第二百一話「負けを認めてしまうくらいの気持ちだが……」
曲のイントロのフレーズ。それに僕らは聞き覚えがあった。
「和田先輩……仙道たちがやっている曲って」
「ああ。まさか、こんなところで聴けると思わなかったよ。しかも、カバーで」
おどろく僕の横で、和田が動揺している。
仙道たちはパンクやオールドロックな曲をメインでやるバンドだけれど、弾いているのはどちらかと言えばメタルハードロックだ。
複雑でテクニカル。さらに正確で乱れない速さで弾かれるギターのリフ。そのギターを際立たせるベースとドラム。
どれも、異様といえるほどの魂のこもった曲だ。
「岩崎君。この曲もいわゆるギャルゲーソングなの?」
「ああ……そうなんだけど、この曲が主題歌のギャルゲーはなんというか、人を選ぶジャンルで」
芹沢さんがそう尋ねてくると、僕は言葉を濁すように答える。芹沢さんのように初めてこの曲を聴いた人はこれがギャルゲーソングとは思わないだろう。
大多数の人が知るものはどちらかといえば明るめでアニソンに近いものをイメージする。
けれど、仙道たちがやっている曲はギャルゲーでは珍しいハードロック。
「こういう音楽ジャンルで使われるギャルゲーって、けっこうお見せできないよ! みたいな内容だよね」
「ええ……名前は知っているけど、プレイするのに躊躇しますね」
「ああいうジャンルは金本しかやらないだろう」
和田たちですら曲を知ってはいるが、原作をプレイしたことがない。ただ、曲だけはやたらかっこいい。
だが曲の難易度は非常に高く、誰でも完璧に弾ける人は少ない。
「なっ、なのに。仙道君たちは原曲を忠実にカバーしているね」
「そうですね。下手なアレンジを加えずに、そのままコピーしていますし、完璧ですね」
曲を知るものならば、その完成度の高さにおどろく。現に和田たちは、仙道たちのカバーに食い入るように聴いて観ている。
「この曲って、ギターソロが難しいよね。左手が千切れそうなくらいの指運だしさ」
「金本もソロに挑戦してみたけど、途中で断念していたなあ」
あのギャルゲーソングマスターでもある金本が断念したと話す荒木の言葉に、僕はそれだけレベルが高い楽曲だと改めて思う。
けれど、それをなんなくライブのステージで披露できてしまう仙道たちのバンドのすごさにもおどろいてしまう。
――わあああああ!
僕らが会話をしている間にも、観客の歓声がさらに大きくなっていた。仙道たちのライブパフォーマンスに加え、ギャルゲーソングとはいえハードロックでかっこいいときたら盛り上がらないはずがない。
曲に合わせて体を揺らす人が増えるこの状況。
ライブハウスでのバンドとオーディエンスのノリが、このイベントでも巻き起こっている。
「滝沢さん、仙道君たちの披露するギャルゲーソングでここまで観客を沸かせることができるのも考えさせられるねえ」
「他のバンドがギャルゲーソングをライブでやるのを聴くのも、斬新ですしね」
「なんというか、うれしいね……そういった曲がバンドで歌ってもらえることに」
荒木の言うことに、僕も同意する。
全然ギャルゲーというものに縁がないバンドたちが、イベントで曲を弾いてくれるのは感動すらしてくる。
それを聴いて盛り上がってくれる観客がいることも、素直にうれしい。
ステージで弾く仙道たちも、心なしか自分たちのオリジナルよりも楽しそうだ。
――ギュイィィィン!
曲が進んでいくと、ステージの照明が仙道を照らす。
「見たかい? あれが今回のライブのために用意した特別な全自動照明システムなんだよ」
「いや、和田先輩……そんな急にそんなことを言われても」
「仙道君の要望でね、ソロのところになったらライトを集中させるようにしたんだ」
敵に塩を送るようなことをする和田に僕は、顔を引きつるけれど場面演出では完璧だ。
照明のライトに照らされた仙道に、観客の目は集中する。そして、仙道は曲の難易度が高いギターソロを弾き始めた。
ハイフレットの位置にある弦を指先で高速で流れるように押さえて、高音を響き渡らせている。
そのフレーズは、独特な雰囲気を感じさせながらも人を惹きつけてしまう。
高度なギターテクだけでなく、フィーリングも必要だから誰でも弾けるわけではないのだろう。
だが、それを仙道は弾いている。バンドだけでなく、仙道というバンドマンのレベルがすごいことをこのイベントで再確認できた。
ギターソロが披露された瞬間、一気に会場が盛り上がってこれまでにない空気感を生んでいる。
そして、ギャルゲーソングのエンドロールを弾き終わると、歓声が上がり観客の興奮がステージに立たない僕らにまで伝わってくる。
そんな彼らのステージを僕らは黙って見続けた。
「いえーい! ロックンロール!」
曲を終え、観客の歓声に答えるように仙道はマイクでさけんでいる。
彼らのライブを見終わった僕は、この空気感にこれからどう立ち向かえばいいのか困惑してしまう。
滝沢さん。そして仙道たちのライブパフォーマンスがここまでイベントを盛り上げてくれた。
その後に僕らのライブ。
彼らほどのパフォーマンスが出来て、観客たちの期待に応えなければならないプレッシャーは計り知れない。
それがより現実味を帯びてきている。
仙道たちがやりきったように、歓声を送る観客に手を振りながらこちらに戻ってくる。
「はあ……はあ。どうだ? 俺たちのライブはすごかっただろ?」
「あっ、ああ……」
「この後にやるおまえらに俺たちを超えられるか、見届けさせてもらうぜ」
仙道の言葉に、僕は強く言い返すことをためらってしまう。正直、彼らの次に超えるような演奏ができるか確信をもてないからだ。
なにか言わなければと思っていると、そこへ和田が口を開く。
「残念だが、岩崎君はトリなんだ。次のライブは僕ら引退組だが……まあ、見ていてくれたまえ」
そう話す和田たちから、今までにないオーラを感じる。
「和田先輩……?」
「岩崎君、君の考えていることはわかっているが気にする必要はない。らしく弾けばいいのだ」
「そうそう! まあ、ギャルゲーソングしか弾いたことがない僕らの実力ってやつをステージでわからせてやるさ」
和田だけでなくベースを背負う荒木も、そう言いながらステージに上がる準備をしている。
「先輩たちの音にわたしも負けないように頑張るから……見ててね、岩崎君」
「芹沢さん……」
同じくステージに上がる芹沢さんは僕に強い意志を示すように話す。
そして、和田たちは観客がいるステージに向かう。
その後ろ姿は、とても堂々としていた。




