第百九十九話「滝沢エマの脅威と仙道の覇気、僕らのおどろき」
ギャルゲーソングを歌い出す滝沢エマは、その元となったゲームを実際にプレイしたのだろうか。
ゲームよりも曲を歌う歌手の雰囲気を真似してカバーするバンドやアーティストが多いとされる現代。
滝沢さんの歌う曲は、ゲームの物語を理解した上で作られたとされるものだ。歌手はギャルゲーの世界観を形にしているのだ。
「それを、あそこまで同じような雰囲気で歌ってしまうとは……どう考えてもギャルゲーをフルコンプした人でなきゃ出せんぞ」
「岩崎君。滝沢さんは本当にギャルゲーソングだけを聴いただけなのかい?」
和田たちは曲を聴きながら僕にそう尋ねてくる。
彼女らにはあくまでギャルゲーソングを自分で調べて弾けという感じにしか伝えていないから、滝沢さんや仙道がギャルゲーをプレイしたまでは知らない。
「どうなんでしょう……」
そう言ったものの、僕には分かっていた。
あれは、ゲームを知らない人間の歌い方じゃない。
でなければ、原曲を聴いただけで歌えるわけないと考えられるのが自然。
僕がそう先輩たちに答える横で、芹沢さんはポツリとつぶやいた。
「どちらにしても、すごいなあ滝沢さんは」
自分では出せない表現をギャルゲーを通じて出す滝沢さんを見て、芹沢さんはどこかうらやましそうにしている。
「トップバッターであれだけ盛り上げられたら、次の仙道君たちはやりにくそうだなあ」
「いやいや……和田先輩。そんなことを言ったら、その次でやる先輩たちはさらにハードルが上がりますよ?」
「うぐっ! そうだな……」
たしかにあれだけのパフォーマンスを最初にされたら、次に出るバンドはやりずらさを感じるはず。
だが、次のバンドは仙道たち。
イベントでやるバンドの中では、一番場数をこなしてきたはず。こういった状況には慣れているだろう。
――仙道たちもギャルゲーソングをどう表現して演奏をするのかは、気になるな。
僕はそう考えつつも、目の前でパフォーマンスを続ける滝沢さんを見る。今は純粋に彼女の曲を聴き入れた。
アコースティックギターの乾いた音に、 滝沢さんの声が重なる。原曲より音数は少ないはずなのに、なぜか原曲だとわかる。
多少なりとも滝沢さんは曲を自分なりにアレンジをしているのだろうけど、違和感すら感じない。
なにより、ギャルゲーソングでここまで観客を魅了させるのはおどろきだ。
「ねえ、岩崎君。始まった時よりも人が増えているように見えない?」
「そういえばそうだね。会場への出入りは自由なんだけど、出ていく人より入ってくる人が多いような」
入場料を取っているわけでないフリーのイベントでもある。
出入りは自由なのだが、芹沢さんが言うように事前に集まっていた時よりも人が多くなっていた。
「それだけあいつのパフォーマンスに惹かれたやつらが見に来たんだろうよ」
「……仙道?」
僕らの会話に混ざってきた仙道が、そう話す。
「滝沢ってやつがバンドのイベントで対バン相手になると、ほとんど客をごっそりと自分のファンにさせちまうんだよ。前にやった時もそうだったぜ」
「僕らはバンド甲子園的なイベントで決勝で戦ったけど、おまえの言うことがよくわかるよ」
仙道がそう話すと、僕はその時のことを思い出しながら答える。
音楽のアーティストとして生まれたと思わせるほど、その実力に改めて僕らは認めるしかない。
すると、仙道はその場を離れて裏へ向かっていく。そして、仙道は僕にこう吐き捨てる。
「まあ……俺らがあいつよりいいライブにしてやるからよ。覚悟して見ておけ」
それは僕だけでなく、ステージで演奏する滝沢さんにも言っているようだった。
仙道の目はマジだ。
イベントは勝敗を決めるものではないけれど、仙道の闘争心はすさまじい。そういう気をライブが始まる前から出している。
――わああああああ!
ステージから歓声が聞こえ、振り返ると滝沢さんのパフォーマンスが終わったようだ。
マイクで観客に感謝の言葉を言って、歓声を上げる観客に手を振りながらステージから離れてこちらに戻ってくる。
「……お疲れさま」
僕はライブを終えた滝沢さんにそう声をかける。彼女はやりきったようで満足そうに、僕の言葉に返事をした。
「どうだった? あたしのパフォーマンス。イベントの始まりには、いい感じにスタートできたかな?」
「それは……もちろん。正直、すごすぎるというか」
ライブの感想を聞かれた僕は、どう答えていいかわからず歯切れが悪い。
ただ、すごいという言葉しか出てこない。
「滝沢さん。君に質問がある!」
「いいけど……って、誰?」
「顔合わせはしたと思うんだけど、僕の先輩で」
「こうやって話すのは初めてだろう。僕は和田という者だが、そんなことよりも君に問う」
なんというか、妙にオタク臭さがある言い方だなと思うけれど、和田というよりも金本に近い。
「君がやったギャルゲーソングだが、原曲だけを聴いてカバーしたのかい?」
和田は滝沢さんにそう尋ねる。
あれだけのパフォーマンスができるのは、原作のゲームをやり込まないと表現できっこない。和田はそれを確かめたいのだろう。
正直、僕もそれは知りたい。
そんな和田の質問に、滝沢さんは一言だけ言う。
「あの主題歌って、どちらかといえば転校生の子より幼馴染の子エンディングに使ったほうが良くない?」
それだけ言って、スタスタと去っていった。
「……どういうこと?」
滝沢さんが言ったことをよくわからない僕は、どういう意味があったのか理解できずにいる。
だが、同じように聞いていた和田たちは無言のままうなずいている。
「まあ、つまりそういうことだ」
「え? 先輩たちにはわかったんですか?」
「ああ。滝沢さんは間違いなく原作をプレイ済みだ……しかも、真エンディングまで到達していたのだろう」
「でなきゃ、あんなことは言わないし。曲の本当の意味を理解しているから、あれだけ完璧に弾けたのだろう」
つまり、滝沢さんはギャルゲーをきちんとプレイしたからあれだけのパフォーマンスをできたということ。
そうだろうと思ってはいたが、和田たちがそう感心するくらいだから間違いない。
この短期間でギャルゲーをやった後に曲を練習したとしても、そのスピードと完成度の高さにおどろくしかない。
少なくとも、滝沢エマのパフォーマンスは最高であったしイベントの始まりでは大成功だろう。
「だが、次は仙道君たちだな」
「ええ。あいつらがどう出るか……」
二番手である仙道たちは、楽器を持ちステージへ立とうとしている。
滝沢エマの次だから相当なプレッシャーはあるはずだが、先ほどの仙道からはそんなものは感じられない。
それどころか、かなり気合が入っている様子でピリピリとした威圧感を放っている。
頑張れと声をかけることができないほどの覇気に、僕らは息をのむ。
「よっしゃあああああ! いくぜ!」
そう声を張り上げてさけんだ後、仙道たちはステージへ。
どんなライブをかますのか、僕らはその時を待った。




