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第二十一話「岩崎、修行の時期!」

 僕らは部室に集まり、さっそく曲を練習する。


 ところが、全員で合わせて弾くのはそれほど簡単ではなかった。


「ああ! また、サビで弦が引っかかってしまった」


「キョウちゃーん。そこでハモらないと、ビシッと決まらないよー」


 曲のオケはそれとなく形になっている。芹沢さんのギターも、ちゃんと他の楽器に馴染んでいたから問題はない。


「岩崎先輩……その弾き方とボーカルを同時にやるのが、悪いんじゃないんですか?」


 琉偉はベースを止め、僕にそう指摘する。


 そう。今、バンドの練習で悪い流れを作っているのは僕だった。


 芹沢さんとギターを練習していた際に、彼女が弾きにくい箇所を僕が代わりに弾くアレンジされたパート。


 それを弾いてきたせいか、そのままみんなに合わせて弾いてしまう。そこにハモるコーラスを歌うのだから、さらに難易度が上がっていた。


 仕事量が多いのが原因で、みんなとうまく波長が合わない。


「けど、そのギターフレーズを弾きこなせて歌えたらすごいですよね」


「たしかにー! 曲の雰囲気がガラリと変わるしさー。キョウちゃん、完璧にマスターしなよ」


「おまえらなあ……そうは言っても、かなり難しいんだぞ?」


 ギターだけなら出来なくもないが、歌もやらなければならない。歌って弾くのは慣れている。しかし、ギターが複雑であればあるほど難しいのだ。


「いまさらなんですが、なんでコーラス担当の岩崎先輩が真ん中で歌うんです? 普通なら、馬場先輩がセンターでしょう」


「あー。おまえたちは、そこまで僕たちのバンドを知らなかったっけ」


 瑠奈は不思議そうに疑問を投げかける。それに、僕は答えた。


「あたしたちのバンドはー、ちょっと変わってるんだよねー。ハモリパートで歌うキョウちゃんがリードボーカルになって、あたしがサブみたいな」


「……それってつまり、逆にして歌うってこと?」


 芹沢さんも気になったのか、そう尋ねる。


 みんながおかしいと思うのも無理はない。聴く人にとっては、変なバンド光線に見えるだろう。


「キョウちゃんはどんな曲でもハモれちゃう人だからねー。それを、バンドの目玉にしようってパパが」


「……パパ?」


 響子の言葉に、三人は聞き返した。


「響子の父親はギャルゲーメーカーで勤めているんだよ。聞いたことないか?」


 僕は響子の父親が勤めているメーカー名を告げる。すると、瑠奈たちは驚きの顔を浮かべた。


「馬場先輩のお父さんって、ギャルゲーを作る人なんですか? すごい……」


「ということは、あたしたちも発売していた作品をプレイしたかもしれないよね」


 二人は興奮気味に響子に詰め寄って、鼻息を荒くする。


「おーい……練習が止まってるぞ」


 僕がそう声をかけても、まったく耳を傾けない。


 しばらく練習どころではないと察した僕は、ため息をつきながらギターを練習することにした。


 ーーなんにせよ、芹沢さんの負担を減らすためにこのギターパートを弾きこなさなきゃだな。


 ギターのフレーズを頭の中でイメージしながら、そう考えつつピックを走らせる。


 ーージャカジャカ! ジャララン。


 イントロの頭から音を鳴らし、確認しながら弾く。


 すると、僕の正面に座った芹沢さんがギターを構える。


「わたしも練習に参加するね。えっと、そこからだと……」


 あたふたしながら指板を押さえて、芹沢さんはギターを合わせようとする。そして、ゆっくりと僕の弾くギターに音を重ねた。


 簡単なフレーズを弾く芹沢さんと、複雑なフレーズを弾く僕。その差ははっきりとしているが、不思議と悪い風には思えない。


 むしろ、このギター同士だから曲のイメージに合うのだろう。


 ーージャカジャカ……ジャッ!


 サビまで止まらずに弾いていたが、途中で僕の弾く音がミスる。


「わわ! ごめん、芹沢さん。いいところで間違えた」


「ううん、全然! というか、わたしが本来やるところもあるのに岩崎君に任せてしまってごめんなさい」


「いやいや、気にすることないよ! それよりも、芹沢さんは謝るのを禁止!」


 僕は弾くのを一旦やめて、その芹沢さんに話す。


 彼女はいつも申し訳なさそうに謝ってばかりいる。これから同じバンドでやっていくのだから、遠慮はいらないのだ。


「芹沢さんは俺だけじゃなく、みんなに気を使う必要はないよ! まずは自分のギターを信じよう」


「え? でも……」


「今はできることを真剣にやればいいさ。バンドってやつは協力し合って、演奏するんだから」


 バンドは一人でやるものではない。メンバーと一緒に曲を弾いて、やっていく。


 ギターで弾けないところや、苦手に思うパートは他のメンバーでカバーをすればいいのだ。


 だから、俺に申し訳ないと思う必要はない。


「さっ! もう一度、イントロから弾こうか」


「うん……ありがとう、岩崎君」


 芹沢さんは僕は満面の笑みを浮かべる。


 僕の言葉を聞いて、彼女はなにか吹っ切れたように感じた。


「さあ! いくよ、せーの」


 こうしてまた、僕らはギターを合わせて弾く。


 限られた時間の中でも、イベントライブに向けてギターパートを完成させなければならない。


 ーーまあ、僕のギターを一番になんとかしなきゃいけないけども。


 そう顔をひきつりながら、僕はギターをかき鳴らす。


 響子たちはあまり参加しなかったが、今日の練習を終える。


 みんなは楽器やらを片付けた後、それぞれ帰宅していく。


 一人残った僕はみんなが帰るのを見届けると、スマホを取り出す。


「芹沢さんにああは言ったけれど、このままではギター弾きながら歌えるか怪しいな」


 歌も練習しなければならないが、それ以上にギターをさらに鍛えないと。


 そう思った僕は、スマホに登録されている連絡帳からとある人物に電話をかけようとした。


 もう金本たちに支援を頼むのは、申し訳ない。ならば、この状況を打破するために助けてくれるやつは一人しかない。


 かつて互いにバンドで切磋琢磨した仲である、あいつ。


 その相手に向かって、僕は電話をかけた。

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