第二十九話「音から記号へ!ギャルゲーソングの譜面を作り出す!」
満員一致でやりたい曲になったギャルゲーソング。
さっそく練習を始めるのだが、まずはどうアレンジをするかで意見が割れる。
「やはり原曲のイメージを崩さないために、電子系の音源は入れるべきです!」
「いや! せっかく生バンドでやるんだから、バンドらしい編成で挑むべき」
瑠奈と琉偉が互いに意見を述べている。しかし、この二人が火花を散らすとは思っていなかった。
「……双子なのにこうまで考えが違うことあるだな」
「ギャルゲーをリスペクトする思いは金ちゃんたちと似ているけどねー。こだわりがつよ」
二人のやりとりを見ながら、響子は笑いながら話す。
僕はそんな響子の声に耳を傾けずに、机に置かれた空白の譜面を見つめる。
ギャルゲーソングには楽譜というものがないに等しい。お店に売ってあるようなバンドスコアは、自分たちで作らなければならない。
ギターやベース。ドラムやボーカルのパートを耳で曲を聴き、譜面を書いていく必要がある。
「……僕に金本先輩のような、スキルはない」
以前はすべて金本が譜面を作り、それを見てギターを覚えていた。
今思えば、金本がやっていたことがどれだけすごいかわかる。曲を聴きながら、各パートの音を完璧に譜面に書けるのだから。
「簡単なコードなら僕でもできそうだけど、今回のはエレクトロ系だからなあ」
「岩崎君。この電子ピアノみたいな音もギターに変えるの?」
「う……ん。これをギターにしないと、曲らしくならないからね」
曲を聴いている芹沢さんに、僕はそう答えた。
ーーエレクトロ系からロック調にアレンジ。
とりあえず方向性はみんなで決めてそうすることになったけれど、とにかく難しい。
そして、瑠奈たちが揉めているようにバンドっぽいだけのアレンジにするか。原曲にあるようなオプション的な音を新しく加えるか。
そこも考えて譜面を作らなければならない。
「だから! ギターとベース。ドラムで曲を弾いたほうがかっこいいしだろ!」
「琉偉は間違ってる! 原曲の音を再現しつつ、生演奏でやる! そのほうが、この曲だってわかりやすいでしょうが」
まだ揉めている二人に僕は呆れる。これでは、先に進めない。
「はあ……どうしようかなあ」
机にひじをつけて頭を抱える僕。すると、響子が口を開いた。
「ねー。そんなに難しいなら、金ちゃんに相談してみたらー?」
「またかあ? あの人に頼ってばかりだと、それはそれでどうだろうってなるし」
同好会を引退している金本たち。これまで何度か助けてもらっている。
しかしそれではいつまでも甘えっぱなしになるから、それは良くない。
金本たちがいなくなっても、きちんと同好会を引き継いでいかなければならないと僕は思った。
「ここは僕が中心になってやってみせる! 金本先輩には頼らずに!」
僕は高らかにそう宣言すると、軽い拍手が鳴る。
「すごい、岩崎君! 一人で挑戦するなんて立派だよ」
「……え?」
「さすがバンドのリーダー! キョウちゃんなら、必ず成し遂げれるねー。一人で」
「……え?」
芹沢さんや響子がそう話すと、パソコンに向かいギャルゲーを立ち上げる。
「じゃあ、あたしたちはギャルゲーをプレイしているからー」
話終わった後、二人はパソコンにかじりつくようにギャルゲーをし始めてた。
「……もしかして、僕一人で楽譜制作しなきゃなのか?」
そうつぶやくも、部室にいる人からは返事がない。つまるところ、僕がやることになった。
ーー作業一日目。
「とりあえず、自分が弾くギターパートから考えながら書いていこう」
自宅の部屋で、僕はペンを持ち譜面へと向かう。
曲のオケはすべて電子系のサウンド。シンセサイザーやら、電子ピアノの音で構成されている。
「ここのピアノパートはギターで再現しよう。ということは、最初はこの音か……」
耳にはワイヤレスイヤホンを付け、曲を聴きながらギターで耳コピしていく。
譜面にアルファベットやタブ譜の数字を書き進めながらやっていった。
ーーもしかして、意外にできるかも。
僕はペンで書きながら、そう思った。
難しいと思っていたけれど、ギターで音を当てれば案外やれる。時間はかかるが、このやり方ならば楽譜を作ることができるかもしれない。
僕はちょろいと感じつつ、余裕を見せながらペンを走らせていった。
ーー作業三日目。
気がつけばギター、ベースと譜面が完成していた。
「いやあ! 僕にも金本先輩みたいな、ギャルゲーソングを再現できる才能が現れちゃったなあ」
僕は高笑いをしながら、この日も自宅で続きをする。譜面にはいかにもバンドスコアらしい記号やらが書いてあった。
この調子でいけば、一週間もかからないだろう。
「さてさて! では、次はドラムですかね」
ふんふんと上機嫌に僕はまたイヤホンで曲のドラムを聴く。
ーーズン! タンッ! ズッズッダン!
