第百九十六話「バレてはいけないアイツが帰ってきた!」
無事にリハも終わり、イベントの全体的な流れをみんなで完璧に頭に叩き込んだところで、この日は解散となった。
後は、本番でそれぞれの全力を出し切るのみだ。
「ということで、本番ではよろしく頼むよ」
「ああ! すげえライブしてやろうぜ!」
「それじゃあ、イベント当日にまた会いましょう!」
そう言葉を交わし、仙道や滝沢さんは会場から去っていった。
「僕らもここで解散しましょうか」
今日の予定はほとんど終わり、部活が終わったのと同じような感じでそうみんなに話す。
そして、みんなが帰り支度をしている途中、和田が僕らを引き留めた。
「みんな、ちょっといいかな?」
「ん? なんですか? なにか、やり残したこととかありましたか?」
「いや、そうじゃないが……言いたいとがあってだね」
そう和田は言いにくそうな感じで言葉を濁しているが、それを見ていた荒木が代わりに答える。
「まあ、こいつが言いたいのはまた岩崎君たちとライブができることに改めて感謝をしたいんだよ」
「そんな……僕らのほうこそですよ」
それを聞いた僕らはおどろく。
和田たちと一緒にまたライブができることに感謝すべきは僕らのほうだろう。
以前にも似たようなやりとりはあったが、イベントが近づくにつれてさらに気持ちがそう実感してくるのは和田たちも同じのようだ。
「いや、そうではなくてだな……」
感動が押し寄せる中、和田はまったくそうじゃないという顔をして、口を開く。
「「え? ちがうの?」」
思わず僕と荒木は同じ言葉を言った。
「ああ、それよりも非常にまずいことになったかもしれない」
和田がこんなことを言う場合、たいてい嫌なことが起きるパターンだ。恐る恐る、僕は和田にそれがどんなものか尋ねた。
そして、和田は起きたことをありのまま話し始めた。
それを聞いた僕と荒木たちは言葉を失う。
「それ、マジな話のか?」
「もしそうならこのイベントをぶっこわされる可能性ありまくりですよ」
「やつなら……なりかねんな」
和田が言ったことはこの音楽同好会にとっての厄災。そう、あの金本がこのイベントの存在をかぎつけてしまったという話。
ジャスティンさんのところから出るゲームの曲制作に参加しているはずの金本が、最近になって学校に登校し始めたというのだ。
「まあ幸い、まだ完全にバレてはいないと思う。なにかライブでもやるつもりかというくらいの感じだと思うけれど」
「いや、それでも危険すぎますよ……」
これまでと違ったイベントほど、金本は張り切ってでしゃばる性格。ましてや、ギャルゲーソングのみをメインにしているとなると、あいつのテンションは計り知れない。
ある程度、予測して金本には内緒にしていたし、参加させる気などない。
あいつには多少なりとも恨みがあるのが僕である。
だが、あの金本の情報収集能力と探知はもはやチート並みだ。もしかしたら、どこかでバレる可能性は非常に高い。
「すでにイベントの進行スケジュールは決まっていますし、あの人が乱入してきたらすべてが台無しになりますよね」
「ああ。どんなに観客が入らなかったとしても、予定通りに進行していく。それは僕らにとってもいい社会勉強になるしな」
「まあ……そうだなあ」
「けっ、けど……金本が僕らの計画とか思惑とか知った後が怖いね」
岡山の言葉に、僕らは無言でうなずく。
あいつの性格をわかっている僕らだからこそ、絶対にバレないで本番を迎えなければならない。仙道たちにも迷惑はかけるわけにはいかないのだ。
あえて言葉を交わさないが、僕らはお互いにどう動くかを理解している。
――学校では知らぬ存ぜぬを決め込み、イベント終了まで絶対に金本の乱入や妨害を阻止する。どんな手段を選んででも。
とりあえず、話がまとまったところでそのまま僕らも帰路につくこととなった。
そして、僕は明日からの学校で、どう行動すべきかを考えるのである。
――翌日。
普段通りに登校して学校へ到着する。
僕は玄関で靴を履き替えると、辺りを見渡す。
金本の姿はない。圧倒的な警戒感で、右左を確認してそそくさと自分の教室へと向かった。
