第三十三話「ライブを見に行こう!バンドの名は……」
各自、作られた楽譜をもとにパート練習が始まる。最初は個人で練習をし、時には一緒になって音を合わせたりしていく。
「岩崎先輩。ここのリズムってこんな感じでいいですか?」
「ああ、そこはギターに合わせつつ強弱をつけて弾けばいいかな」
瑠偉からベースラインの動きについて尋ねられた僕は、ギターを弾きながら答える。それを聞いた瑠偉はなるほどとうなずきながらベースを弾き直す。
「先輩、先輩! ドラムのテンポって原曲と同じで叩くの?」
「キョウちゃん! ボーカルについてなんだけどさ、あれがこれで……」
みんなやる気が出ているのか、なにかあるとやたら僕に質問をしてくる。それだけ曲に熱心なのはいいのだが、これでは僕の練習時間が削られる。
――まあ、いいか。今はみんなと練習を共有して、少しでもいい出来にしなければ。
僕は慌ただしくみんなの話を聞き、練習の日々を送る。そんな中、ひとつ転機が訪れる。
始まりは、芹沢さんの一言からだ。
「もし曲を完成させたら、ライブをまたやるのかな?」
「うっ、うーん。ライブかあ」
いつものように練習していると、芹沢さんが次のライブについて話し始めた。正直、今の時期にライブをやる予定はどこにもない。
僕も先を見据えてライブハウスのイベントや、町の行事をネットで調べてみたがどこも未定だった。自分たちでライブをやろうにも、場所やお金の問題があってなかなか計画できずにいる。
「けど、ライブか……また前の時みたいな空気になるのかなあ」
「雑に扱われたからねー! まあ、運だよねイベント参加ってさー」
以前にやったライブを思い出して不安がる瑠奈に響子がそう答える。あれはたしかに、運が悪かった。バンドにとっては屈辱的に思うほどに。
「もし次にライブをやるとしたら、誰もが認めざるおえないパフォーマンスをやればいいだけさ。そのために、僕らはこの曲を練習しているだろう?」
「次のライブができればの話ですよね……」
僕がそう声をかけるも、瑠偉たちライブ経験が少ない組からしたら次のライブはハードルが高く思っているのだろう。ライブをすることがトラウマに感じているのかもしれない。
――このままだと、バンドとしてまずいな。なんとかライブをやることに意欲が沸くといいのだけれど。
そう思いながらどうするか考えていると、ポケットに入れていたスマホが振動する。
「ん? メッセージか。誰からだろう」
僕はギターをスタンドに立てかけ、ポケットからスマホを取り出してメッセージに確認する。
そして、その送り主の名前を見るとおどろいた。
「どうしたの、岩崎君?」
「メール? 誰からー?」
スマホの画面を見ながらおどろいている僕に、芹沢さんと響子がそう尋ねた。
文面をしばらく見た後、僕はみんなに向かって口を開く。
「みんな、いい機会だ。ライブを見に行こう」
「え? ライブを見る……?」
いきなりの提案に、みんなは目を点にしてそう答えた。だが、これはもしかするとチャンスかもしれないと思った。
そう。メッセージを送ってきたのは、かつて同じイベントでライブをやったあの熱いロック野郎たち。
「ああ、あいつらがライブをやるんだとさ」
そのバンドの名は、ロッケンローラースターズ。
それは、僕が知る高校生バンドの中でおそらく一番の実力派。あの仙道晴樹が率いるバンドだった。
――数週間後。
僕らは、とあるライブハウスに向かうため駅に集まる。
「よし。全員が集まったし、さっそく向かおう」
「岩崎君。わたし、ライブハウスは初めてだけど……高校生が行ってもいいのかな?」
「そこは安心して、芹沢さん。時間的にも学生が入れるし、なんら問題はないよ」
「うん……。けど、ライブハウスでライブを見れるなんてドキドキするな」
芹沢さんは緊張しながらそう話す。よほどバンドやらが好きじゃないと、ライブハウスに行こうとは思わないだろう。それは瑠偉たちも同じで、どこかソワソワしていた。
「しかし珍しいよねー! あの人たちがこんな時期にライブをやるなんてー」
「まあな。イベントの告知とかないし、まさかこの時期にライブをやるとは思わなかったよ」
他のバンドがライブをやらない中、当然送られてきたライブを見に来いというメッセージ。あいつらしいといえばそうだが、僕に連絡が来るとは。
「あの、これから見に行くバンドって先輩たちの知り合いなんですか?」
ライブハウスに向かって歩いていると、瑠奈がそう尋ねてくる。
「ああ。僕らが一年生の時に出会って、そこそこ大きな会場で一緒にライブをやったんだよ」
「まさしく、ギャルゲーソングバンド対王道ロックバンドの戦い! みたいなー?」
「なっ、なんかすごい対決ですね……」
僕らの話しに瑠奈たちはおどろくが、それは事実でもある。
それでも、あいつらはバンドとしてさらに活動していき今では単独ライブをやるほどまで成長している。その証拠に、今日のライブはあいつらだけ。
つまり、ワンマンライブなのだ。
「楽しみであるけど、なんか複雑だな」
「自分のバンドより、有名になっていったことがー?」
僕がぽつりとつぶやいたら、響子がそう口にする。たしかにその通りで、僕は少し焦燥感を覚えた。
「あっ、着きましたよ? ここですよね、ライブハウス」
「ああ。さっそく中に入ろうか」
しばらくして目的地であるライブハウスに着く。そして、僕らはライブハウスの中へ入っいていった。
今は芹沢さんや瑠奈たちにライブを見てもらって、いい刺激になってもらうことが今回の目的でもある。頭の中である不安や焦りをひとまず考えないようにした。
受付を済ませドリンクチケットをもらった後、さっそくライブをやるブースに行く。
目の前には、かつて僕らもやったライブハウスの姿があった。その独特な雰囲気を、観客として肌で感じる。
「すごいですね。お客さんがたくさんいるじゃないですか!」
「本当! 人気があるバンドなのかな?」
すでに多くの観客が中で待機している。その数に、僕は圧倒した。まさかここまで観客を集められるバンドになっていたとは。
ガヤガヤとし始める会場。ここにいる人たちは、仙道たちのバンドだけを見に来たのだ。
すると会場の照明が暗くなり、ステージにライトが集まる。
「いよいよ、ライブが始まるのか」
いったいどんなライブをやるのか、僕は段々気になっていった。
そして、ステージにバンドが姿を現す。ついに、かつてのライバルバンドのライブが始まろうとしていた。




