第四十話「そのギャルゲーソング……採用だ!」
バンドで弾くギャルゲーソングを増やすため、この日は話し合いをメインに活動することになる。
もちろん、テーマはどんなギャルゲーの曲を演奏するかである。
「やりたいって思うと、結構たくさん浮かびますね」
「まあ……そうだけどさ。それにしてもだぞ?」
部室の机には、大量の音源が入っているディスクが置かれていた。ギャルゲーを好きな連中って、必ずって言うほどサントラを買いまくるものだと僕は考えてしまう。
金本たちと曲を決める時も、こんな感じだとデジャヴを感じた。
「ほとんど俺たちが好きな作品の物しかありませんけど。そこそこ、良い曲揃いなんですよ」
「そうですよ! これなんか見てください。今では入手が困難なオリジナルサウンドトラックなんです!」
瑠偉と瑠奈はそうテンションを上げながら、俺に熱弁してくる。
ギャルゲーは好きであるのは僕も同じだが、ここまでたくさんのCDを買うまでには至っていない。けれど、いくつかは見覚えのあるギャルゲーのジャケットを見つける。
「これなんかいいんじゃないか? 戦国スピアの戦闘BGMに使われている曲」
僕が指を指したのは、昔から存在するギャルゲーブランドの代表作であるゲームのサントラ。
ギャルゲーでありながら、RPG風のジャンルで音楽にも定評があるタイトルだ。
「あー。たしかに! けど、それってボーカルなしですよ? バンドで弾くにも難易度が高い曲ですし……岩崎先輩、そのギターを弾けますか?」
そう瑠偉に言われて、僕はその曲で弾いているギターのフレーズを思い浮かべた。
「……あれは無理だな。高難易度のソロがあるし、あんな流れるような速さで弾けないよ」
「でしょう? 俺だって、あのベースは嫌ですよ」
はあっとお互いにため息をついた僕らは、その曲を候補から外すことになった。
けれども、みんなは弾きたい曲が頭の中であるのか、いくつか候補を上げる。そこで、曲をざっくりと聴くことになった。
瑠偉と瑠奈は、十数年前に発売されたギャルゲーの主題歌や、エンディング曲をチョイスする。
「わー! 懐かしいねー。これって、G線上の覇王のやつじゃん! 泣いたなあー」
「さすが、馬場先輩! わかってますね! 絵もシナリオも良し。そして、曲がさらにゲームを引き立たせて、最高な作品ですよ」
瑠奈と響子がそうゲームを懐かしみながら、盛り上がっている。
――なにを大げさな。
まだそのゲームをしたことがない僕には、二人がそこまで感動する曲とは思っていなかったが、スマホから流れる曲を聴いてすぐに考えが変わる。
「すげえ……良い曲じゃないか。うっ、うう」
あまりにも、感動的は歌詞とメロディ。それに合うような曲のオケに、僕は思わず涙する。
一瞬にして涙腺を崩壊させる、まさしく神曲だと思った。
「どうです? この曲を弾いて、聴く人を感動させるって形は」
「まあ……それもありだな。よし! 第一候補だ」
瑠奈にそう言われた僕は、この曲を候補の一つに考える。続いて、瑠偉の弾きたいであろう曲が流れ始めた。
イントロからやたらギターのテクニカルなリフが入り、次いでベースのスラップ音が目立ち始める。
「へえ。これも僕が知らない曲だな! やけに、ギャルゲーらしくない感じの曲調だなあ」
「この曲が使われているギャルゲーは、そこまで有名なメーカーでもないし知名度もあまりない、マイナーなんですよ」
「そうなのか? けど、曲はかっこいいな」
「でしょう? そこがギャルゲーの良さなんですよ! マイナーな作品でも、使われている楽曲が大当たりなパターンもありますし」
瑠偉の言うように、作品内容より曲が良かったって話は金本先輩たちがよくしていた。この曲も、聴けば聴くほど好きになっていく。
僕はこの曲もやってみたいという思いを感じる。なにより、知名度のないギャルゲーで使われているならば、それを知る人はさらにいない。
そうならば、僕らで演奏をやって、この曲が良いものだと知らしめたいとも思えてくる。
この曲もバンドでやる候補に決めた。
「結局、後輩の二人が弾きたい曲をやる感じで落ち着きそうねー」
「ああ。ギャルゲーが好きな二人だし、選曲のセンスがいいな」
「まあ、あたしはどちらも知ってるから歌えるけどー。キョウちゃんたちの楽器を弾く人が大変そうだねー」
「少なくとも、バンド調の楽曲だからアレンジせずに純粋にカバーなら覚えればバンドで出来そうだけどな」
響子に僕はそう答えて、紙に書いた候補の曲名を見つめる。
このまま二曲を採用すれば、バンドの幅も広がるだろう。欲を言えば、もう一曲はほしいところ。
「そうだ! どうせなら、芹沢さんが気に入ったギャルゲーソングも候補に取り入れようか」
「わっ、わたしの?」
話の途中、僕はそう思いつくと芹沢さんに提案する。
新入会員の瑠偉たちが選ぶ曲を候補に上げるならば、同じく新しく入ってくれた芹沢さんの選んだ曲も入れるのも悪くない。
ギャルゲー初心者の彼女が気に入った曲なら、一般人にも受け入れられそうな気がした。
「どうかな? なにか気になったとか、これが好き! みたいなギャルゲーソングがあったりする?」
「……えっと」
いきなりこんなことを言われたら困らせてしまうかもしれないが、芹沢さんにもギャルゲーソングを選んでもらいたい。
しばらく考え込む芹沢さんは、ポケットからスマホを取り出す。
「へー! もしかして、芹ちゃんってばスマホにギャルゲーソングを入れたのかなー?」
「うっ、うん。実はそうで……」
「響子! 茶化すんじゃないよ! 芹沢さんが困ってるだろう」
「ちっ……! えこひいきー」
――いらああああああああ。
響子の言葉にイラつきながらも、芹沢さんがギャルゲーソングを聴いてくれていたことにうれしい気持ちになった。
いったい、どんな曲を聴いているのだろう。もしかしたら、それが芹沢さんが弾いてみたい曲なのかもと期待が膨らむ。
「最近になって、自分でもネットで調べてギャルゲーソングを探していたんだけど、その中でお気に入りの曲があったの」
「そうなんだ! よし、その曲は即座に採用だ!」
「キョウちゃん……ってば」
冗談で言ったつもりが、響子からなぜか冷たい視線を送られてしまう。芹沢さんはくすっと笑った後、その曲を流そうとする。
「どんな曲だろー?」
曲がどうなものかワクワクしながら、僕らは待つ。
そして、芹沢さんが再生ボタンを押すと、曲が流れ始める。その音を最初に聴いたこの場にいる全員に衝撃が走った。
それは、僕が初めて金本たちが弾くギャルゲーソングを聴いた時と同じように。




