名を書いた紙を金本らに渡す。
「ほう……」
それを受け取った金本はじっと紙を見つめる。
一応、元同好会に所属していた金本たちに僕らがやりたいギャルゲーソングを教えたほうが、後で文句を言われなくて済むだろうと思った僕は先手を打つ。
ギャルゲーソングのことに関して金本たちはこだわりが強いだろうし、ここで許可を得られればスムーズにバンドの練習もできるはず。
「いや。今の同好会は岩崎君が中心になってやっているんだろう? なら、わざわざ僕らに言うことでもないだろう」
「ええ、和田先輩。それはそうなんですけど……先輩方の意見を聞きたくてですね」
「まあ、ギャルゲーをやってきた人たちからしたらこの曲は有名だからね。悪くない選曲だと僕は思うけれど」
金本から紙を手渡された和田が、曲名のリストを見てそう口にする。
「けっ、けど。あくまで、ギャルゲーが好きな人らが聴いた場合だろう? こっ、これを知らない人たちに気に入ってもらえるかな?」
「別にいいんじゃねーか? いろんなギャルゲーソングを一般人に聴かせるって目的なら、どんなものでもオーケーさ。岩崎君たちの演奏で、どう届けるかが重要さ」
荒木と岡山は、お互いにそう話している。
彼らは元同好会のメンバーであり、僕と多くのギャルゲーソングをライブでやってきた人たちだ。
選曲したギャルゲーソングをよく理解しているし、その作品らもプレイ済み。少なくとも、反対するようなことはなく肯定的に見えた。
「どの曲もかっこいいしなー! 受験生じゃなかったら、僕らでも弾いてみたいくらいだな」
「たっ、たしかに。最近、まったくドラムを叩いてないなあ」
「みんな勉強ばかりの日々だからね。けど、どうせ弾けるんだろう?」
和田がそう話すと、荒木たちは笑いながらうなずく。
「え? 先輩たち……曲名を見ただけで弾けるんですか?」
そのやりとりに、僕はおどろきながら尋ねる。このギャルゲーソングを知っているのはわかっているけれど、そんなすぐに曲を弾けると言えるだろうか。
だが、和田たちの様子にそれができるのだと、すぐに理解してしまう。彼らはこういう人たちなのだ。
「まてまてーい!」
すると、金本が僕らに向かって大声でさけんだ。
「なんだよ、金本! でかい声でさけぶんじゃねー」
突然の大声に、荒木は不機嫌そうな顔で金本に答える。
「きさまらー! なにを勝手に弾こうとしているんだ! まだ、僕がなにも岩崎君に言っていないだろう」
「いや……言う場面なんかいくらでもあっただろうが」
「きええええい! 荒木よ、きさまは毎度毎度とやかましい!」
金本は荒木に顔を真っ赤にしながら怒る。このやりとりも、どこか懐かしい。
「金本先輩は僕らが選んだ曲に、なにか思うところがあるんですか?」
僕はそう尋ねた。もし、なにかあるのならばその意見も参考にしようと考えている。
金本のアドバイスはどこかふざけていても、僕らのバンドにとって重要なヒントになることもあったからだ。
「いや、選曲は和田たちが言うように悪くない。あの双子は、いいギャルゲーソングをチョイスしたものだ。特に! 芹沢さんが選んだものは」
「やはり……金本先輩もそう思いましたか」
金本は芹沢さんが選んだ曲を特に満足そうな顔で、ほめちぎる。僕も、金本と同意見だった。
「たしか、芹沢さんってギャルゲーをまだよく知らないんだよね?」
「ええ。最近になって、自宅でいくつかのゲームをしているそうです」
「ということは、まだ初心者か……にも関わらず、よくもまあこの曲を好きになったなあ」
和田はそう話すと、少しおどろくような顔をしている。
僕もまさか、芹沢さんがああいったボーカルの歌を好むとは思わなかった。
「いや。芹沢さんはえらい! さくりんは最高だ。あのかわいい声に甘い歌詞を歌う彼女はまさにギャルゲー界隈のアイドルだ!」
「……まあ、かわいらしい感じの歌手ですよね。顔は見たことないけど」
そう。芹沢さんが選んだ曲は、そのさくりんと呼ばれるギャルゲーソングを中心に歌う歌手のものだった。
それだけならいいのだが、その曲がまさにオタクが好む印象を表すといっても過言ではない。
聴けば、こいつはオタクだなと思われること間違いないと思う。
「芹沢さんのイメージとはかけ離れすぎて、なんかおどろきましたよ」
「けど、曲はどれもいい! ギャルゲーをたしなむものならば、避けては通れない歌手であるし」
瑠偉たちが選んだバンド調ではなく、これまたエレクトロサウンドだ。
しかし、芹沢さんの選んだ曲を聴いた時、僕は胸が踊った。これぞ、ギャルゲーソングと言うような曲をバンドで弾いてみたいと思わせるくらいに。
「たしか……こんな感じの入りじゃなかったけ?」
そういうと、荒木がベースを取り出して弾き始める。
「え? 荒木先輩。ベースを持ってきてたんですか?」
「まあね。学校じゃあ勉強ばかりだったし、息抜きで放課後に弾いてたからな」
――ボンボン! ボボーン!
