第三十七話「静かな体育館で鳴らす音はきんもちいいいいい」
誰もいない体育館のステージに上がっている僕らは、アンプなどを設置する。
「けど、生徒会に一声もかけずに使っていいんですかね? いくら山本先生が許可しても不安ですよ」
「まあ……なあ。けど、このステージなら広いしバンドの練習にはもってこいであるけどな」
不安に思っている瑠偉に僕はそう答えながら、ギターのアンプを置いてセッティングする。全員が設置を終えると、僕はみんなに集まるように声をかけた。
「みんなで曲を合わせて弾くんだけれど、間違ってもいいからそのまま通してやろう」
「え? もし途中で演奏がおかしくなっても、止めずにですか?」
「ああ。とりあえず今は全員で弾く音を確かめたいし、リラックスして弾いてくれ」
完璧な演奏を一発でやろうとは思っていない。みんなで弾いて、どういう感じになるかを確認できればいい。
僕はそうみんなに話すと、全員がうなずく。
それぞれ個人練習をしているだろうし、曲は覚えてきているだろう。
「おーい! 先生はここで見届けているからなー。気にせず弾いてみろ」
山本先生が広い体育館の床に座りながら、こちらに向かってさけぶ。
僕らと先生しかいない体育館は異様に静けさがある。
「けど、体育館で弾くのって久しぶりだね」
「そうだねー! ゲリラライブ以来だよねー」
「あの時はむなしい結果だったからな……でも聴く人は山本先生だけだし、そこまで緊張しなくてもいいさ」
無観客の中で演奏するのは今回が初めてだ。それに、瑠奈たちがステージに上がってやるのもこれが最初になる。
「俺たちは大丈夫ですよ? それにステージ慣れもしないと、この先ずっと変に緊張してまともに弾けなくなりますから」
「だね! こんな広くて誰もいない体育館でドラムを叩けるのって、ストレス発散になるかもだし」
瑠奈たちの言葉に、僕は特に心配することもないなと思った。
「よし、ならさっそく弾いてみようか。まずは、慣らす意味でこの前やったアニソンからやろう」
「りょーかい! それじゃあ、みんな定位置に移動してー!」
僕と響子が言うと、みんなはそれぞれ自分の弾く位置に向かう。
マイクスタンドを立てた所に行った僕は、ギターのストラップを肩にかける。他のみんなも同じように弾く準備ができたのを見届け、ギターのボリュームを上げた。
――ふう。まずは、軽くウォーミングアップだ。
すでに頭に入っているアニソンを思い出し、ピックを握る。
「よーし、みんなオーケーかな? いくぞー、せーの」
マイクに向かって声を上げると、僕はギターの弦を思いっ切りはじいた。
――ギュワワァァァン!
ギターアンプから大きい音が鳴り、体育館に響き出していく。
全員は慣れたように楽器を弾き、きちんと曲を奏でられていた。僕はそんなみんなのオケに合わせてマイクに向かってメロディを歌う。
新しいバンドとしてはまだまだ駆け出しだけれど、僕はバンドの演奏が楽しいものだと感じた。
広い空間の中で聴かせる人がいなく、練習と割り切っているものの僕らはリラックスして曲を弾いていった。
「いやあ! やっぱり、のびのびとやると気持ちがいいねー! 心なしか前より上手く弾けたんじゃないー?」
「ですね! 人の目を気にせずドラムを叩けるって気持ちいいです」
曲を最後まで弾き終えた後、響子と瑠奈がテンションを上げながら会話をしている。
「芹沢先輩も、ギターの音に自信が出たんじゃないですか? 弾く音がすごい奇麗に聴こえましたよ」
「ありがとう。最初は指がぎこちなかったんだけど、弾き進めてたらなんか気分が良くなって」
同じように瑠偉が芹沢さんが弾いたギターを褒めながら話しかけていた。
僕はそんなみんなの会話を聞きながら、一人考える。
――たしかに、芹沢さんはものすごく上手くなっている。ギターの音色が非常に良い。
楽器未経験でありながら、ここまで短期間で弾けるようになった芹沢さん。その適応力の高さを僕はおどろく。もちろん彼女だけではない。瑠偉や瑠奈の演奏も格段に上達している。
体育館のステージでみんなと弾いてみて、それがよりはっきりとした。
「やっぱり、こういうステージの上でやるのが一番みんなの意識を高めるにもってこいだな」
確かなバンドの成長を感じていると、床に座って聴いていた山本先生が僕に向かって手を振る。
――ん? なんだ、なんで先生は黙って手を振りながら指を出入口に向かって指さすんだ?
先生に気がついた僕が不思議そうにして目線を出入口に向けると、人の姿が見えた。演奏していたのが気になったのか、下校途中の生徒たちが顔を覗かせている。
興味があるのか冷やかしなのかわからないが、突然の来訪者に僕はおどろいた。
「どしたん、キョウちゃん……って、いつの間にか誰かがいるー!」
響子も気がついて、思いっ切り大声でさけんだ。
「ええ……もしかして聴いてたんですかね、俺たちの演奏」
「まったく気づかなかったよ。なんか、恥ずかしいぃ」
瑠偉と瑠奈は先ほどとは違い、急に大人しくなる。
だがこの状況は、もしかしてチャンスになるかもしれない。生徒が集まってきたなら、僕らの演奏を聴きにきたと等しい。
この後、練習するのは新曲。しかも、初めてみんなと合わせて弾くことになる。
人前で弾くことに慣れる機会だし、疑似的なライブを体験させることが瑠奈たちにできるだろう。
「よし! みんな、このまま新曲をやるぞ。さあ、弾く準備をし直そう」
「ええ? このままですか? 新曲はみんなで弾くのが初めてなのに」
「さっきも言ったが、失敗してもいい! 出入口で隠れている生徒を中に引きずり込んで、僕らの演奏を観てもらおう」
「ええ……」
僕に言われて動揺する瑠偉たちを、無理やり準備せる。ちらちらと見ている生徒たちに今から僕らの演奏を見せるのだ。
「さあ! いくぞ」
僕はそう声を上げて、ギターを構えた。結果はどうなるかはわからない。それでも、僕らは新曲を弾く。
僕の中で、久しぶりの高揚感が湧き始めていた。