耳からは電子ドラムの音が、リズムよく鳴っていた。
正直、ドラムの譜面がどういうものかわからない。ギターとは違い、どんな風に書いたらいいのだろうか。
悩む僕はスマホを取り出して、ドラムの譜面と検索した。たくさんある記事から、それらしいものを見つけるとメモを取る。
「まあよくわからないけど、これを見ながら書けばいいか」
書いた譜面が正しいと断言できないが、構わず進めていった。
それから数日が過ぎ、ついにギャルゲーソングの楽譜が完成。
我ながら上手くできたと自信を持ち、みんなに見せようと部室に向かう。
「みんな、ついに楽譜が出来上がったぞ! これで曲を弾けるようになる」
すでに部室にはみんなが集まっていて、僕はそう話す。
「出来たんですね、先輩。それで、原曲通りのシンセサイザーも加えてありますか?」
「うっ、すまない瑠奈。とりあえず、各楽器のパートのみだ」
「えー! それだと曲が薄っぺらくなりますよ」
「さすがバンドをよくわかってますね、岩崎先輩!」
瑠奈は僕の返事を聞くと、落胆したような顔をする。それとは違い、琉偉は満足げに話す。
「まあー、とりあえず楽譜を見て弾けるようになったら違う音を入れるか決めればいいじゃないー?」
「うん。瑠奈ちゃんもとりあえずは岩崎君が考えたアレンジでやってみよう?」
芹沢さんは落胆する瑠奈にそうフォローしつつ、声をかけた。渋々うなずく瑠奈。
「それじゃあ各パートの譜面を渡すけど、間違ってたら僕に言ってくれ」
僕が話終わると、みんなにそれぞれ譜面を渡す。
「へえ、きちんとタブ譜が書かれてますね。なるほどなるほど」
琉偉が譜面を見て、そうつぶやいている。みんなも、期待するような目で譜面を見つける。
ーーガラガラ。
「やあ、岩崎君! 聞いたぞい? 君がギャルゲーソングの楽譜を一人で作り上げたそうじゃないか」
「金本先輩……はい。って、なんでそれを知っているんですか!」
「ふははは! 僕にかかれば、同好会の情報などすぐに知ることができるのだよ」
「あっ、ごめんーキョウちゃん。あたしが金ちゃんに教えたのー」
「こらあああ! 馬場さん、ネタバレをするんじゃない」
金本は響子に叫んで、口を閉ざそうと迫る。
響子から教えてもらったとはいえ、わざわざ部室にまで顔を出す金本にため息をつく。
「まさか君がこの領域にまで踏み込んでくるとは……ギャルゲーソングを極めてきたようだな」
「いや、僕はただバンドで曲をやりたい一心で」
そう金本に話そうとすると、金本は無言で手を差し出す。
「……は?」
「見ればわかるだろう? この僕に君の楽譜を見せてくれたまえ」
「なぜです?」
「岩崎君の作った楽譜が、きちんとギャルゲーを理解して作ったかチェックしたいからだよ。さあ、見せたまえ」
ひょいひょいと指をうごかし、楽譜を渡すように促す。
まあ、ギターに関しては譜面は自信がある。それが完璧か金本に見てもらうのも悪くない。
僕は手に持った譜面を金本へ渡す。
「ふむふむ……どれどれ」
金本は僕が書いた譜面を、じっと無言で読み進める。
ーー金本先輩よ、僕だって日々進化している。バンドマンとして、ギャルゲーを嗜む一人として。
どう言われるか待っていると、金本の顔がじわじわと変わり始めた。首を変な方向に曲げるや、瑠奈たちが持つ譜面を奪って読む。
すべての譜面を見終わった後、金本は奇声を上げた。
「なんじゃ、こりゃあああああ!」
あまりにも大きい声に、みんなが驚いた顔をする。
奇声を上げ終わり、金本は僕に迫り来る。
「……どうしたんです? 金本先輩」
僕は恐る恐る尋ねると、金本は譜面を怒りに任せて破った。
「岩崎ぃぃ! なんだこの楽譜はあああ! まったくのデタラメではないかあああ」
「デタラメってなんですか! 僕が一生懸命に作り上げた譜面を破るだなんて」
「あの、金本先輩? なにか岩崎君の作った楽譜に問題があったんですか?」
芹沢さんの優しい声に、金本は正気を取り戻してにこやかに穏やかな声で答えた。
「うん! この楽譜は、すべて間違えて書いてあるんだよ。これを覚えて弾いたら、ギャルゲーソングにならないよ」
金本の言葉に、僕は愕然とした。
金本はギターを手に取って、実際に弾いてみるとたしかに変な音が鳴る。その後、金本はギターにするならこうだと改めて弾いた。
あまりにも違いがありすぎて、僕はその場に崩れ落ちた。




