第三十話「成長がための金本!」
「君にはまだ早すぎたようだな! こんな、ひどい楽譜をよくもまあ作れたよ!」
「はっ、はぁい……すみませぇん」
金本からのすさまじい叱責を浴びながら、僕は放心状態。
あれほど楽勝と思っていた楽譜制作が、ここまでダメだったとは。
「……それで、楽譜はどうするんです?」
瑠奈は気まずそうに尋ねる。
僕が作った楽譜はすべてのパートが、金本によって不採用。となれば、また一から作り直す必要があった。
「キョウちゃんがまた作るの?」
すでに失敗した楽譜を作った僕に信用していないような口調で、響子が同じく尋ねた。
僕は無言を貫く。正直に言えば、今は作る気力もやる気もない。
それくらい、僕の無力に打ちひしがれていた。
「ふっ! 仕方あるまい。この金本がささっと作ってやろうではないか!」
その言葉に全員が驚く。
「けど、金本先輩は受験生でしょう? 部活も引退されていますし」
「そうですよ? 三年生の先輩に、協力してもらうには」
瑠奈と琉偉は申し訳なさそうに金本に話し、ちらりと僕を見る。
ーーああ、その信頼をなくすような目が痛い。
一年生から尊敬の眼差しは消え、僕はさらに首をガクリと落とす。
「問題はない! 楽譜など、すぐに作ってみせよう!さあ、譜面とペンを貸したまえ」
僕は余った空白の譜面を金本に渡す。椅子に座り、金本は目を閉じて顔を上にした。
その姿は、まるでなにかを祈るかのようなものだった。
「すべてのギャルゲーに感謝を……そして、このギャルゲーソングを生み出した作曲家にリスペクト!」
わけのわからない言葉を口にした後、金本はペンを握り勢いよく楽譜に書き始めた。
だが、ものすごいスピードで空白の紙に音符が書き込まれていく。
ーーなんて、早さなんだ。
素早く買いていく金本に、僕らはただおどろく。
「ふう。とりあえず、ドラムとベースは完成だ。この譜面ならば、問題ないだろう」
わずか数十分でドラムとベースの譜面を完成させ、できた譜面を琉偉たちに渡す。
「字は汚いですけど、岩崎先輩が書いたのとは違う感じですね」
「岩崎君が書いたのは単純なベースラインだからな。間違えているところを直して、さらにアレンジを加えたのだ」
「ドラムのパートは、このリズムパターンでいいんですか?」
「うむ! 電子ドラムとて、パターンはわかりやすいからな。ドラムは原曲通りにさせてもらった」
楽譜を渡された琉偉と瑠奈は、金本に質問する。それに、金本は自慢げに答えた。
「金ちゃんー! あたしのボーカルパートは?」
「馬場さんに楽譜はいらんだろう! 原曲を聴いてメロディを覚え、生演奏の音に合うようにするのだ!」
うらやましそうに響子も金本に話すが、ギャルゲーソングを知る響子には楽譜は必要ないと返した。
みんなに指示する金本の姿は、一年前の頃を思い出す。バンドの演奏に関しては、彼に従えば間違いはなかった。
しかし、懐かしさを感じつつ情けなく思う。
やはり金本たちの力を借りなくては、このようにスムーズに事が運ばない。
金本たちから引き継いだ、音楽研究同好会。
それをこれから上手くやっていけるのか、不安を感じてしまった。
「さて、次はギターだな! さくっと君らのパートを作ってあげようぞ」
僕が下を向いて考えていると、次はギターの譜面を作り出そうとする金本。
すると、芹沢さんが金本に口を開いた。
「あの……ギターのパートは、岩崎君がもう一度作ることってできませんか?」
「せっ、芹沢さん?」
突然、そんなことを話す彼女に僕はおどろく。
「理由を……聞かせてもらおうか」
金本はそうかけているメガネをくいっと上げながら理由を尋ねた。
「岩崎君は先輩たちがいなくなった後を考えて、懸命に同好会を支えようとしているんです。楽譜の制作だって、金本先輩に頼らずに」
芹沢さんの声は真っ直ぐで、訴えるように話す。
「だが、岩崎君にはまだギャルゲーソングを聴いて楽譜を作るのは早すぎるだろう。そこまでの実力を身につけていない」
金本はそう反論する。たしかに、僕にはそこまでできるレベルには至っていない。
ギターやボーカルだけをやっている僕は、金本たちとは違うのだ。
「それでも、この譜面は決してすべて間違えているわけじゃないと思います! イントロのコード進行は、合っていますし」
そう言って芹沢さんはギターを押さえて、ぎこちなくコードを弾く。
ギターからは原曲を思い起こさせる音が鳴っていた。
「あー、たしかに。なんか、最初だけそれっぽいねー」
音を聴いた響子は、その口にする。
たしかに、出だしの音だけは曲と一緒だ。その先はどうにも変な感じ。
「ふむ……まあ、コードは合っているけど」
「だから岩崎君がもう一度、曲を聴けば原曲に近づく楽譜を作り出すことができると思うんです」
「芹那さん……」
彼女の必死な言葉に、僕と金本は黙っている。次第に僕は芹沢さんの思いを強く受け止めて、ふつふつとやる気が湧いてきた。
「金本先輩! お願いです。もう一度、僕にギターパートの譜面を作らせてください!」
金本に向かって、僕は深々と頭を下げた。
芹沢さんが僕の可能性を信じてくれることや、僕たちで同好会の活動をやっていくために。
「ふむ。岩崎君や芹沢さんの熱き思いは、この金本に伝わっている。よかろう、岩崎君! 君の成長を見届けようではないか」
「ありがとうございます!」
金本から許しがでて、僕は再度楽譜制作をできることになった。
ギターだけは、僕が考える原曲をリスペクトするアレンジにしなければならない。金本が納得できるレベルのものを。
そう決意すると、金本が僕に向かってさらに話を続ける。
「だが、君一人が今の段階で作り上げることはできないだろう。そこで提案がある」
「提案……ですか?」
「そうだ! それは、芹沢さんも楽譜制作に加わってもらう!」
「わっ、わたしですか!」
まさかの提案に僕と芹沢さんはおどろく。
「もちろん、君らだけでも不安であろう。そこで、僕がアドバイザーになってやろうぞ!」
こうして、ギターパートの譜面は三人で作ることで話はまとまった。
僕の決意は金本の提案で、なんとなく変な方向へ行くが楽譜制作が本格化する。