荒木は話しながら、器用にベースを奏でる。しかも、それは芹沢さんが選んださくりんの曲。
「すっ、すごい……相変わらず、すぐに弾けちゃうんですね」
「はっはっは! これでも、ギャルゲーソングしか弾かないベーシストだからね。聴いたことのある曲はほぼ弾けるし」
即興であるのに、ベースの音はきちんと曲のものになっていた。
――ポンポン! ポポン。
そこに岡山が木魚をリズミカルに叩いて、ベース音に合わせてきた。
「ぼっ、僕も同じだよ。やっぱり、楽器を叩かないと落ち着かなくて」
「岡山先輩は木魚を持ち歩いてるんですね……」
そう呆れるけれど、木魚を叩くリズムは正確でタイミングはばっちりだ。
「そうくるならば、僕も弾こう」
和田もケースから、ギターを取り出すと生音で弾き出した。ギターの音が入った途端、一気に曲が表現されていく。
「きえええええ! きさまら、なにを勝手に曲を弾いてるんだ。これは岩崎君たちが弾く曲だろう!」
「いや、金本。おまえ……すでにギターを手に持って合わせてきてるじゃねーかよ」
「はっ……いつのまに」
わざとらしい言い方で金本は気づかぬうちに曲の演奏に混ざっている。
――すげえ。金本先輩のギターが入ったら、曲になっているじゃん。
金本たちが弾く姿を見た僕は、そう圧倒される。
目の前には、去年にみんなで弾いていた頃を思い出させる光景が広がっていた。受験勉強という忙しい日々を過ごしているのに、その音はまったく変わらない。
あの頃のままだ。
僕は少し感動するように、金本たちの弾く姿を見続ける。
「岩崎君。この曲の歌はもう歌える?」
「……え?」
和田はギターを弾きながら、僕にそう尋ねた。
曲の歌はすべてではないが、覚えている。けれど、きちんと歌えれるかは自信がない。
「まあ、お遊びみたいなものだからね。鼻歌程度でいいから歌ってみなよ」
「いやあ、けど……」
渋る僕に、金本が奇声を上げる。
「きえええええい! いいから、歌えばよいのだ。さあ、参加したまえ」
そう言われ、歌わなければならない雰囲気。僕は、仕方なく歌いことにした。
「後で、文句とか言わないでくださいよね!」
――このメンバーでやるのも久しぶりだ。
僕らはあの頃を思い出すように、金本たちと一緒にギャルゲーソングを弾き、歌う。それは、とても楽しい時間だ。
「だっきしめてほしいほおおおおおお!」
「「キッス! ミー! キッス、ミー!」」
僕は原曲キーのリードボーカルをやるも、音程が外れてひどいものだ。そこに、金本たちの下手なコーラスも入る。
けれど、それでも僕らは笑いながら演奏を続ける。
――先輩たちとやるのは、やっぱり最高だ。
そう思いながら、純粋にギャルゲーソングを楽しむのだった。




