第百九十七話「来るイベント本番! 鳴るは通知音」
ついに、この時がやってきた。
今日、僕らの企画した音楽イベントが行われる。
「どれくらいの人が来てくれるんですかねえ……」
「わからんな。まあ、仙道君と滝沢さんらのファンが八割で僕らのギャルゲーソングを観に来てくれるだろう人が二割だろうと思っている」
「どんだけ、僕らの知名度がないんですかねえ」
イベント本番は夕方からを予定している。それまでかなりの時間があるので、僕らは会場近くの喫茶店でたむろしている。
「いや、それよりも金本はどうなんだ?」
「それが、今日に至るまで金本先輩にバレたような形跡がないんですよね」
今日、どれだけの人が観に来てくれるかが心配なのだが、話題はやはり金本のことになる。
実際、僕はこの前金本と出くわした話を和田たちにするのだがそれを聞いてなにかしっくりこない様子の顔を彼らは浮かべている。
あの金本がそこまで気づかないことはおかしいと思っているのだろう。
僕もそれには激しく同意してしまう。
これまでの金本の行動や思考を考えると、ここまで知らないでいるとは到底思えない。
「まああいつのことはイベントが終わるまで警戒はするとして、今日のステージで最高なギャルゲーソングを届けれるようにしよう」
「そうですね」
――プルルルル!
金本のことはひとまず置いておいて、そう和田たちと話していると僕のスマホが鳴る。
スマホの画面を見ると、仙道からの着信だ。
「もしもし? どうした?」
僕は電話に出て、そう仙道に尋ねる。
「おまえら、どこにいるんだ? 会場がなんかすごいことになってんぞ」
「え? なにがどうすごいんだ? 一応、芹沢さんたちにも会場で待機してもらっているけど、特に問題はないと思ってたんだけど」
一応、ライブをやる趣旨は近隣の人たちには通達しているし、警察のお世話にならないように和田が取り計らっている。
そんな騒ぎになるようなことは起きないと思っていたが、仙道のおどろく声を聞いて不安になる。
「どうしたんだ? なにか、トラブルかい?」
「いやあ、仙道からなんですが……なにかおおごとになっているらしんです」
「え? そんなおおごとが起きないようにしたつもりだが。とにかく心配だから、僕らも戻ることにしよう」
「……もっ、もしかしたら金本がやってきたんじゃないか?」
そう岡山が嫌なことを口にすると、僕らは急ぎ足で会場へと戻ることにした。
会場へ到着すると、そこに芹沢さんたちが僕らを待っていた。
「どうしたの? なにか、会場で起きたの?」
「そーそー! あれを見てよ!」
そう響子が話した後、向こうの方を指さす。
僕らはその先を見ると、けっこうな数の人がワサワサと集まっているのを目にする。
「おお! 来たか! 見ただろう? すでにイベントを観に来た人が、あんなに集まってるんだぜ!」
「ああいうの見ると嬉しいよね!」
仙道や滝沢さんもやってきて、興奮気味にそう話に入ってくる。
そこまで告知もしていないのに、これだけ集まったのはすごいと思う。純粋に感動すらしてくる。
しかもイベントがスタートするのはまだ先なのに、早く会場に来てくれたことも嬉しい。
「けど……すごい、パシャパシャと写真撮ってるね」
「ええ。まあ、あまり見ないステージと会場ですからねえ」
「全然アリだよー! SNSの伝達速度はすさまじいからね! もしかしたら、バズって見に来る人増えるかも」
そう響子は話すけれど、にわかに信じられない僕。ま期待は過度にせず、あそこにいる人たちにとっていいイベントにしようと気持ちが引き締まる気分になっていく。
「よーく見ると、明らかにギャルゲーソングを知らないであろう見た目な人ばかりだね」
「ああ! 多分、俺たちのファンだな! 俺らもそれなりに人気なバンドだからよー」
「……そうよなあ」
和田が観に来た人の見た目を見ながらぼそっと言うとそれに反応した仙道は自慢げに言葉を返す。
このイベントは僕らだけでなく、仙道たちも参加するだけあって彼らを目当てに来たというパターンもあるだろう。
僕らのギャルゲーソングを聴きに来たわけではないという理由はわかるが、だからこそ逆に知らしめる。
ギャルゲーソングというものをやるバンドも、決して王道ロックバンドには負けないということを。
「まあ、岩崎君の気持ちはわかるし僕らも同じだ。どうせなら、あの人たちにギャルゲーソングの魅力を知らしめてやろう」
「そうですね! そうしてやりましょう!」
誰を観に来たかより、観に来た人に他のバンドも悪くない。それがギャルゲーソングだとしてもという気持ちでやればいいという思いが強くなる。
和田の言葉に僕はそう思いながら、勢いよく返事をした。
――いますぐにでもライブをやりたい。
それくらい気合が入り直すくらい、僕は感情が高まっている。
「ああ、はやくライブがやりたいなあ」
「そうだね! わたしもそうだよ」
僕が思わずそう声を漏らすと、芹沢さんも同じような気持ちで答えた。
その後もぞくぞくと人が会場へとやって来る。
ビラの効果なのか、それとも仙道たちのファンによる情報からかわからないがけっこうの人が集まりつつある。
「けども、あの中にオタクっぽい人もちらほらいますよね」
「おっ、気がついたようだね。やはり、何人かは来ると思っていたが気になれば聴きに来るのがオタクというものだね」
「新作とかいうか、オリジナルのギャルゲーソングを作りましたって感じでビラにも書いたからも、理由なのかもしれないね」
集まる人の中で、明らかにオタクっぽい風貌の人を見つけた僕はそう話すと和田たちもそれを確認しながら答えた。
そして時間は過ぎてゆき、気がつけば本番まで残りわずか。
もう少しで僕らのイベントでライブが始まろうとしていた。
「よーし! どうせなら、みんなで円陣を組んで気合入れようぜ」
「え? みんなで?」
本番がまじかに迫るタイミングで仙道がそんなことをみんなに持ちかけた。
「まあ、いいんじゃないか? 同じイベントでやる仲間でもあるし」
「そっ、そうですねえ」
「よーし! じゃあ、輪になって肩を組もうぜ!」
そう仙道はみんなに声をかけて僕らに円陣を組ませてると、僕らは互いに肩を組んでかけ声を上げた。
これより、僕らのギャルゲーソングイベントが始まる。
――ピコン! ピコン!
すでにライブに向けて戦闘態勢に入っている中、勢いよく僕のスマホが鳴る。
「岩崎君、もう本番なんだからスマホの電源は切って起きなよ」
「すみません……ん? 動画にいいねがつきました……十件?」
「ほら、岩崎君! いくぞ! まずは、ステージに上がって挨拶とイベントの開始宣言だぞ」
「あっ、はい!」
僕はスマホの画面を少しだけ見て、通知の文字を読んだが和田から急かされてスマホをカバンに投げ置く。
――ピコン! ピコン!
それでもなお、スマホの通知音が鳴りやまないが僕はそんなことを気づかずにステージへみんなと上がる。
とにかく、僕らの音楽イベントが幕を開けた。




