第二十二話「久しぶりだな!さあ、僕に教えてくれ」
休日の昼間。僕は急いで待ち合わせの場所である喫茶店へと向かう。
イベントライブに参加するにあたって、今よりもギターのテクニックを上げたい。そのために、僕は協力者へアドバイスをもらう。
「約束していた時間に間に合うか? 夜中までギターを弾くのは、やっぱりダメか」
息を切らしながら、その口にして走り続けた。
目的地である喫茶店に入り、辺りを見渡す。
「いらっしゃいませ。一名様ですか?」
「いや、あの……待ち合わせをしてて」
出てきた店員さんに言われて答えた僕は、店の中をまわる。
「あっ、やっときた。ちょっと、遅くない?」
窓際の席へ歩いたあたりで、そう声をかけられた。
「悪い悪い。徹夜でギターを弾いていたら、寝坊しちゃった」
僕はそう答えると、声がした席へと座る。
「それで……いきなり電話をしてきて、なんの用なの?」
テーブルに出された飲み物を飲みながら、話す相手。田所鏡花だ。
同じ高校生にして僕よりもバンド経験が長く、ギターも上手い。
ひょんなことから知り合った僕らは、対バンをやったりしたいわゆるバンド仲間ってやつである。
「それがさ……実は」
僕は同好会に入ったメンバーたちと新しいバンドを組んだこと。そして、ライブをやるためにギターのレベルアップが必要であると説明する。
「ギターが一人いるのに、あんたがその子の分まで弾く量を増やすとか……」
「仕方ないだろ。まだギターを始めたばかりだし、金本先輩がライブを決めちゃって初めてのパフォーマンスになるんだからさ」
「それにしてもだよ。まあ、あんたならなんとかなりそうだけど」
「そこでだ鏡花! 僕のギターをさらに上げるために、おまえの力が必要なんだよ」
話を聞いて呆れている鏡花に、僕は本題を突きつける。
鏡花のギターセンスは高い。こいつにアドバイスをもらえれば、必ずなにか得るものがあると僕は思った。
すがるように頭を下げて、鏡花に懇願する。
「はあ……」
しばらくの間を空けて、鏡花は深くため息をつく。そして、口を開いた。
「なんの曲をやるの? また、ギャルゲーソング?」
「え? いや、今回はアニソンだ。まあ……元ネタはギャルゲーなんだけども」
「まったく……仕方ないわね」
「おお! 協力してくれるんだな? ありがてえ」
ここまで言われたらもう諦めるしかないみたいな顔で話す鏡花。そんなことより、協力してくれることになって僕は安堵した。
鏡花は横に置かれているギターケースに手をかけると、席を立つ。
「だったらこんなところで時間を潰してないで、さっさと貸しスタジオに行くよ」
「……えっ。もう行くのか? 僕は店に来たばかりだから、せめてドリンクを飲んでから」
「そんな時間ないでしょう? ほら、あんたもギターを持って立つ!」
半ば強引に引きづられながら、僕らは喫茶店を後にして貸しスタジオに向かう。
そして、貸しスタジオに入って早々にギターを取り出した。
「まずは曲を聴いてから、あんたのギターを見ることにするわ。んで、曲は?」
「ああ、えっと……この曲だよ」
鏡花に言われた僕はスマホを取り出して、曲を流す。しばらく黙って聴いた後、僕にギターを弾くように促した。
言われるがまま、僕はギターで曲を弾いてみせる。
ーージャラランー! ジャッジャ。
ひとまず弾けるところまでを鏡花に見せるのだが、妙に視線が目立つ。僕を見ているというより、弦を押さえる指やピックをはじく動きをじっと見ていた。
「……どうよ?」
弾き終わり鏡花に感想を尋ねると、黙ったままでいる。そして、なにか気がついた顔をすると、答える。
「あんた……その指の動かし方でよく弾いてたわね」
「指の動かし方?」
別に変な指の形をして弾いたわけではない。エレキギターを弾くやつならば、だいたい同じようなフォームになるはず。
「ギターのフレーズにアルペジオやら、ストロークを混ぜた感じでしょ? あれもこれもだと、指がおかしくなるのよ。まさに、あんたのそれがまさにそう」
「いやあ。エレキばかり弾いてきたんだから、この動かし方でいいだろ。アルペジオだって、ピックでやるし」
「だから、途中で音がおかしくなるのよ。変に間違えるのもそれが原因」
ギターを弾く際に起きるミスやテンポのズレ。その原因が、僕の弾き方だと的確に答える。
「とりあえずあたしが弾いてみるから、あんたは見てなさい」
「え? さっき曲を聴いたばかりだろ? すぐに同じフレーズを弾けるわけ……」
ーージャァン! ジャララン、ジャラーン!
そう言いかけた時、鏡花は勢いよくギターを弾く。弾いているのは、初めて聴いたであろう僕がやるギターパート。
少し聴いただけにもかかわらず、見事に弾きこなしていた。僕よりも上手く。
「だいたい、こんな感じじゃない?」
「いや、ほぼ理想的なギターパートだけど……それを弾いてのけるおまえに驚きだよ」
「いろんな弾き方を覚えていれば、これくらいすぐにできるわよ」
僕なんかよりギターが上手いのはわかっていたが、ここまでできるとは思っていなかった。
それにしばらく会っていない間に、テクニックがさらに磨かれている。
「さあ。感心ばかりしていないで、あんたも覚える!」
「ああ……とりあえず、そのアルペジオを弾く指の動かし方を教えてくれよ」
ライバルの成長を身に沁みながら、僕は鏡花からギターを教わっていく。
曲のギターをより完成度の高いものにするべく、僕は必死に弾いて覚えていった。




