第二十八話「ギャルゲーをプレイすれば良曲と巡り合う」
なにげなく手に取ったギャルゲー。
それはかなり古く、もう数年以上前に発売された作品だ。
「うわ! なつかしー。それ、かなりシナリオが良かったやつー」
響子は僕が手に取ったギャルゲーを見つけると、懐かしそうに話す。
「俺……その作品知らないっす」
「あたしも。なんか、聞いたことがないメーカーですね」
琉偉と瑠奈は響子の話を聞いて、初めて見るように答えた。
僕もいろいろなギャルゲーを隠れて遊んでいるが、この作品に身に覚えがない。
金本がおそらく部室に置いていったと思うけれど、彼から教えてもらった記憶はなかった。
「なんか、すごい大きい箱にだね」
「芹沢先輩はギャルゲーを買ったことなかったですよね。昔のギャルゲーって、これくらいの大きさの箱で売られているんですよ」
「ゲームを買ったことないけれど、もっと小さいケースだと思ったよ」
「今はスマホにインストールするか、パソコンのブラウザでできちゃう時代だからねー。しかも、基本無料!」
響子はそう話すと自分のスマホを取り出して、画面を芹沢さんに見せる。
ずらりと並ぶ、ギャルゲーのアイコン。
ーーどれだけスマホにインストールしてるんだ、おまえは。
その多さに僕は、苦い顔をしながら思う。だが、響子の話すように今はスマホでギャルゲーが簡単にできる。
昔みたく、箱で売られているギャルゲーも少なくなっていた。有名なメーカーも倒産を後を絶たない。
今となっては、ギャルゲーソングというものを知らない人が多い。
「まー、古きギャルゲーの曲を弾くのが逆に斬新よねー」
「ああ。だからこそ、ギャルゲーソングの良さを知らしめる絶好のチャンスなんだ」
ただでさえ知名度が低くく、忘れさられるジャンルを僕らで呼び起こすのだ。
「それで、そのゲームってどんなものなの?」
芹沢さんがふいにそう尋ねてくる。
「……ちょっとパソコンにインストールしてみようか」
そう話した僕は部室にあるパソコンを立ち上げて、ギャルゲーのディスクを中に入れた。
しばらく時間がかかるけれど、無事にゲームをインストールできた。僕はさっそくアイコンをクリックして起動する。
画面がフルスクリーンに変わり、ギャルゲーのタイトルが現れた。
「なんか、すごい時代を感じる絵ですね」
「本当に……この絵師、今なにしてるんだろ」
あまりにも現代とはかけ離れたキャラクターのイラストを前に、琉偉たちは話す。
「けど、かわいいね。髪の毛がピンクだもの」
芹沢さんはメインヒロインであろうキャラを見ると、目を輝かせながら見ている。
「まっ、まあ……この時代はピンクの髪がヒロインなのは当たり前だからね」
そこそこギャルゲーを嗜んできた僕は、苦笑いを浮かべながらゲームを進める。
「まずはストーリーの序盤からで、その後にオープングが流れますよね」
「流れ的にはそうだな。というか、この作品の主題歌ってなに? わかるか? 響子」
「ん? 忘れたー」
響子はとぼけるように話すが、間違いなく本当に忘れているのだろう。
仮に良さそうなバンドっぽい曲ならば、次にやるライブのレパートリーにと思っていた僕は呆れてしまう。
「とりあえずぱぱっと進めて、曲を聴きましょう」
「いや、琉偉。これ、意外に序盤から面白いぞ」
早く進めるように声をかけてくる琉偉に、僕はそう答えた。
なにげなく文字を追って読み進めていくと、主人公たちの掛け合いに面白さを感じる。
珍しいハツラツとしたピンクの髪をしたヒロインが主人公とギャグをかましていた。
「シナリオが良さそうですね。もしかしたら、良作な予感」
パソコンを前に座る僕に、瑠奈が顔を近づけてくる。
「わたしも!」
そして、なぜか芹沢さんも同じように顔を近づけてパソコンを眺め始めた。
ーー女の子二人に囲まれてギャルゲー。なんか、いい匂いがする。
気持ち悪い感情を頭で考えつつ、僕は鼻を伸ばしながらマウスをクリックしていく。
ギャルゲーのシナリオを楽しみながら読み進めていくと、いよいよオープニング映像に変わる。
「来ましたね! どんな感じでしょう」
「しっ! みんな……集中して聴くぞ」
僕はそうみんなを黙らせて、画面を凝視する。
そして、ついに主題歌が流れ始めた。
その音を聴いた瞬間。僕は、なにか胸がざわつくようにゾワっとした。
たったの一分と数十秒。曲と映像が僕を魅了させる。
「……すごい、いい曲だな」
聴き終わった後、最初に出た言葉がそれだった。
ゲームの雰囲気とは似合わない曲調の主題歌。だからなのか、それがより引立っている。
「ですね。古いからって甘く見てましたよ……」
「わたし、この曲……好きだな」
芹沢さんが、自然とそうつぶやく。その言葉に、全員がうなずいた。
ーーこの曲を、バンドでやってみたい。
同好会メンバー全員が、その思ったに違いない。
「なら、この曲を弾いてみるか……」
僕はみんなのほうへ向いて、そう話す。そして、みんなが首を縦に振った。
次にバンドでやる曲が決まった。
僕らはこのギャルゲーソングに出会い、新たなバンド活動を開始する。
だが、問題が立ちはだかる。
「けど、岩崎先輩……」
瑠奈はなにか言いたげそうにする。
彼女の言いたいことはわかる。それが、僕らにとって問題なのだ。そして、瑠奈は言葉を続ける。
「この曲……思いっきり、テクノポップですよ。エレクトロ満載の」
それは楽器を弾くバンドにとって、そのジャンルをアレンジするかが重要。
すべてはアレンジにかかっている。
問題はアレンジできるであろう人物がいない。
「……とにかく! この曲をやるぞ」
僕はあえて話をはぐらかして、そう答えた。
なにはとにかく、僕らの練習は始まる。




