第三十八話「あの体育館ライブで起きた伝説をもう一度?!」
山本先生が体育館の出入口にいる生徒を、中に入るように言っている姿をステージから眺める。
僕らは楽器を構え、これから覚えたギャルゲーソングをみんなで初めて合わせる。
いつでも、弾ける状態だ。
「ふう……よし、やるか!」
僕はそうさけぶと、足元にあるエフェクターのスイッチをカチっと踏む。そして、ギターの弦をピックではじく。
――ジャカァァン! ギュワワァァン!
ギターからクランチの軽く歪んだ音が鳴り始めた。僕と芹沢さんが編み出した、ギャルゲーソングのアレンジ。そのイントロ。
僕の弾く音に重ねるように、芹沢さんのセカンドギターのパートが入ってきた。
上手い具合に音が合わさり、互いのギターが協調される。芹沢さんのギターから鳴る音が、きちんと弾けている証拠である。
そこに、瑠奈のドラムが大きな音を出して合流してきた。
――ドンッ! カッ! ドンドン!
そのドラムは乱れることがなく、良いリズムを刻む。きちんと僕らが弾く音にタイミングよく重ねてくれていた。
――ボボーン! ボッボッボーン!
ベースから鳴る重低音が横から聴こえてきた。
瑠偉は下を向いてはいるが、器用にベースの弦を指ではじき奏でる。
ギターとベースが一緒に鳴る時、曲のノリがさらに際立つ。低い音が僕らのギターを支え、うまいこと曲を進行してくれる。
瑠偉はきちんとそれができており、グルーブ感を出していた。
二人の音は前よりもはるかに良い。全員で弾く音に違和感を一切覚えない。
評するに、初めてこの曲を合わせたがほぼ完成されていると僕は思った。
その証拠に、体育館に流れる空気がガラリと変わる。興味本位で聴きに来た生徒が、僕らの演奏に聴き入っていた。
まだイントロの部分を弾いているのに関わらず、生徒たちを惹きつけているのだ。
――いいじゃないか。これだよ、これ。
ギターを弾く僕は、確かな感触をつかむ。僕らはきちんとバンドの音を出しているのだから。
イントロもそろそろ終わり、ボーカルが入る。
響子は楽器の音を耳で集中して聴いており、歌う時を待っている。僕も自分のコーラスやハモりパートに集中する。
そして、Aメロに変わる瞬間、響子はすうっと息を吸い吐いた後に歌い出す。
原曲のボーカルを意識した歌い方で、音程が外れることなく歌声をマイクに乗せる。
――よし! さすが響子だ。安定のボーカルを聴かせてくれるじゃないか。
何度も彼女の歌声を聴いてきた僕は、その声に安心する。あんなやつでも、きちんと曲の歌を練習していたのがわかるくらいに。
僕らがアレンジしたギャルゲーソングが、ここに誕生した。
今のところ全員がミスすることなく、曲を演奏できていることに僕は安堵する。
だが、ここからが本番。
僕はマイクに近づき、響子が歌うリードボーカルに合わせて歌わなければならない。
金本が言うように原作のギャルゲーがどういうものか考え、この曲とゲームをリンクする意味を歌に乗せる。
それを聴く人に届けるように僕は歌声を出す。
響子の歌う声に、僕は上手い具合にハモっていく。そして、僕の声が次第に中心となる構成にバンドの音が変わった。
――いい感じだ。練習だからと思って歌っているけど、本番さながらの雰囲気になっているじゃないか。
ここまでは弾く音。それにボーカルの声。どれをとっても、悪くない出来だ。もしかしたら、このまま最後まで弾き終えることができるかもしれない。
僕はそう思いながら、響子に目線を向ける。
――どう思う? このままの演奏でいけそうか?
そんな言葉を投げかけるアイコンタクトをすると、響子は歌いながらうなずく。それを受け取った僕はにやりと笑いながら視線を正面に戻す。
すると、目の前にいる生徒の数が少しずつ増えていることに気がついた。まだ演奏を始めたばかりなのに、体育館に生徒が見つけては入ってくる。
「へえ、珍しくバンドがライブをやってんじゃん」
「軽音楽部? って、あれってたしかオタク連中がやってた同好会じゃん」
そんな声が聴こえる中、僕らは構わず演奏を続ける。どう思われようとも、僕らの弾く手は止まらない。
練習をしているとはいえ、ギャルゲーソングを知ってもらうには丁度いい。
サビへと進行して、曲が盛り上がるフレーズに入る。この曲はサビの部分がもっとも印象に残る。
この曲が良いものだと感じさせるポイントになっている。
――よし、このまま一気に盛り上げるぞ。
そう思い、僕はギターのフレーズを走らせていった。それについてくるように、みんなも懸命に演奏する。
だが、ここで痛恨のミスが起きた。
ギターを弾きながら歌う僕は、思わず体を大きく動かしてギターのボディがマイクスタンドにぶつかってしまった。
マイクからはボディが当たった鈍い音が、ノイズになって大きな音がアンプから出てしまう。
その音に体育館にいる全員がおどろく。
ステージで弾いているみんなは特に近い距離で音が聴こえるため体がビクッとするだろう。
芹沢さんの手元が狂い、ギターのフレーズが乱れる。そこに上手く合わせられない瑠偉と瑠奈のリズムが一気に崩れた。
曲はメチャクチャな感じになってしまい、響子のボーカルがつっかえてしまう始末。
「ごっ……ごめぇん」
僕は小さくそう謝るが、その声がマイクが拾って情けない声が体育館に響く。
「わははははは!」
体育館から、大声で笑う声が続く。
完全に演奏が止まってしまい、曲が途中で終わってしまった。
「おーい! もう曲は終わりかあ? もっと上手くやれよー」
そんなヤジが飛ぶ中、僕はマイクに向かって話す。
「えー。みんなには悪いんだけど、これは練習で演奏しているのであって……本番のライブだともっと完璧なライブになるんだけどぉ」
僕がそう体育館にいる生徒にそう話すと、さらに笑い声が聞こえてきた。
これ以上演奏をしないと思ったのか、曲を聴いていた生徒たちがさあっと去っていく。残ったのは、僕らだけになってしまった。
「わっ、悪かったなみんな。けど、初めてみんなで合わせた感じでは良かったと思うぞ! 練習とはいえ、体育館に生徒が集まってきたくらいだし……」
僕がそう開き直るように、みんなに声をかける。
微妙な終わり方になってしまったが、このまま演習を積めばライブで観客を湧かせることができるだろう。
結果オーライだと楽観的に思っているが、僕の声にみんなは反応しない。
むしろ、にらみつけるような視線を肌で感じる。
「この……くずめ」
「先輩……フォローできないっす」
「あーあ。台無しー」
響子や瑠奈たちは、そう僕に冷たい言葉を投げかける。
――みんなの声が、怖すぎる。
僕は苦笑いを浮かべて、芹沢さんのほうを向く。きっと彼女は、僕が失敗しても笑顔で許してくれるはず。
そんな期待を抱きながら、芹沢さんの顔を見る。
――にこり。
僕が顔を見ると、芹沢さんは口角を上げていた。目は決して笑ってはいないけれど。
恐怖の笑顔に、僕の顔は青ざめてしまう。