「……金ちゃん、いた?」
「いや、いなかった。まだ学校に来てないってわけでもないだろうけど」
「学校に来るってことは、ジャスティンさんたちとのレコーディングがもう終わっているのかな?」
教室に入るとすでに響子たちがいて、僕が来て早々そんなことを尋ねてくる。
芹沢さんの言うように、金本が通学を再開したということはすでにレコーディングなんかはすでに終了したからと考えるのがいいだろう。
公式なギャルゲーソングのギターとして参加したという事実に胸くそ腹が立ってくる。
「まー、あの金ちゃんのことだから、めちゃくちゃ自慢とかしてきそうー」
「ははは……そうかも」
「それだけならまだいいけど、今回のイベントについて知られるのだけは絶対にあってはならない。和田先輩と話した通りに、響子たちも頼むぞ」
これは同好会メンバー全員に敷くかん口令。
決して金本に会ってもライブのことは、言ってはいけないとみんなには念を押している。
「まあ、このまま金本先輩に会わずにやり過ごしていければいいなあ」
そう僕は淡い期待をしながらも、今日の学校を過ごしていく。
「やあ、やあ! 岩崎君! ひさしぶりではないか! 元気にしていたかね?」
「金本先輩……」
放課後、玄関に向かう途中まさかの金本が現れて僕に声をかけてくる。今日は貸しスタジオでの練習を予定していて、芹沢さんたちを一足先に向かわせている。
このタイミングで現れた金本に僕はおどろきながらも、すぐに冷静に対処しようと試みる。
「ひさしぶりですね。レコーディングはどうでしたか?」
「よくぞ聞いてくれた! 実はだねえ」
金本は自慢げに、これまでのレコーディングについて語り始める。その口調は実に軽快だ。まあよかったのだろうなという印象だが、僕は聞き流す程度に話を聞いた。
「ぜひとも、発売されたらゲームを買うのだぞ! この金本様のギターが聴けるのだから」
「はっ、はあ……そうっすねえ」
「それよりもだ……」
話がひと段落した後、金本の顔が妙に変わる。そして、こちらをじっと見つめて話を変えてくる。
「和田たちの様子がなにやらおかしいのだよ。なにか、こそこそしているような感じがしてねえ」
「へっ、へえー。ひさしぶりに会うから、金本先輩をハブっているんじゃないですか?
「きええええええい! そんな心の狭い人間と友達になっておらんわあああああ!」
「はっ、はあ……」
「岩崎君。なにか、この僕に隠し事をしているのではないかね?」
――ギクリ。
金本の言葉に思わず、息をのんだ。
ここで核心に迫るような問いを僕にぶつけてきたからだ。
「ははは! 金本先輩に隠し事なんかないですよ! というか、隠せないじゃないですかー」
「ふむ。まあ、たしかにそうだなあ」
「あっ! すみません! 今日は最近買ったギャルゲーをやりたいんで、これで失礼しまーす」
僕はそう誤魔化しながら逃げるように、去ろうとする。
「まちたまえ! 岩崎君」
ささっと歩き出そうとする僕に金本が引き留める。さすがに、まずかったかと思い振り向くと金本が勢いよく近づいてきた。
「ひっ!」
「ギャルゲーをやることはすばらしいことではないか。そんな君に、僕からのプレゼントだ」
そう言って金本はカバンから、やたら分厚い箱を取り出して僕のカバンに押し込む。
「あの……これは」
「ここだけの話、ジャスティンから出る発売前のギャルゲーだ。誰よりも先に、君にプレイしてもらいたくてな……和田たちには内緒だぞ」
そう小声で話し、金本はギャルゲーを渡してすぐに退散する。
――バレなかったのか? うまく、出し抜けたか?
金本が食い下がったようにも思えてしまうくらい、さらっと事が終わってしまった僕は疑いながらもホッとする。
「とりあえず、貸しスタジオに向かうか」
なんとか、災難を免れた重いギャルゲーが入ったカバンを背負ってみんながいる貸しスタジオへ向かうことにした。
本番までもうすぐ。
金本のことはひとまず忘れ、僕は玄関へと走っていった。
だが、遠くのほうでこちらを見つめる人影に、僕は気づかないのであった。




