第二百話「王道ロックバンドはやはりいいものだ」
昔、ギャルゲーソングをやる前に毎日のように読んでた音楽雑誌。記事の中にロックとは、体制への反抗や自由の象徴なのだと書かれていた。
その時は深く考えていなく、ただかっこいいだけのジャンルくらいにしか僕は思っていなかった。
けれど仙道たちのライブを見て知った時、ロックとは感情を音楽にして伝えるものなのだと知ることができた
「そういえば、彼らのライブを聴くのも久しぶりだね」
「ですね。僕らと一緒にやる機会もイベントもなかったし、仙道たちもバンド活動ばっかりだったみたいですから」
「あのう、わたしたちはまったく初見なんですけど」
仙道たちのパフォーマンスが始まる前。僕らがそう話していると、瑠奈たちが話の輪に入ってくる。
たしかに、今年から同好会に入った後輩や芹沢さんたちは仙道のライブを生で見たことはないし聴いたこともないだろう。
「まあ、古き良きロックバンドって思えばどんな感じのバンドかわかるよ」
「え? じゃあ、リーゼントでサングラスかけて革ジャン着てるあのバンドみたいな?」
「よくもまあ……そんな古いバンドを知っているな。おまえたち双子はどういう音楽の教育を受けているんだよ」
瑠偉がそんな例えた話をしてくるが、仙道はそういう感じのバンドではない。けれど、熱いロックという点ならば、同じかもしれない。
「まあ、見ればわかるさ」
僕はそう一言だけ話して、仙道たちのいるステージを見つめる。
ステージに立ち楽器を構えている仙道。緊張した様子はなく、他のメンバーとも会話がない。
ただ静かにその場に立っているだけだが、すでにエンジンがかかっているのがわかる。
「……始まるぞ」
彼らのライブがスタートする。先ほどまで話していた僕ら全員はしゃべるのを止めた。
――ギュワワァァァン!
開幕早々、いきなりエレキギターの歪んだ音がアンプから爆音で流れる。
それを鳴らしているのは仙道だ。
「ほう。いきなりソロギターで攻めていくのか……さすが仙道君だ」
「去年よりもギターがうまくなっているだけでなく、フィーリングがえぐい。相当なライブ数をこなしていないと出せないよ」
「あれくらいのものは、ギャルゲーソングを弾くときに僕らも出したいものだね」
仙道のギターを聴いて、和田たちはそんな感想を口にする。
たしかに、去年に比べて明らかにその音の違いがわかってしまうほど変わっていた。
正確でミスもなく、一音一音に感情がある。仙道らしい荒々しさの中に、誰かに伝えたいという明確な想いが込められている。
「一曲目はオリジナルだね。新曲かな?」
聴いたことがないギターのイントロから始まった曲に、和田はぽつりとつぶやく。僕もその曲は初耳で、おそらくイベントのために用意された新曲だと思った。
ギターの音に続くように、他のメンバーが弾く音も合わさっていくがそのグルーヴ感が強調されていた。
他の楽器の音と共に、仙道の弦をはじくギターが悲鳴を上げている。それはテンションが上がってしまって暴走しているわけではなく、叫びにも似たその音は、仙道自身の感情をそのまま吐き出しているようだった。
暴れ回るような激しいサウンド。それを弾くバンドはまさにロックだ。
「盛り上げてくれるなあ……」
僕は思わず声がうなる。
観客席から途絶えることのない歓声と盛り上がる空気を感じる。僕はその歓声が聴こえるほうに視線を向ける。
そこには仙道の弾く曲に合わせて手を上げながら気分良く乗っている観客もいれば、スマホでステージで歌う仙道たちをカメラで撮っている人もいる。
なにより、曲が進むにつれて観客が大きく拳を突き上げていた。ただ純粋にライブを楽しむ観客の姿がそこにあった。
滝沢エマと違うジャンルにも関わらず、最初と同じ。いや、それよりも盛り上がる歓声が増えてきている。
「やはりバンドの演奏は人を惹きつけるんだね」
同じく演奏を見ている芹沢さんがそうつぶやく。
「そうだね。仙道たちのバンドは人を惹きつける魅力をロックというもので表現できるバンドなんだよ」
僕はそう芹沢さんに答えた。
仙道たちの奏でる爆音に、知らない間に体がリズムを刻む。
気づけば僕だけじゃない。会場中の観客が、同じように彼らの音へ引き込まれていた。
ドラムの激しいリズム音。ベースの重低音にギターのバッキングが小刻みに走る。そこに仙道のボーカルとギターでさらに魅せていく。
アマチュアの高校生ロックバンドにも関わらず、一瞬でライブを盛り上げられるのはプロのようだ。
「よーし! 次の曲は、このイベントを主催したやつからのお題だ! それは、気に入らねえが曲はいいんでいくぜ!」
仙道たちのバンドがやるオリジナルが終わり、残るのはギャルゲーソングのみ。
曲が終わった後、マイクでそう仙道がさけびながら観客に向けて話す。
「ははは……なんというギャルゲーソングの紹介の仕方なんだよ」
「ありゃあ、完全にゲームをやらずに曲だけを聴いてコピーしたとわかるね」
「まあ、あの仙道がギャルゲーをやるなんて思ってませんよ」
ギャルゲーについてまったく観客に伝えず、それがギャルゲーソングだとも言わずに仙道はただ曲だけをほめている。
それだけでも進歩であるが、彼がいいと思うギャルゲーソングを見つけたのがおどろきだ。
「それじゃあ、いくぜ!」
そう言って仙道はマイクから離れ、ギターを弾く。イントロ一発目で、それを聴く僕らは目を見開いてしまう。
「マジか……まさか、その曲を選んだのか」
僕は思わず、そんなことをつぶやいてしまう。




